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コムドット やまと『聖域』感想 __生きるということ

 

はじめに

 「コムドット」というのは、リーダーのやまとを中心に「地元ノリを全国へ」「放課後の延長」をスローガンに掲げて活動する5人組のYouTuberである(Wikipedia)。そのコムドットのリーダーのやまとさんがKADOKAWAより、こちらの本を出されました。

 

 

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71tSUo9YxvL.jpg

 

 タイトルは『聖域』。Youtuberの動画を普段そんなに観ないこともあり、著者のやまとさんのことはあまり存じ上げませんでした。しかし、帯にもあるように「40万部突破!!!!!!」しているらしいです。出版不況と言われて長く経ちますが(バルザック『幻滅』にすでにそのような記述を発見して吃驚しました。)、そんな中で40万部もの売り上げを叩きだしているのですから、面白いこと請け合いです。思わず買ってしまいました。「遅ぇよ時代。」と書いてありますが、こういった現代の先端を行く人の考えに触れることで、その時代に追いつこうと思います。どういったジャンルの本なのか表紙や著者からは分かりませんが、そのような想いを胸に馳せながら、ついにページをめくりました。

 

内容

 ページをめくって、まず目に飛び込んでくるのが「写真」です。おそらく著者のやまとさんと思われる写真が、上質な紙にカラーで印刷されています。しかも、何とそれが18ページもあります。著者近影をそんなに載せなくても良いし、印刷代がかかって大変なのではないか?とも思いましたがKADOKAWAの懐の広さなのかもしれませんね。因みにこの本の価格は1300円(税別)なので、こんなに写真を載せているにしてはすでに非常に安いと思います。

 写真ページを乗り越えると、目次があり、この本の構成が確認できます。ざっと以下のような感じです。

 

はじめに

0章 プロローグ 鈴木大飛を構成する7つの鍵

1章 可能性を解き放て やりたいことの見つけ方

2章 自己肯定感は最強の武器 夢を追うのに準備はいらない

3章 地元ノリを全国へ 人生を誰よりも楽しむために

4章 終わりなき挑戦 時代は自分で引き寄せる

おわりに

 

それでは、いよいよ内容を読んでいくことにしました。

 

はじめに

 「はじめに」では、著者のやまとさんが『聖域』を書くにあたって何を思っているのかが語られます。『聖域』は、どうやら「夢をかなえる」ということがテーマらしいです。

 ここで印象的だった点は、やまとさんの肩書は「革命家」であることの激白です。その部分を抜きだしてみます。

 

僕の肩書きは「Youtuber」や「インフルエンサー」などが妥当なところだと考えられがちですが、僕があえて自分に肩書きをつけるなら「革命家」です。(中略)これに関してはジョークではありません。心からそう思っています。(コムドット やまと『聖域』KADOKAWA pp. 22)

 

いきなりの政治思想の吐露に仰天してしまいました。あまり暴力的なことは嫌いなので革命思想には距離をとり、社会民主的な在り方を目指していきたいと考えているのですが、やまとさんはそうではないらしいです。「革命家」の方のいう「夢をかなえる」方法は、暴力も辞さない強権・強硬的な態度に終着してしまわないか、という一抹の不安を抱えながらもさらに歩を進めていきました。

 

0章 プロローグ 鈴木大飛を構成する7つの鍵

 ここでは、やまとさんの過去や、考え方について語られます。副題にある「7つの鍵」というのは、

 

1.イケメン

2.ナルシスト

3.変人

4.しつこい

5.探求心

6.目立ちたがり

7.ビビり

 

ということらしく、それぞれの性質について自身のエピソードが語られます。7つエピソードトークが語られますが、それらの中身は、いずれも「他人の眼ではなく、自分の意見をしっかり持つ」ということを語る結論になっていたと思います。

 構造的には、「イケメン」、「目立ちたがり」については、立項しなくても「ナルシスト」に入れられるだろうと思いました。また、「しつこい」と「探求心」についてもどちらか一方でよさそうに思います。さらに、「変人」を立項してしまうのもどうかと思います。「変人」というのは、「ナルシスト」や「目立ちたがり」や「ビビり」なやまとさん全体を包括した概念だと思うので、「変人」で立項してしまうと他の立項が意味をなさなくなってしまうのではないかと思います。いずれも同じ結論に至っているのだから、読者としては、情報は少ない方がありがたいです。

 

