はじめに
去年ランキングをつけてみて、それがノベルゲームをプレイするモチベにもなったので、今年もとりあえずつけてみることにしました。今年は感じたことをメモしながらプレイしていて、感想も、それぞれの作品についてプレイ後すぐ書いているので、最低限レビューとしての機能は果たせていると思います。感想を述べる上で、ストーリー展開上で重要だと思うネタバレは避けていますが、個人の匙加減なので悪しからずに。一番最後に目次を載せておきます。
本編
ストーリー、キャラ、曲、グラフィックをそれぞれ9点満点(数字の大きい方が高評価)で適当に評価しているが、作品のメッセージ性やシステム面等、そのほかの点も総合的・主観的に考慮しているため、点数の合計とランキングは比例しない。
以下ランキング開始。全23作品。下位から順に。
第23位 Clover Day's
ストーリー:4
キャラ:5
曲:7
グラフィック:8
後に出てくる『Clover Heart's』が制作会社(ALcot)の処女作であり、本作は会社設立10周年を記念して作られた。『Clover Heart's』と世界観を共有していて、街のCGや学園の制服のデザイン、キャラクターなどが流用されている。『Clover Heart's』をプレイしていなくても大丈夫だが、プレイしているといろいろと設定が引き継がれているところが発見できて楽しい。
CGは綺麗。立ち絵も、キャラごとに多少出来の差はあるものの、妹キャラ2人を中心に、全体的に良いと思う。差分も多い。キャラごとのルートをクリアするごとに、メニュー画面の背景が変化して、流れている曲の演奏される楽器の種類が増えていく演出は良いと思った。
どのルートを選んだかによってキャラ別にOPの演出が別々にあったので、そこは良いと思った。ただ、個別ルートクリア時にEDに移行せず、フリーズすることが何回かあって、幾度かやり直しをさせられたので、そこは気に食わない。OP、EDの曲自体は良かった。
現在の中に、過去の回想が挟まりながら物語は進む。各ルートの節々に、主人公の暗い過去が暗示されるような描写が挟まる。「思い出」がテーマに据えられており、ヒロインはほとんど全員が幼少期から主人公と関係がある。共通ルートでは、各ヒロインと主人公との関係が、現在に至るまで、どうやって構成されてきたか、過去から現在まで、それぞれのキャラクターが、どのように主人公を観て、どのような印象を抱き、それが変化していったのかが描かれる。個別ルートが作品のメインで、ルートは、「加賀美 ヘキル&加賀美 ヒカル」、「竜胆 つばめ」、「結橋 泉」、「鷹倉 杏璃」、「鷹倉 杏鈴」の5種類ある。
「加賀美 ヘキル&加賀美 ヒカル」ルートは、幼少期に転校したが、10年経って戻ってきたという設定。双子の「加賀美 ヘキル」と「加賀美 ヒカル」について描かれる。主人公と付き合うのは、「加賀美 ヘキル」のほうで、「加賀美 ヒカル」は表面上では「加賀美 ヘキル」を応援するも、そのなかで、自分も主人公を慕う気持ちに気付き、さあ、どうするか、という内容。主人公が、「加賀美 ヘキル」と付き合いだすのだけれど、その後中盤まで、主人公の言動が単純な性衝動に由来するものになっており、やめてほしかった。主人公も、そのノリを受容するヒロインも気持ち悪すぎる。終盤の展開も、並。この作品に限らず、双子のキャラを同時に攻略させるルートは、特にこういう正統派学園モノの雰囲気を漂わせる作品では、雑にキャラを消化した感じがして、あまり好きではない。主人公のハーレム形成に対して、周囲の人間が、誰も反対したり、嫌悪感を示したりせずに、「応援する」という立場を採るのは、単純でよくある展開なのだけれど、受け入れ難いものがある。
「竜胆 つばめ」ルートは、廃部寸前の演劇部を再興させる、熱血部活モノっぽい感じに、ヒロインの、主人公に対する想いと葛藤を織り交ぜたシナリオ。シナリオ自体は、ヒロインの葛藤や演劇部関連の話は上手い具合に纏められていたと感じる。しかし、主人公のセリフや、話の展開の一部から、ライターの倫理観を疑うような描写があり、気になった。発情している犬を放っておきながら微笑ましく会話を続ける飼い主同士の描写や、「強姦が許される犬社会はうらやましい」というような主人公の発言がギャグ的なノリで描かれる場面があるのだが、悪意なくこういうことを書いてそうで、無理。他にも、主人公はヒロインと付き合いだしてから、性衝動を所かまわず振りまく言動が増加しており、ヒロインのことを自信の性欲処理のための道具だと思っているのではないか疑わしくなるような描写も多数あった。
「結橋 泉」ルートは、ヒロインとサブヒロインの家庭環境と、それに絡めたヒロインの内面の描写がされる。こちらは、ヒロインの葛藤の描写は良くできていた。それぞれ家庭環境に振り回されるヒロインとサブヒロインの感情や苦労、その二つの関係のシナリオ上での融合のさせ方は良く描かれていたと思う。〆方は微妙に感じたが。
「鷹倉 杏璃」ルートは、学園の生徒会の選挙の話が中心に据えられるが、正直、一番このルートがつまらなかった。シナリオがほとんどこじつけに見える。あと、主人公が気持ち悪い。
「鷹倉 杏鈴」ルートは、シナリオは、家族関係が取沙汰されるのだが、例によって、主人公とくっついた後の話の展開は上の3つと大きな差はない。くっついて、問題が顕在化してきて、それを解決して、大団円。ただ、なぜかラストはヒロインじゃなくて、サブキャラがメインになっていた。あと、主人公が気持ち悪い。キャラデザと声が一番良いので、このキャラがいなかったら途中でこのゲームを投げていた。
個別の感想が長くなったが、概して、個別ルートでの主人公は例外なく気持ち悪く感じてしまい、ハマることができなかった。ヒロイン全員が主人公のことをただただ持ち上げるだけで、恋愛モノとして、対等の関係になっていない。ヒロインと付き合ってからの、ただ乳繰り合っているだけのパートの描写が長く感じてしまったのも面白く感じられなかった一因かもしれない。ほめられるのはヒロインのキャラデザとOP、ED曲だけ。
第22位 春季限定ポコ・ア・ポコ!
ストーリー:4
キャラ:5
曲:5
グラフィック:4
音楽系の学校を舞台とした作品で、演奏することをやめたチェロ引きの主人公(天才)が、必要に迫られて、もう一度合奏を行おうとする中で、自分やヒロインらの過去の葛藤と向き合っていく、といった内容。ミドルプライスの作品で比較的安く、短い。
システム面は良好でわかりやすく、画質もいい。立ち絵や背景は、あまり細かい描写はなされていないが、逆に目立って悪いということもない。価格相応。
話の流れは、シンプルでわかりやすくまとまっていたと思う。下手に長くない分、すっきりしている。コミカルなノリで進む日常パートも読みやすかったように感じる。活動内容は音楽の話であるが、そこまで音楽や藝術について深入りしないので、前提知識は必要としない。
攻略可能ヒロインは「一 桜」、「野々宮 藍」、「悠木 夏海」の3人であり、途中まで共通ルートをプレイした後に、選択で分岐する。「一 桜」ルートについては、重い話をしている中に始まる唐突なエロシーンに驚愕。過去の清算とか、つらい現実からの逃避などといった類ではなく、純愛的な展開が急に始まってびっくりした。また、自分の過去を引きずったり、トラウマを抱えてうじうじとする描写が冗長に感じた。終わりも唐突だったように思う。「野々宮 藍」ルートについては、このヒロインが義妹であり、主人公の家族関係の描写がメインであった。このルートは、微妙な関係になった家族それぞれの立場の想いが描かれていて、感動要素もあり、意外とよくできていたと思う。「悠木 夏海」ルートについては、普通に甘い恋愛系のシナリオがメインで、これはこれでありだったと思う。全体的には価格相応のクオリティだったという印象。キャラはまあ良し。中身が薄いのであまり語ることもない。
第21位 アオイトリ
ストーリー:5
キャラ:5
曲:7
グラフィック:7
接触した相手を幸福な気持ちで満たすことができる(実際には何でもできる)能力を持つ、幽閉されている主人公が、演劇を通してヒロインらとの関係を構築していく話。
会話のノリがうすら寒い。主人公の倫理観には疑問を抱かざるを得ない。その点に関しては主人公自身も作中で自己言及しているので、設定の一部であることを強調して、それを免罪符としているのかもしれないが、それでもなかなかキツいノリがあった。主人公が中途半端にモラリストぶっているのもイマイチで、そういう路線ならとことん振り切った方が良いと思う。この作品の世界観には「理性」が存在していないのではないかと思わされる。あまりにも過剰に人間が本能に流されている。
ストーリーは面白くない。設定のオリジナリティはあるものの、ヒロインの性格付けや主人公との関係の構築に関しては全く凡庸で、序中盤は読んでいて非常に退屈した。問題解決に際しても、主人公の「万能能力」によってすべて解決という流れが甚だ感情移入を阻害していて、各ルート感心をもって観ることができなかった。ルートごとにキャラクターの性格が違って整合性の取れていない部分もあり、また、設定についても活かされていない部分が目立つ。あるルートでは重要な設定を、別のルートでは都合をつけるためか夢オチで済ませる等、ばかげている。それらについて、終盤で一応の説明をつけてはいるが、途中まで説明なしに設定を無視したり、キャラの性格が変わったりするため戸惑うし、その説明のつけ方も投げやりな印象。グランドルートについて、その内容を最後に配置する展開の良さはあったが、この作品で正直褒められるのはそれくらいかと思う。
悪い点を数々上げていった。どの点も致命的に悪いというわけでもないが、そういった細部の綻びが積み重なって、作品全体の”薄さ”につながっているのだと思う。万能能力を持っている主人公はただでさえ御都合主義になりやすく、読み手はノリにくいのだから、そういった細部に注力してもらわなくてはならない。
第20位 アマツツミ
ストーリー:5
キャラ:4
曲:7
グラフィック:7
発した言葉で相手を操ることができる”言霊”の能力を持つ一族の主人公が、人間の里に下り、ヒロインらとの関係を構築していく話。
キーコンフィングは沢山出来て、マウスの挙動でのショートカットも10パターンも設定できる。そんなに使わないが。背景の画像は綺麗で、水面も描写は動きもあって、良かったと思う。キャラデザは、そこそこ好みであった。
各ヒロインの話はそこそこ面白くまとまっており、それぞれのルートでそれなりに散りばめられた伏線も回収されている。それぞれのルートのクオリティに差があまりなく、各ルートの終盤は楽しめた。
シナリオについては、上記に挙げた長所以外はすべてがダメである。まず、キャラクターの倫理観の欠如が挙げられる。同一の制作会社で、先述の『アオイトリ』にもそのあたりに疑義を感じたが、こちらのほうがよりそういった点に関しては強く不快感を覚えた。初っ端から主人公は、自分の能力を使って洗脳し、ヒロインの家庭を洗脳し、家族として受け入れてもらうことにしようと画策し、実行した。これは流石に如何なものか。それでも、「いずれこの関係は終わらせる。」みたいなことを序盤は言っている。しかし、共通ルートが終了した直後に、主人公と同じ能力を使える別のヒロインが、洗脳を上書きして、その「疑似家族」状態は継続されることとなる(ドン引き)。さらに、この作品は、トゥルーエンドまでのストーリーラインが定まっていてかつそのストーリーラインの途中から分岐する形で個別エンディングが複数設定されている、所謂「途中下車方式」が採用されているのだが、トゥルーエンドに至るまでのストーリーライン上で、ヒロイン全員と性的関係を持つことがデフォルトで設定されている。ヒロインもヒロインで、恋愛感情から発した主人公との関係で、肉体関係を持った直後に「恋人としては見れない......」、「このまま友達で......」とか言われても、それを素直に納得して、そのまま何食わぬ顔で和気藹々と共同生活を続けるのもおかしいだろうと思う。
作品全体に言えることだが、倫理観の欠如に加えて、キャラの内面の描写が薄く短いため、感情移入ができない。一応、感動系の話であるのだが、どんな描写をされてもそういった倫理観の欠如がちらつき、どこか他人事に感じてしまう。作中での主人公の成長もあまり感じられない。
駄作とまではいかないが、もっとキャラの作りこみを頑張ってほしい作品。
第19位 Clover Heart's
ストーリー:5
キャラ:6
曲:6
グラフィック:5
主人公が2人で、最初の選択肢によってどちらの視点から物語が進むのかが決まる。序盤は、よくある感じのドタバタラブコメみたいな流れで進んでいく。そういった日常パートからだんだんと主人公らの過去に焦点が当てられて、それぞれが抱えている問題が露呈してくる。それを、ヒロインと過ごすことによって向き合い、解決していくといった内容。
システム面は悪い。音量調整で、マスターボリュームでの調整ができないから、一人ひとり音量の設定をしなくてはならなかった(めちゃくちゃめんどくさい)。テキストの表示も、MAXに調整しても一瞬で表示されるようにならない。未読スキップはできない。既読スキップもできたりできなかったりする。BGMはなぜか10秒でループして、しかも切れ目が不自然だから違和感をめちゃくちゃ覚える(これに関してはバグかもしれん)。曲自体の出来は普通だと感じる。ただ、種類は少ない。
ヒロインのキャラ付けは好き。メインヒロインはパッケージの金髪の双子で、見た目はほぼ同じなのだけれど、性格はお調子者としっかり者の対照的な2人がヒロイン。こんな設定は使い古されていて、ジャンクフードみたいなキャラ付けなのだけれど、この作品をプレイしたのがノベルゲー2か月ぶりで、さらにその間ラブコメ作品に触れていなかったせいで刺さってしまった節がある。立ち絵と声優が良かった。ただ、CGに関しては全体的に安定しない。
ストーリーについては、全体的にあらゆる描写が冗長に感じた。日常パートもだらだらした感じがあるし、主人公が煩悶している描写も、同じ内容を何度も何度も読まされて、話が進まない感じがして疲れる。さらに、2人の主人公にそれぞれ4つずつあるチャプターの内、両方ともにほとんど情事に耽っていて話が進展しないチャプターがある。登場人物それぞれの会話の片隅に、ちょくちょく「過去になにかあった」ことを感じさせるものがあるが、話に起伏のない場面が多く、あまり集中して進めることができなかった。しかも、そうして仄めかされる「過去になにかあった」ことについても、ふたを開けてみれば話の展開にあまり影響を与えないようなものもしばしば。
また、このゲームは「白兎」編と「夷月」編に分岐するのだが、「白兎」編の序中盤、主人公が癇癪持ちで、しょっちゅう逆ギレするし、自分の悪い点を認めずに正当化しようとする。それによって、主人公の過去のトラウマを暗示しているのだとしても、あまり見ていて気持ちのよいものではなかった。「夷月」編は、主人公の行動や人格形成に「いや、そうはならんだろ......」ってなることが多かった。また、ヒロインが主人公に恋愛感情を持つに至る過程の描写が、「白兎」編では多少なりともあったのだが、「夷月」編には、あまりにも存在しない。キャラクターが薄い。
第18位 キミのとなりで恋してる!