1章 可能性を解き放て やりたいことの見つけ方

 この章では、「自分のしたいことをした方が良い」ということが書かれています。そして、その見つけ方として「外へ出ろ」・「自分を知れ」という2つの方法を挙げています。「地元ノリを全国へ」を標榜しているやまとさんが「外へ出ろ」というのはなんだか意外でした。

 「外へ出ろ」というのは、「様々な体験をしないと本当に自分のしたいことが見えてこないから」という理由からで、実際にやまとさんが行ってきた体験が併せて載せてあります。大学のミスターコンクールに出場したり、短期留学に行ったり、学生企業を企画したりと、正直、「”意識高め”な大学生」のしそうな体験の範疇を超えないようなものばかりに感じてしまいましたが、その結果たどり着いた自分のしたいことが「地元ノリを全国へ」であるなら妥当であるところでしょうか。

 「自分を知れ」に関しての記述は、自分の読解力がないのか、何を言っているのかが良くわからなかったです。とりあえず「自分を知れ」ということらしいです。

 

2章 自己肯定感は最強の武器 夢を追うのに準備はいらない

 この章では、目的と目標意識を持って努力することが必要であるということが語られていました。そして、「周りに流されるな、自己肯定感を持て」というようなことが書かれていたと思います。

 教えに関しては陳腐に過ぎ、何も言うことはないのです。印象に残ったのは「努力の方程式」という部分でした。

 

努力の正しい方程式は「量×正しいベクトル」である。(コムドット やまと『聖域』pp. 76)

 

比喩表現として方程式を用いている文章が好きなので目に留まってしまいました。この定義に従うならば、「努力=量×正しいベクトル」となりますが、それでは「量」と「正しいベクトル」の主語が分からなくなってしまいます。「量×正しいベクトル」で何が導き出せるのかはよくわからなかったです。その後のページでも、「夢がかなうまで努力をしろ」と書いてあるので、結局「量」なのではないかなと思いました。

 また、コムドットは「日本を獲る」ことを目標に掲げていますが、どうしたら「日本を獲った」ことになるのでしょうか。「日本を獲る」ための活動としてYouTubeは「正しいベクトル」なのでしょうか、といった部分については一切語られないので、そこも解説があればよかったと思います。

 この部分(「努力の方程式」)には、コムドット黎明期に原宿で一人ひとりに声をかけてチャンネル登録者を増やしていったエピソードが書かれていました。2行程度にさらっと書かれていましたが、「テストで何点とった」とか「ミスターコンテストに出場した」とかよりも、こうした地道な努力を続けた経験が今につながっているのだとして、もっと掘り下げたほうがいいのではないかなと思いました。

 

3章 地元ノリを全国へ 人生を誰よりも楽しむために

 周りの意見を気にするなという、何度も書かれた話を除けば、

「コムドットのメンバーサイコー!!!」

という内容でした。ここでまたコムドットのメンバーの写真と寄せ書きが数ページありました。金がかかっています。終わります。

 

4章 終わりなき挑戦 時代は自分で引き寄せる

・自分がしたいことをしろ

・オンリーワンに成れ

・自己肯定感

以上。

 

おわりに

 アンチなんか気にすんなよ、ということと「日本を獲る」という目標に邁進していく所存が語られていました。頑張ってください。革命でも起こす気なのでしょうか。ラストのページにはまた16ページものカラー写真が掲載されています。こんなにカラー写真を載せて1300円は安いです。

 

 

おわりに

 読むのが苦痛で途中(序盤)から投げやりになってしまいました。全体として同じことの繰り返しや要領の得ない体験談、記述内容もばらばらで、何を伝えたいのだという感じでした。しかし、この本はクソの役にも立たないような内容ですが、もともとがファンブックなので、そこまで悪い印象を持ちませんでした。アマゾンのレビューにはコムドットのファンと思われる”激推し”の意見とそれ以外(やまとさんに言わせれば「アンチ」なのでしょうか)に分かれています。Youtubeにも、この本を酷評する内容の動画があげられていたりします。そうした反対意見が出ている現状が、まだ健全なのではないかと思います。メンタリストのDaigoさんの本やキングコング西野さんの本は、別に「ファン」に向けたという体ではないのに、ネガティブな意見を書いているブログやレビューを見つけることも難しいですし、Youtubeにも書いていることを無批判に受容し、内容を持ち上げている動画ばかりです。論拠が怪しい主張を、あまりにも具体的な場面に適応し、それが糾弾されないような大半の軽薄なビジネス書に比較して、『聖域』は健全なのではないかと思います。