ストーリー:5
キャラ:5
曲:5
グラフィック:6
メーカー指定セールのときに抱き合わせで買った。BGMは可もなく不可もなくといった感じ。当たり障りのない印象だが、作品の雰囲気を壊したりするといったこともなく、良くも悪くも「普通」といったところ。OPは、静かで透明感のある雰囲気で、結構好みだった。また、サブキャラである妹キャラの作りは優れていたと感じた。
タイトルからして安易なラブコメ作品なんだろうと思っていた。実際に本編の中身はそのような感じ。祖母に「1週間以内に嫁を作れ」と指令を受けた主人公が奔走して、3人の嫁候補の中から1人を選ぶという展開になる。ヒロインキャラは、「小松 莉奈」、「星野 なぎさ」の幼馴染2人と、急に主人公(陸上の天才)目当てで転向してきた上級生の「知花 涼香」1人。作品の性質上、それぞれの個別ルートの感想を述べる。
「小松 莉奈」ルートは、良かった。主人公と幼馴染で、「自分はそういうキャラじゃないから」という枷を自分で嵌めて、関係を発展させられないもどかしさや、主人公の告白を受けた際のそっけない返事で、これまでと変わらない関係性を表面上取り繕おうとするところはよくできていたと感じる。他のルートでもそういったところを感じさせる描写がされていたので、子のキャラは最後に持ってくるべきだったかもしれない。「知花 涼香」ルートは、雑な印象を受けた。主人公に対して急に積極的になっていくのは、「幼馴染2人には普通にしていてもかなわない」という感情が表されていてよかったが、それ以降は、「私の陸上のパートナーになってほしい」という言葉以上のものがなく、なぜ、それで主人公がこのヒロインになびいたのかが良くわからなかった。「星野 なぎさ」ルートは、望まれてない誕生だとか、サブキャラの重い話が結構されていた。まぁ、サブキャラのこういった話を別に枠を取ってやられるよりはついでにこうして消化してくれた方が、キャラも活きるし、重いだけのつまらない話にもならないからよかったと思う。途中までは、ヒロイン自身の陸上部員としての選手性に話の重点が置かれていたが、途中から主人公の陸上選手への復帰に着眼がされるようになり、キャラのヒロイン性が薄くなっていたように感じる。
全部のルートを終わらせた後の、ED以下の演出については良かったと思う。意外と感動できた。同じ制作会社の『リアル妹がいる大泉くんのばあい』のような感じで、綺麗な演出だった。また、本編とは別についているサイドストーリーについてもよい発想であったと感じる。妹キャラや、主人公の親友枠の話は、本編で枠を取って書いていたとなると、内容が重く、辟易としてしまっていただろう。サイドストーリーとして、別枠でくっつけることで、ミドルプライスの製品でありながらも、キャラの掘り下げができていて、すっきりと纏められていた。ミドルプライスの作品としては十分な出来だったと思う。
第17位 ゴア・スクリーミング・ショウ
ストーリー:6
キャラ:7
曲:7
グラフィック:6
凌辱・グロ・ホラー展開が強調される作りとなってはいるが、ストーリーに目を向けてみると、それぞれのルートを通して、ただ独善的なガキであった主人公の人格や価値観が成長していく様を描いている教養小説チックな面があったり、また、ヒロインの1人である「ユカ」ルートは純愛モノとして見ても面白い作品であった。
ヒロインは5人いるのだが、あくまでメインのヒロインは「ユカ」である。各ヒロインは、主人公に執着する「ユカ」から凌辱の限りを尽くされ、理不尽に惨たらしい目にあわされてしまうルートが多いのだが、「ユカ」ルートを観ると、「ユカ」がどういった想いでそのような所業に臨んでいたのかが明かされる。それは決して複雑な想いではなく、単純で純粋なもので、だからこそこちらに訴えかけてくるものがある。「ユカ」ルートを観た後では、他のルートでの「ユカ」の見方も変わってくる。EDの演出も良く、「ユカ」ルートの最後に流れるEDの歌詞は、「ユカ」の心境を詰めたものとなっており、浸ることができる。このゲームは「ユカ」に対してどれだけ感情移入できるか、好きになれるかが肝で、「ユカ」が好きなプレイヤーなら泣けるだろうと思う。
また、タイトルにもなっている「ゴア」のキャラについても良かった。奇妙奇天烈なキャラで、ただの狂ったキャラクターとしての第一印象があるが、こちらもまた行動原理が単純で、且つ一貫しており、ある種の愛嬌を覚えるようにもなる。また、ふざけたキャラとして幾度となく登場してくるが、それでいてもホラー展開を担うキャラクターとしてしっかりと「怖さ」の演出ができているのも良かった。
強固なストーリーは存在しており、作品として描きたいものがあるというのは十二分に伝わる、良い作品ではあると思うが、パッケージの雰囲気からただよう、凌辱・グロ・ホラー展開等も当然入っているので、確実に人を選ぶ作品ではあるが、この作風でなかったら埋もれていたであろうと思う。
第16位 加奈 ~いもうと~
ストーリー:6
キャラ:5
曲:6
グラフィック:1
田中ロミオ処女作。余命いくばくかの妹と主人公の兄がメインの話で、互いに惹かれあっていくなかにある葛藤が描かれていく。ENDは6つあるものの、どれも大筋はほとんど同じで終わり方だけが異なる。
キャラについて、古い作品であるのでしょうがない部分もあるのだが、立ち絵やCG少なく、攻略可能ヒロインも実質一人のみである。また、立ち絵も結構悪いのだが、こちらは描こうと思えば当時でももう少し行けたのではないかと思う。曲については、数は少ないものの、良い曲がそろっていたと感じる。
主人公への感情移入のさせ方は妙技である。初めは嫌っていた妹を、守るべき対象として見るようになり、やがては恋愛感情を抱くようになる主人公の心の移り変わりの様が抵抗なく読者に入ってくる。話の展開も変に捻ったり衒学的でなく、一本道のシナリオなのでわかりやすい。「泣かせよう」というわかりやすいシナリオの展開で、その中にライターの死生観についてもよく出されており、”ロミオらしさ”というのも十分に感じられた。”奇跡など起こらない現実をどうやって生きるのか”、といったメッセージが語られているのがやはり面白い。
しかし、6つのルートがほぼ同じもので退屈することや、シナリオも些かありきたりな展開に思える部分もあり、そういった欠点もままあるが、エロゲの草分け的な存在なことと、ロミオのデビュー作ということでプレイする価値はあった。
第15位 車輪の国、悠久の少年少女
ストーリー:7
キャラ:8
曲:8
グラフィック:5
『車輪の国、向日葵の少女』のファンディスク。そのため、キャラの設定やBGMは前作から引き継がれている。『車輪の国、向日葵の少女』のヒロインである4人の後日譚と、前作の冒頭で射殺された「南雲 えり」の前日譚。前作の悪役を務めた「阿久津 将臣」(=「法月 将臣」)ルートの6つの話が入っている。
ヒロインたちのルートは、後日譚的な要素なので、全てのルートで、軽い日常系のようなノリで話が進んでいく。ストーリーには基本的に大きな起伏もない。ただ、ファンディスクの在り方としては、こうした後日譚パートでひねる必要はないと思うので、真っ当であると思う。ヒロインたちの声や立ち絵を鑑賞しながら、『車輪の国、向日葵の少女』をプレイしていた時のことを思い出して、懐かしむことができたので、よかった。
しかし、このファンディスクの目玉である「阿久津 将臣」ルートは、アツかった。前作で敵役であった「法月 将臣」の過去や境遇が語られ、その生き様に感動する。前作での面白い部分を纏めたような内容となっている。だれることもなく、一気に最後まで駆け抜けることができたのも高評価である。本作で新たに出てくる敵役や、親友キャラ、ヒロインについてもとても魅力的だった。
ファンディスクなので、前作のプレイは必須だが、『車輪の国、向日葵の少女』をプレイして、面白いと感じた人は、この作品の「阿久津 将臣」ルートだけでもプレイする価値はあると思う。ルートをすべて終わらせると、おまけにギャグのような短いパートが解禁されるので、CG回収にはそれもプレイする必要があったが、あまり面白くもなく正直プレイする必要はなかった。
第14位 あの晴れわたる空より高く
ストーリー:7
キャラ:4
曲:6
グラフィック:5
まっすぐな青春系部活モノ。意図せずに入部することになった部活で、ロケットを作り、大会で結果を出すために主人公とヒロインらが奔走していく。
テキストは読みやすく、テンポよく進めていくことができる。しかし、基本的にロケットを作る部活動をしているシーンなので、製造から燃料、打ち上げまで、結構な専門用語(解説は随時みられるようになっているが)が並んでいるため、慣れるまではそういった用語を確認しながら読んでいたので少し手間取った。
正直キャラの立ち絵は微妙で、声優も棒読みに思えるキャラが何人かいる。「伊吹 那津奈」、「導木 ほのか」、「黎明 夏帆」、「暁 有佐」の4人がメインヒロインとして据えられているが、ルート分岐の影響はほとんどなく、どのルートも大筋は同じで、誰の作業を手伝うのか、誰とくっつくのかが変わる。4人全員のルートが終わった後に、誰ともくっつかなかった世界線の後日譚としてのTRUE ENDの「Liftoff!」ルートとなる。
一番初めにプレイした「伊吹 那津奈」ルートは楽しめなかった。ヒロインである「伊吹 那津奈」は、本当に不愉快であった。まともな言葉を話すことができない。擬音や造語を連発するのを日常生活から行っており、それでいて、「まじめに話せ」と言われると泣き出して、まるでその電波言葉を理解できなかった方が悪いかのようにふるまう。感情論で動いていることが多いのだけれど、そこに電波な言葉で理由付けしてくるものだから、プレイしていてマジでキレそうになってた。
「導木 ほのか」ルートは、会話のテンポはよく、すれ違いコントのようなノリで進む会話が少し冗長と思える部分もあるが、特に目立った欠点には感じず、そこそこ楽しめた。
「黎明 夏帆」ルートに関しては1つのルートとして無難に良かったと感じた。ヒロインも他の3人に比べればキャラとしての欠陥もなく、展開も程よくまとまっていた。
「暁 有佐」ルートに関しては、ヒロインの理不尽な暴力はいささかやりすぎではないかと思うような部分はあったが、4つの個別ルートのなかでは一番アツい展開だったと思う。
「Liftoff!」ルートは、部活モノの王道という感じがして、また、この作品を最後に纏める話としては秀でていたと感じる。綺麗に、爽やかにこの作品が終了して、消化不良感も残らず、良かったと思う。
先述のように、個別ルートはヒロインの差だけで、展開は基本的には変わらない。そのため、この作品は根底にある1本のルートをたどっていくことになるのだが、概して青春部活モノとしての王道のポイントは抑えられており、キャラクターに関してはもうちょっとどうにかならなかったのかと思う部分もあるが、シナリオは無難に良かったのではないかと思う。
第13位 それは舞い散る桜のように
(※ホームページ消失)
ストーリー:6
キャラ:9
曲:8
グラフィック:6
曰くつきで有名な作品。会社の都合等で完全版の追加シナリオだけライターや原画担当が違う等、ちぐはぐになってしまっている部分がある。
序盤、共通ルートにおいての主人公やヒロイン達の掛け合いは流石、優れている。テンポよく、面白い。読んでいて全くストレスがない。キャラクターもそれぞれ魅力的であり、のめりこむようにして進めていってしまう。
中盤は、ヒロインを一人選んでいくこととなるのだが、ヒロインの固有イベントはあまりなく、その間にあるイベントも冗長に思える。ヒロインの心情描写もほとんどなく、どういったところからヒロインが主人公に惹かれていったのかが分かり辛い。
終盤はよくわからない。序盤からそれなりに存在し、特に終盤は、主人公の過去や、母との関係、人間を超越した存在との接触等の伏線が沢山あるのだが、作中で全く触れられない。謎を提示しておきながら答え合わせまでさせてくれない。また、完全版の追加シナリオで増えたヒロインのルートについては、終わらせ方が全く他のルートとの整合性がとれていないように思える部分もあった。
この作品は、そういった致命的な欠陥を抱えているものの、「他者への信頼」や、「悲しみを受け入れていくこと」等、そういったメッセージ性を読み取ることもできる。人は一人では孤独に負けてしまう、だからこそ誰かに頼って生きていく必要があるのだということを感じることができた。描かれきれていない分、考察に幅が生まれ、様々な解釈が可能になっている作品である。しかし、描き切れなかった経緯がライターの意図していない部分に起因しているので、やはりちゃんと完結させてほしかったというのがプレイ後の感想。ちゃんと描き切っていたら3位くらいには入ってもおかしくはないと思う。序盤のキャラの掛け合いやテキストの楽しいノリ、根幹にあるメッセージ性で十分満足した。王孫雀はもっとエロゲを書いてほしい。
第12位 終ノ空 remake
ストーリー:8
キャラ:7
曲:9
グラフィック:9
『素晴らしき日々~不連続存在~ 10th Anniversary特別仕様版』を買ったときに一緒についてきた。むしろそちらを目当てで買った節もあるが。ライター曰く、「『終ノ空』と『素晴らしき日々』をつなぐもの」として作られたらしい。
センテンスや登場人物の言動など『素晴らしき日々』に重なる部分が所々に見受けられる。基本的にはサイケな作品だったという印象。地の文とかキャラのセリフとか出てくる引用などの衒学趣味は『素晴らしき日々』よりも強く押し出されているように感じた。『素晴らしき日々』の前身という印象が強かったが、ストーリー展開は独自なものも多くあり、ラストの2つのENDは唸った。おそらく『純粋理性批判』をしっかり読んでいたらもっと楽しめたのだと思う。
新しい作品だけあって、画質、音質などのクオリティは高い。こういったシステム周りはやはり新しいものほど充実する。BGMも作品の長さのわりには種類が多いと感じる。声優も、短い作品なのにとても多く、こだわりが感じられる。
先述のように『素晴らしき日々』よりも哲学・文学的な表現、また、マニアックな描写が多い。『論理哲学論考』どころか、『哲学探究』、スピノザ、ヒューム、カントなどもちらほら見受けられる(ような気がする)し、ディキンスンやトルストイ等の引用もところどころにある。エロシーンも『素晴らしき日々』よりハード。ライターの「趣味を出そう」という気の強さを感じる。万人受けはしないように思われる。まあ、2万も出してすば日々記念版を買うような奴らに向けた商品であるし、元の『終ノ空』もアングラ的なノリの中で人気がでた作品なので、万人受けは狙ってないのだろうが。個人的には十分に楽しめた。この作品の雰囲気は他の作品では感受できないものがあり、不定期に摂取をしたくなる。
第11位 ISLAND
ストーリー:8
キャラ:6
曲:9
グラフィック:8
放送当時アニメを観たときは4話で切ってしまっていたのだが、60%offセールをしていて、つい購入してしまった。
システム面は概ね良好。フローチャートもあってシナリオの進行具合も分かりやすい。ただ、声のついているキャラのセリフの表示が少し遅くなる点はいただけない。曲については、ピアノや弦楽の落ち着いたBGMはこの作品に合っていてよかったと思う。設定上、海辺や夜のシーンが多いのだが、そういった落ち着いた雰囲気に合う曲が良く作られていた。キャラデザはあまり刺さらなかったが、声優は良かったと思う。CGは全体的に綺麗に描かれていた。背景の描写が特に優れていたと思う。
シナリオについて、全体的に、記憶喪失の主人公が何者かという話と、舞台となる島の歴史や人間関係について話がされる。また、ストーリーの各所に”陰謀”を思わせる記述がなされていて、展開を読みづらくさせている。あまりにもBADエンドが多く、回収が大変だった。序盤からタイムトラベルをにおわせる話で進んでいくのだが、ストーリーの途中から相対性理論を持ち出してタイムトラベル等の理屈っぽい話をされるパートは少し分かりづらかった。
ヒロインは、「伽藍堂 紗羅」、「枢都 夏蓮」、「御原 凛音」の3人。「伽藍堂 紗羅」ルートは、主にタイムトラベルの話がメインになる。ストーリーが進むにつれて、確定的な証拠はないままに、主人公がタイムスリップしてきたことが確定しているような感じで話が進み、そのノリでルートのラストまで行くのは違和感を覚えざるを得なかった。深刻なノリなんだけれども、「えぇ?」って印象だった。スタッフロール後に種明かしはされるので、納得はできたけれど、途中の展開のもっていき方は無理があったのではないかと思う。一方、「枢都 夏蓮」ルートは、タイムトラベルなどの超常現象的な内容は薄い。島の閉塞的な社会の空気感や、その中でしきたりを守らなければならない立場と、「自由になりたい」という気持ちの間で葛藤するヒロインの姿が描かれている。「伽藍堂 紗羅」ルートと比べれば、こちらの方が正道なノベルゲーのシナリオというような感じがする。主人公とヒロインがぶつかりあいながら、互いに距離を詰めていくという王道的な内容であった。
この2人のルートは踏み台で、これらが終わってからメインヒロイン(作中でもそういわれている)の「御原 凛音」ルートに入るのだが、こちらは、くそ長い。初めてプレイしたときは、恋愛関係に至るまでの描写が急で、雑だと感じていた部分もあるのだが、話が進んでいくうちにスケールの大きい話になり、予想していた展開をどんどん塗り替えていった。タイムスリップの話で、途中、理屈っぽい内容になってついていけなくなった部分もあったが、急に予想もしていない、重厚なSFが始まったり、身分の格差を描き出すようなディストピア展開になったりして、先の読めない展開に感心した。感動もした。
サブヒロインのルートも含めて、全体的に伏線が散りばめられていて、大きく広げた風呂敷をよくまとめたものだとは思うが、回収しきれていない伏線や、最後の多少の投げっぱなし感は否めないものがあり、惜しいと感じる。とは言っても、面白い作品だった。
第10位 白昼夢の青写真
ストーリー:7
キャラ:8
曲:9
グラフィック:9
セカイ系っぽい感じの作品。CASEー1~CASEー3の三つのルートを観た後に、最終章のCASEー0に収束し、そこで三つの物語が語られた必然性も示されることになる。
システム面では、UIがCASEごとに変化している等、細部に意匠が感じられ感心した。また、OP映像もCASEごとに作られていて、曲もそれぞれ違ったものになっている。OPはそれぞれのCASEの印象とマッチしており、良かった。
CASE-1~CASE-3は、短編小説のような感じで個別に展開される。それぞれ違った設定の世界観が展開され、そこでの人間関係もまちまちである。それぞれの世界観はメーカーの過去作に由来しているらしいが、Laplacian作品は初プレイなのでそういったことはわからない。
CASE-1は、かつて小説家を志望していた非常勤講師の主人公と、その教え子であるヒロインが、お互いの生活に徐々に踏み込みながら、なし崩し的に不倫関係になっていくという感じの話。こちらのルートは、私小説っぽい気持ち悪さがあって好きだった。まず、高校生に手を出す中年教師という設定が気持ち悪いし、その主人公も退廃的なくせに、一時は、「才能があるものにしかわからない境地があるんだ」とか大衆をさげすむことを言い出したり、ヒロインに飯を奢ったときも、「今はまだ彼女は奢られ慣れていないけど、これからたくさんの男に奢られて、男に金を出させる適当な距離感をつかんでいくのだろう」みたいなことを内心つぶやいていて、キツ過ぎるのがたまらなかった。
CASE-2は、シェイクスピアを模した人物が主人公で、ひょんなことから知り合ったヒロインと一緒に劇団を立ち上げていく話。こちらは、この作品の中で1番好きだった。高飛車なヒロインとそれに巻き込まれる主人公、ちゃらんぽらんなサブキャラがかみ合わないまま演劇をしようと奔走していくうちにだんだん一致団結していくのが、古くからあるエロゲっぽい設定に感じて、刺さった。サブキャラが作中で一番多く登場し、生き生きと役割を果たしていて、それだから日常パートも結構面白く観れた。
CASE-3は、青春という感じ。青春モノと言っても、暑苦しかったり押しつけがましいものではなく、主人公が本当にやりたいことを見つけようとする中で、ヒロインと出会い、恋をしていく、まっすぐな青春譚を呈している。CGは一番良質に感じた。また、雰囲気も明るく、キャラは少ないものの、会話はテンポよく、面白く読める。
CASE-0は、この物語の収束部分。このパートは長く感じる。他のCASEのテンポの良さと比べ、こちらは冗長な部分も多く、また、生かしきれていない設定や、世界観の掘り下げが足りない部分もそこそこ見受けられた。そういった細部を抜きにしても、展開的に、ラストは、お涙頂戴感があって腕くみしながら眺めていたし、主人公の言動にも理解を示せなくなっていった。
文句は言ったものの、この作品は最後のまとめパートで少しトチってしまっただけで、CASE-1~CASE-3だけでも相応には楽しめたし、絵も綺麗で、声優の演技も幅が広く、エロゲとして十分楽しめたので、満足はしている。
第9位 さくらの雲*スカアレットの恋
ストーリー:8
キャラ:8
曲:7
グラフィック:8
きゃべつそふと4作目の作品。この会社の前作の『アメイジング・グレイス』についはプレイ済みで、ライターも同じで前評判も良かったので、発売当初から目をつけていた。
キャラデザと立ち絵のクオリティは素晴らしい。立ち絵は緻密に書き込まれているものが多く、多様な差分もあって、全く崩れることもない。キャラデザの影響でストーリーは大したことのない「萌え」重視の作品であるという印象を与えかねないが、そんなこともなく、ストーリーの方も練られている。
文章はクセのない文体で書かれており、内容も複雑怪奇なものではなく、総じてテンポよく進み、読みやすい。ストーリーの分岐はなく、強制的に1本の道筋をたどることになる。
ストーリーは、大正時代に飛ばされた主人公がそれぞれの個別ルートを経由していきながら、少しずつ現代に戻るために手がかりを入手して、問題の解決に至るという道筋をたどる。主人公は探偵の助手として働くことになり未来の知識で無双していくのだが、キャラに嫌味はなく、すんなりと読めるものであったと思う。所謂「俺TUEEE」系の作品ではない。
全体として、歴史に生じた「歪み」を修正するために主人公は奔走するわけだが、過去を改変することに関して無頓着というか、気にしたり気にしなかったりという差が激しいように感じた。テロの実行犯を事前に警察に引き渡したりしているが、それって大丈夫なのか?と思ってしまうところもしばしば。そういったところも”敢えて”している部分があり、伏線として終盤へつながっていく部分もあるのだが、もう少し葛藤を見せる振りなりなんなりの描写が欲しかった。
全体的に緩やかな雰囲気で進んでいく物語の中に張り巡らされる伏線やミスリードが、シナリオが進むにつれて明かされていくのだが、こちらはよくできていた。終盤は全く予想の斜め上をいく展開に素直に感心。ストーリー展開上で鼻につく表現や引っかかる部分はすべて伏線として回収してくれており、爽快である。内容について全く知らない状態でプレイしたが、それが正解で、とてもよかった。ラストは微妙な締め方に感じたが、それなりに綺麗にまとまっているし、EDのスタッフロールでいい感じに余韻に浸ることができた。満足感が高く、誰にでも進められる作品であることは間違いない。
第8位 BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”
ストーリー:9
キャラ:8
曲:9
グラフィック:9
『BALDR SKY』という作品は2部構成になっており、本作はその前半部分。何人かいるヒロインの内、本作では3人が攻略対象で、残りは後半部分で攻略可能となる。シナリオは一本道のループもののような感じ(後半部分未プレイ時点で書いているので断言はできない)で、攻略順は選べない。ヒロインを一人攻略すると、新しいヒロインが攻略可能となる。その過程で、主人公はプレイヤーと共に失った過去の記憶を取り戻していくこととなり、世界観が徐々に明快になっていく。
世界観は、重く、暗い雰囲気であるが、一人目のヒロインの時点では、主人公は過去の記憶をほとんど何も覚えておらず、どことなく軽い雰囲気を漂わせている。シナリオやヒロインを2人目、3人目と進めていく毎に、覚えている記憶の範囲が増えていき、だんだんと主人公にも重厚な趣や、傭兵としての冷淡さというものが垣間見えるようになってくる。プレイヤーの知っている範囲と主人公の記憶が同期しながら進むので、進めていくにつれて登場人物の言動や思惑に引き込まれていく。楽曲についても種類が豊富で、どれも場の臨場感に合っているように感じた。ストーリーに関しては、壮大なSF系のエンタメ作品としてとても面白く読むことができた。全体通しての感想はこの作品の後半部分に回そうと思う。
また、この作品は、アクション要素があり、敵を倒していくイベントが各ストーリーに約30回ほど現れる。初めは操作に慣れず難しい部分もあったが、技の開発やコンボなども豊富にあって、こちらの要素も楽しめた。難易度の調整もでき、そこそこに難しいのもやりがいにつながった。
難点としては、save&loadが効かず、CG回収やED回収に非常に時間がかかる点である。この作品はED後にも自分の装備した武器等を引き継げるのだが、save&loadには対応しておらず、武器等を引き継ぎたい場合は、一度クリアしたデータで一からやり直さなければならない。ストーリーはスキップできるから良いが、戦闘シーンはとばせないので、プレイしなければならない。これのおかげで1つのEDの回収に40分くらいかかった。さらに、特定の戦闘シーンでの時間経過具合によるCGの変化などもあるくせに、戦闘場面で何分たったか経過時間を見せてくれないため、手元で別途計らなければならなかったのも結構神経を使った。
第7位 さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-
ストーリー:8
キャラ:7
曲:9
グラフィック:9
ファンタジー色の強い作品。魔法や死後の世界、時間超越等の要素があり、スケールが大きく、プレイ時間も長い大作。全体的に幻想的な雰囲気が感じられる。個別ルートメインのマルチエンドの作品ではなく、すべてのルートが一つの終幕に収束していく作品。
この作品で特に優れているのが、BGMと背景である。BGMは、ピアノや弦楽、オルガン等の立体感のある演奏が良かった。どれも場面に適しており、臨場感を高める役割を十二分に果たしている。CGや背景もとても綺麗。光の感触や、ぼかし等、美しく表現されており、透明感の高く、幻想的な作品の雰囲気にもあっている。BGMと背景のおかげでここまで順位を持ち上げているといっても過言ではない。曲と背景であればこの作品は圧倒的に1位であるし、ノベルゲー全体としてもこれを超えてくるレベルの作品はほとんどないと思われる。しかし、キャラの立ち絵についてはあまり好みではなかった。
ストーリーの中身についてだが、評価できる点とできない点がそれぞれ多分にあり、賛否の分かれそうな内容であると感じた。加点しようと思えばいくらでも加点でき、減点しようとすればいくらでも減点できる。
まず、文章についてだが、しつこいほどの傍点による強調や、まどろっこしい言い回し、同じ場面の回想の繰り返しなど、非常にこの部分で損をしている作品であると感じる。BGMや背景は抜群と言ってよく、大筋の幻想的なストーリーの構築と展開についてはそれなりに良いと思っているだけに、こうした点で没入感がそがれるというのはもったいない。
はじめから宮沢賢治の引用からはじまるところ等に象徴されるように、自己犠牲が作品のテーマの一つとして敷かれている。登場人物らは全員何かしら自己を犠牲に他人のためにつくしていくのだけれど、終盤になるにつれて、その無償の情愛が染みてくるようになる。自分がどれほどの思いを抱いているのか、そのために、他人のためにどれだけ自分を犠牲につくせるか、といった心境を描かれると、そういう展開に弱いこともあり、泣いてしまった。しかし、特に主人公の、わざとらしいまでの自己犠牲を被ろうとする姿勢に辟易としてしまう人もいると思う。主人公が自己犠牲を被ろうとするのには理由があるのだが、その理由が明かされるのがだいぶ後半になってからなので、そこまでついてくるのも大変かもしれない。
作品の世界観は非常に凝らされている。過去から未来までが融合する”夜”の世界が作品の主な舞台となるのだが、時間を超越している作品というだけでも非常に複雑になるであろうと予想はできるのだが、それに加えて、”夜のイキモノ”や魔法というような特殊な設定があったりするので、作品の世界観を把握することが難しい。さらに、ストーリーが多人数の視点から同じ出来事が語られ、しかも場面転換が多いため、読者にミスリードさせることを狙った意識的なものにせよ、殊更分かり辛い。実際に、プレイしていて、「なぜこのような状況になっているのか」と、状況把握に戸惑う場面も少なくなかった。これは、あまり集中できていない状態でプレイしていたり、テキストを忘れてしまったりしていることも一因であると思うが、この作品は先に言った通り、冗長なテキストで、プレイ総時間も長い作品であるため、その文章をすべて真剣に読んで覚えなくてはならないというのは厳しいものもあるのではないかと思う。長い作品においての伏線を否定するわけではなく、この作品の文章の冗長さによる、「読むのが億劫だ」と思ってしまうことが状況把握に手古摺ってしまう元凶である。
文句を多く言ったが、割と高順位に付けているとおり、つまらないわけはなく、むしろ面白い作品であることは間違いがない。「テキスト以外を見れば」と言っているが、テキストも、作品として耐えられないというレベルではない。テキスト以外が抜群に優れているため、逆にテキストの粗が目立っている作品である。もったいない。
第6位 穢翼のユースティア
ストーリー:8
キャラ:8
曲:9
グラフィック:8
背景の書き込みやBGMはよくできていて、独特の世界観であるこの作品への没入感を高めてくれる。キャラクターについて、全体的に声優が上手くて良かったのだが、立ち絵に関しては、なんとなく背景に浮いてしまっているように感じた。それほど気になる点ではないが。
「途中下車方式」のストーリーで、一本筋のストーリーの段階ごとにヒロインが分かれる。メインルート以外のヒロインは、目に見える「物」でなく、目に見えないものにすがりながら生きている。家庭の矜持、主人公との関係、信仰、威厳、etc。ヒロインは主人公と関わるうちに現実を直視し、すがっていた虚構から訣別する。そして、柵から解放されたヒロインは、地に足をつけながらも、以前より爽やかに生を実感するようになる。
これらのヒロインの扱い方については、「理由のない理不尽は存在する。しかし、それでも逃げずに、ただそこにある現実を受け入れろ」と言ってくるように思えた。個人的にはそれはどうなのかと思った。物語の役割として、受け止められない現実に対して、それをどうにか受け入れられる形に転換する働きというのが一つあると思う。ただそこにある現実に意味付け(=物語化)を行うことで、どうにかそれを受け入れ暮らしていけるようにするというのは、人間に必要な行為であると感じる。この作品のヒロインは誰しもが理不尽を背負っているが、そこから逃げるために何かにすがったり、意味付けを行うことは至極真っ当で、否定されるべきものではなく、それを「物語」という形式をとって否定的に描いているこの作品は、作品自身の在り方そのものを否定することに近いのではないかと感じた。作品としてはつまらなくはないのだが、そういった部分に不満を感じた。
メインルートの流れは、非常に面白かった。各ヒロインに現実を見るように強要していた主人公もまた、所詮は「牢獄」(主人公の暮らしていた地域の俗称)にすがっていただけであり、その空虚な人間性の暴露と、それを乗り越え、今度は1人の人として、自分の意志によってヒロインを助けに行こうと決断することで、主人公もまた解法されていく流れは非常に面白く、最後の展開も良かったと思う。
書かれている中身は気に食わないが、ストーリーは面白かったと思う。
第5位 MUSICUS!
ストーリー:8
キャラ:9
曲:7
グラフィック:7
プレイ直後は『ISLAND』よりも下に置いていたのだが、思い返すほどに評価が上がってこの順位とした。ある理由から定時制高校に通うことになった主人公が、偶然出会ったロックミュージシャンである「花井 是清」に感化され、更には、バンドに入って演奏するまでになる。音楽と関わっていくなかで、主人公はどう生きていくのかというような内容が、分岐する選択肢のなかでそれぞれ語られていく。
所謂途中下車方式を採用しているゲームで、話の大筋に分岐点が複数存在して、途中の選択によってルートが変わっていく。「尾崎 弥子」、「香坂 輪」、「花井 三日月」の3人のメインヒロインのルートと、もう一つの「BAD END」の、合計4つのルートがあり、それぞれの音楽性の違いによって分岐し、多様な価値観とヒロインとの関係の在り方が描かれる。
「尾崎 弥子」ルートは、ルート単体で見ると平凡なルートである。主人公は音楽を手放し、受験勉強に専念するという選択を取ることにする。しかし、文化祭でバンドを組むというクラスメイトとともに、乗り気でないながらも自身もドラムとして参加することとなり、すったもんだがありながらも、最終的にバンドは成功して、大団円。特に捻りもなく、このルートでの主人公は、文化祭のあと音楽からは身を引き、ヒロインとくっついて幸せに過ごすことになる、よくある感じのストーリーであるといえる。その他のルートでは、主人公は受験に専念するのではなく、むしろ学校を辞めて音楽に専念するようになる。
「香坂 輪」ルートは、主人公がバンドをはじめ、それなりに成功し始めていくなかで、バンドメンバーの「香坂 輪」の過去や人間関係に焦点が当てられながらストーリーが進んでいくことになる。こちらも、キャラクターは良かったもののシナリオとしてはあまり語ることもなく、つまらなくはないが、平凡なルートであった。展開も締めも月並みという印象。
次に「BAD END」をプレイしたのだが、こちらのルートでは、バンドのツアーでそこそこの成功を収めるものの、その後停滞し、売れない日々を送ることになる。主人公はバンドを解散し、一人で音楽にのめりこむようになる。音楽以外の全てを断ち切って出会えたものは果たして何なのか、ということに重点が置かれている。先述した2つのルートとは対照的に、展開も鬱っぽく、全体的に暗い。狂気と孤独にとらわれていく中、それでも微かに残ってしまう人間的な感情の描写と、機械のように音楽にのめりこみ続けていく主人公のEDの演出は一級品であった。
最後にプレイした「花井 三日月」ルートは、この作品のメインストーリーとしての位置づけになっている。「BAD END」と同様に売れない中で悩むのだが、こちらではバンドは解散しない。主人公は「花井 三日月」とともにバンドマンとしての道を歩んでいくこととなる。こちらのルート、展開上、転機が何回かあるのだが、それらのきっかけがすべて他力本願というか、自分たちの内面から出てくるものでない部分を転機としていて、それについては欠点に感じた。バンドが売れたのも、バンドが活動を停止するのも、バンドの活動が復活するのも、すべてが外から持ち込まれた要因によるものが大きく、メインとしてふさわしいのかと感じさせる部分があった。ただ、そういった欠点を持っても尚、良いと思えた。このルートでは、最終的には主人公とヒロインがくっつかない。エロゲに限らず、古くから物語全般において、男女の物語では、その2人がくっついたり、結婚をしたりというところをハッピーエンドとして描いている作品が多くある。しかし、男女の在り方というのは、それだけがハッピーエンドではないだろうというところを掬ってくれている。”友達”だろうが”恋人”だろうが、そこにあるのは同じ人間2人の”関係”であることには変わりはないのだから、呼び名というのはあくまで形骸的な器に過ぎない。そこに確かな”幸せ”が感じられる関係こそが”ハッピーエンド”である。そういった意味でも、”普通”の物語の流れに沿った「尾崎 弥子」ルートとは対照的になってくる。
概して、多様な人物が多様な音楽との関わりを持つ中で、そこに1つ音楽の持つ活力が共通して齎されているように見えた。また、この作品は全体を通して見ると、音楽性の違いといった枠組みを超え、それぞれのヒロインとの関係性、ひいては「人と人との関係の在り方」の多様性を広く認めてくれているように感じた。全ルートにその関係性の、それぞれ違った描かれ方がされていて、そういった視点で見るととても響いてくる内容であった。「BAD END」においての主人公の状況は、外側から見れば救いようのないものに見えるが、それでも主人公は音楽に縋りながら生きていくのであり、「音楽」だけは主人公から失われなかったのである。どのルートでの主人公在り方も否定されず、音楽、人との関係、ひいてはこの世の森羅万象において人により様々な向き合い方があるのだということをまざまざと描き出し、読者に訴えかけてきている。「深く狭く」の人の関係から「広く浅く」の関係に移行していく現代社会に生きる人間には、自分の想像できない、理解できない「人の在り方」があることを認識し、豊かな想像力をもって受容していくことが求められる。
第4位 BALDR SKY Dive2 ”RECORDARE”
ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
先述の『BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”』の続きであり、本作で完結する。通してプレイし終えた感想としては、シナリオ、世界観、曲、キャラ、戦闘、どれを取ってもよくできており、エンタメ作品としてとても楽しめた。
記憶を失っている主人公が右往左往しながらもがき続ける様は、何も知らされずにいきなりアクションに駆り出されるプレイヤーとリンクし、徐々に記憶を取り戻しながら、アクション要素に慣れていきながら戦いに臨んでいく。それを幾度も繰り返しながら進めていくと、主人公への没入感は非常に高められる。そうして、ラストのボス戦ではOPが流れるのだが、その歌詞が、今までたどってきた主人公の道のりだけに非ず、膨大なプレイ時間をかけて主人公と共に戦ってきたプレイヤーに対しても入り込んでくるのである。たくさんの戦闘、様々なキャラクターの個々の想いを乗り越えた先に迎えるTRUE ENDは綺麗に纏められている。そこで緊張が解かれて安心できることでカタルシスが生じ、今まで戦ってきた長い時間が無駄ではなかったことに、主人公と共にプレイヤーも救済されるのである。
難点として、先述のようにsave&loadが効かず、CG回収やED回収に非常に時間がかかる。ループものであり、その性質上、同じ展開を何度も見させられる。それ自体は作品のコンセプトであり、そうすることがシナリオ上必要なのだが、ED回収に際して、それに加えて全く同じ展開をプレイさせられるのがキツイ。シナリオジャンプ機能という、任意の場所からシナリオを始められる機能があるのだが、こちらの解放条件は各ヒロインを2周以上攻略していなければならず、戦闘シーンはスキップできないため、苦行である(一応戦闘シーンスキップの機能もあるのだが、こちらは全EDを見ないと解放されない)。また、戦闘に使う武器はレベル上げをしていくことで性能が上がっていくのだが、それが非常にめんどくさかった。レベルを上げるまではほとんど使い物にならないような武器を戦闘で何度も使わないといけない。しかも、もらえる経験値は僅かで、武器のレベルを上げるために時間がものすごくかかる。
前作と通して行うことが前提であり、滅茶苦茶に長い作品で、プレイしている間には、発熱、怠さ、視界のぼやけ等が現象し、生活に支障が出ていたのだが、そのプレイ時間があってこその作品であり、存分に楽しめた。一つの完成形に近いのではないかと思う。
第3位 装甲悪鬼村正
ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
争いを止めるためには「正義の英雄」が必要なのだろうか。では、「正義」とは何か。「悪」を屠る者が「正義」なのだろうか。しかし、諍い合う両者は、互いを「悪」とみなして争う。互いに自分が「正義」であるとして戦う。「正義」と「悪」に本質的な違いは果たしてあるのだろうか。本作の主人公は、圧倒的な力をもって世界を破壊したらしめる「銀星号」を止めるため、挑み、倒そうとするも、そういったことに煩悶しながら己の道を進んでいく。
この作品はキャラクターが素晴らしい。メインキャラクターからサブキャラクターまで「捨てキャラ」がいない。この作品の主軸を成す、「正義か悪かは見る側の立場に依拠するものなのだ」というのはその通りだとは思うが、いまや誰でも知っているようなことであり、今日までよく描かれたテーマである。しかし、その狭間で悩み、矛盾を感じて苦悶しながら、それでも自分の在り方を信念をもって通す決断して戦っていく登場人物らのその様の描き方が格別であった。作品のテーマは全体に一貫されていて、悪役に見えるキャラクターにも良い部分が、善人に見えるキャラクターにおいても陰りが見える。性格的に「完全」なキャラクターは登場せず、それがキャラクターたちに立体感を与え、だからこそ、読者はそのキャラクター各々の苦悩や決断を重く受け止めることができ、作品のテーマに感じ入ることができる。「完璧」というのはまさしく「夢」なのである。余談だが、主人公らが扱う武器である「劔冑(ツルギ)」も、一つの能力に秀でれば、他の能力を犠牲にしなくてはならない。
戦闘シーンはどれも恰好良く、アツい。特に各ルートのラストの戦闘は鳥肌が立ちっぱなしになってしまったものも多かった。キャラクターが戦っていくなかで、その理由、自身の方針に疑問を抱きつつ、迷いながらも決断し、戦う理由を見つけて決戦するのだが、やはりキャラクターの造形が優れているから、戦いあう両者に共感できるし、納得できる。武装や刀剣等の細かい記述も世界観全体にリアリティを与える。そういったキャラクターや細部が上質だから、クライマックスもしっかり盛り上がる。そうして突き進んでいった主人公の行く末は、ため息が出てしまう。
惜しむらくは序盤であるか。中盤以降はキャラクターにも入れ込み始め、話にのめりこむように進めていってしまうのだが、序盤の展開は少し冗長に思える。事が動き出すまでが地味で、些か退屈してしまう。一応それにも、話の展開上の意味は認められるのだが、もう少し短くても良かっただろう。また、「善/悪」がテーマなのだが、その描き方が一様であったように思える。特に序中盤は、凄惨さを知らしめるための描写には凌辱シーンを入れるか、主人公の「敵」である「銀星号」による大量殺戮を描くかのどちらかだったので、あともう少し他の方向からのアプローチも欲しかったところである。
第2位 ファタモルガーナの館
ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:8
記憶を失った「あなた」が謎めいた館の女中に導かれ、呪われた館や主人公、女中が何者なのか等のを解明する作品。前半はオムニバス形式で物語が進み、後半になるにつれ、その物語が1点にまとまっていく。「悲劇と絶望の西洋浪漫サスペンスホラー」と公式は銘打っているが、ホラー要素はあまりなく、心理描写に重点が置かれている。曲はオルガン調の伴奏にコーラスが付けられているものや弦楽の重奏のBGMが多く、どことなく不気味で切なげな雰囲気を漂わせていて、この作品の雰囲気に非常に適していた。また、グラフィックも、あまりデフォルメされていないタッチでかっこいい。
序盤に短編の物語が描かれたのち、徐々に本筋のストーリーへと移行していき、今まで散りばめられてきた謎について回収されていくのだが、全く飽きさせず、予想を超えてくるストーリー展開と伏線の回収に息を巻く。そこで語られる話の内容も悲愴で救いがない。人の純真とどす黒い感情のコントラストがまざまざと見せつけられる展開に、どうしようもなく切ない気持ちにさせられる。とにかく、「人の弱さ」が際立って描かれている。そんな過酷な運命に打ちのめされながらも立ち向かっていく物語は、静かでありながらも情熱を感じさせる。登場人物らのすれ違う互いの善意の感情から生み出されてしまった軋轢と、それを追いかける彼らを襲う悲劇は観ていて憐れになるものであったが、それがあってこそ、最後の展開は感極まって泣いてしまった。人物相互の内面まで描写しているからこそ、没入感が高く、良い作品だった。
また、人間相互の関係性についてのほかに、この作品の一つのテーマとして「弔い」が挙げられる。「弔い」という行為についても、そこにあるのは「死」という現象のみであるのだが、人は、そこに意味を見出す。そこに恨みや許しを請う。それは、人間が今を「生きる」ということに必要であるのだと思う。そのままを受容することが厳しい現実に、ストーリーを与えることでなんとか耐えられるようにする。ただそこにある現象に意味付けをすることで、その現象を受け入れやすくする。そういったことが物語の効能としてはあるのだと思う。死者への悼みというのは実質的に意味のない行為なのかもしれないが、人間が、死に意味を与えることは決して無駄なことではないのだということをこの作品は伝えてくれるように感じた。
セールで800円くらいで購入したのだが、他のフルプライスの作品と比較しても全く引けをとらないどころか、並大抵の作品よりは優れていると感じる。シナリオの構成力は圧倒的で、それ以外にも欠点のない作品。
第1位 俺たちに翼はない
ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:7
読んでいて心地の良い文章と、多少の中だるみはあるもののテンポの良い展開、所々に散りばめられた不明瞭な要素が気になり、読み進める手が止まらない。読んでいてストレスがなく、時間を忘れて没頭させてしまう。曲も60曲以上の幅広さで、没入感を高める。サブキャラ含め、キャラが本当に魅力的。コミカルなキャラクター同士の掛け合いは素直に面白く笑えるし、大掛かりな話の展開には息をのむ。そうしたビジュアルノベルとしての外見的な魅力も尽きないが、就中、この作品から読み取れるメッセージ性が非常に良かった。この作品は登場人物の欠陥をテーマに添えられているのだが、その背後には、どんな人にも抱えるものがあるのではないかと思う。
絶対的なものというのはあるのだろうか。複数のキャラクターの目から語られる景色は、同じものをみてもそれぞれ違う物に感じる。しかし、それらはすべて間違っているわけではない。ある人には間違えて見える、意味の解らないように見えることであっても、別の見方からすれば、正しく見えるのである。正解、不正解の二択を迫らない。これは非常に重要に感じる。絶対的な価値観というものが存在しないからこそ、今の自分に何ができるのかを見つめ直し、今の自分にできる範囲での努力を重ねていくことこそが重要なのだと感じさせてくれる。
また、「物語」を読む意義を示してくれている作品であると感じた。他の作品の感想でも述べているが、物語というのは簡易的な現実からの避難所である。現実から逃げても、逃げた先で自分を癒せるのなら全く良いことである。世界はあまりにも冷たく、人はあまりにも弱いものだから。ただ、いつまでも現実に向き合わないままでも良いということではない。社会の構成員として生活を営む以上、いつかは現実に戻らなくてはならない。そうしたときに、心を逃がせる場所がある人とない人では、精神的な苦悩が違う。小説や漫画、アニメ等、物語を読む意味とは何だろうかと考えた時に、そういうことを感じる。人生は長く苦しいものだろう。自分の思い通りにならないことは数知れず、理不尽な苦難に見舞われることもあるだろう。そうして、いざ、自分が辛い現実に向き合わなくてはならないときに、何か、自分を逃がせる場所、自分の辛い現実から目を背けられる場所を手っ取り早く提示してくれるのが、「物語」なのだと思う。「空想と現実の理解ができていない」などというと、悪い印象がある。「物語」にと入り込むというのは、現実から目を背けているようで印象が良くないのではないか。いつまでも現実から逃げるわけにはいかないのだが、それでも、人が向き合い続けるには、あまりにもこの世は大変なのだと思う。いくら辛い場面に直面した場合であっても、「物語」に入り込んでいる間は、そこに集中して、辛い現実は忘れることができる。そうして、いざ、現実に戻らないといけないときに、気持ちを軽くできるのではないか。現実に向き合うための、勇気を、気合を、自分に与えてくれるのではないか。こういうことを、ビジュアルノベルといった媒体で示してくれたこともあり、「物語」を読む意味はそういったことにあるのだと、ひしひしと伝わってきた。「逃げ」をこの作品は肯定してくれているように感じた。「優しさ」を失っていく社会に生きる現代人は読んでおくべき作品であると思う。
終わりに
ここまで読んでもらって、どうもありがとうございます。前回書いた記事よりも作品ごとの文字数のムラが少なくて、内容についてもきちんとした感想を述べられているのではないかと思います。1~3月の3か月かけてそこまで長くない『Clover Heart's』1本しか終わらせられていなかったりと、序盤の失速が痛手で、やる気を出せばもっとプレイできたのではないかと、悔いの残る結果でした。2021年にプレイした作品の中では、感想を読んでもらった人にはわかるかもしれませんが、『俺たちに翼はない』と『MUSICUS!』が一等好みでした。逆に『Clover Day’s』はプレイしていて不快になりました。
今年も面白く、生きていることを実感できるような作品を味わえたので良かったです。とりあえずは『サクラノ刻』の発売までは生きていようかなと思います。
2022年もできそうならランキング付けします。
- はじめに
- 本編
- 第23位 Clover Day's
- 第22位 春季限定ポコ・ア・ポコ!
- 第21位 アオイトリ
- 第20位 アマツツミ
- 第19位 Clover Heart's
- 第18位 キミのとなりで恋してる!
- 第17位 ゴア・スクリーミング・ショウ
- 第16位 加奈 ~いもうと~
- 第15位 車輪の国、悠久の少年少女
- 第14位 あの晴れわたる空より高く
- 第13位 それは舞い散る桜のように
- 第12位 終ノ空 remake
- 第11位 ISLAND
- 第10位 白昼夢の青写真
- 第9位 さくらの雲*スカアレットの恋
- 第8位 BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”
- 第7位 さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-
- 第6位 穢翼のユースティア
- 第5位 MUSICUS!
- 第4位 BALDR SKY Dive2 ”RECORDARE”
- 第3位 装甲悪鬼村正
- 第2位 ファタモルガーナの館
- 第1位 俺たちに翼はない
- 終わりに