2022年にプレイしたノベルゲーランキング
はじめに
2022年に読了したノベルゲームのランキングです。ちょっとした感想も述べています。
本編
ストーリー、キャラ、曲、グラフィックをそれぞれ9点満点(数字の大きい方が高評価)で適当に評価しているが、作品のメッセージ性やシステム面等、そのほかの点も総合的・主観的に考慮しているため、点数の合計と順位は比例しない。
- はじめに
- 本編
- 第24位 夏ノ終熄
- 第23位 花咲ワークスプリング!
- 第22位 ハミダシクリエイティブ
- 第21位 マブラヴ
- 第20位 ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-
- 第19位 サノバウィッチ
- 第18位 星織ユメミライ
- 第17位 青い涙
- 第16位 こなたよりかなたまで
- 第15位 ルリのかさね ~いもうと物語り~
- 第14位 つよきす
- 第13位 ひまわり
- 第12位 月の彼方で逢いましょう
- 第11位 すみれ
- 第10位 終のステラ
- 第9位 腐り姫 ~euthanasia~
- 第8位 きっと、澄みわたる朝色よりも、
- 第7位 CARNIVAL
- 第6位 殻ノ少女
- 第5位 虚ノ少女
- 第4位 BLACK SHEEP TOWN
- 第3位 SWAN SONG
- 第2位 天ノ少女
- 第1位 マブラヴ オルタネイティヴ
- おわりに
第24位 夏ノ終熄

ストーリー:2
キャラ:5
曲:8
グラフィック:8
第23位 花咲ワークスプリング!

ストーリー:3
キャラ:7
曲:6
グラフィック:7
SAGA PLANETS(この作品の制作会社)の作品のキャラクターは”萌え”があって好い。立ち絵も豊富で素晴らしい。こうした作品を行うと、日々自覚のない疲れがあるものだと実感する。
キャラクターの設定や作中の事件は、どれもどこかで見たことのあるようなものが多く、退屈する。最初は勢いがあって期待できると思わせるキャラクターの掛け合いも、ワンパターンを繰り返し、しつこく、飽きてくる。一応「幽霊部」という独自の部活を拠点に話は進んだり、他にも、主人公らの過去に何かあったことをにおわせる描写はあるのだが、そこにはあまり深堀せずに終わってしまう。ストーリーや文体ではなく、キャラクターの見てくれや声、性格などの”属性”で売っている作品だろうからこんなものだろう。
個別ルートも、伏線もない取ってつけたような進展の仕方や、起伏のない展開にげんなりする。感動もなければ感慨もなく、特に笑えるということもない。ヒロインの抱える問題についても、物語としては下らないように思えてしまうものが多く、どこか冷めた傍観者としての配置でしかいられなかった。
OP、CG、立ち絵、画質、音質等のシステム面や申し分ないと思う。また、声優の演技も作風に合っていたと思うので、ストーリーについてあともう一捻りあればとてもよかったと感じる。
第22位 ハミダシクリエイティブ

ストーリー:4
キャラ:3
曲:8
グラフィック:8
学園モノで、所謂”キャラゲー”。主人公が学園生活を送る中で様々なヒロインとかかわっていくような、よくある話。
この作品は、自身にとってとにかく登場人物らの「オタク像」が受け付け難かった。「絵師」だの「推し」だの「Vtuber」をだのを権力者であるかのように崇め、「ソシャゲ」に可処分時間を費やして「ガチャ」の結果に一喜一憂するという主人公の人物像は、自分の嫌いな性質をこれでもかというほどに集めている。その他にも、テキストには昨今のネットミームが大量に使用されており、非常に癪に障る。時事ネタにまで昇華できておらず、記号化された「面白さ」を押し付けてくるただの寒いノリにしか感じない。また、登場人物らは、集団が嫌いだとかなんだと言っておきながら、クラスのみんなからどう思われるかだとか、SNSのフォロワーが何人いるかだの、ソシャゲのランクがどうだの、「他人から見た自分」ばかりを気にしているのもイライラさせられる。集団を嫌うならせめて自分の軸をもって生きろ。
そもそも、主人公が「推し」だのと言っているのはソシャゲの中のキャラクターで、これがどうも気に入らない。昨今は、ドルオタ、アニオタ等ジャンル問わず「推し」という言葉を使って、自身の抱く対象への好意を表しているように感じる。自分はアニメやノベルゲームのことしかわからないが、殊更アニメやノベルゲームのキャラクターに対して「推し」という言葉を使うことには違和感を覚える。それは作品をキャラクター本位で観ることが前提の表現だからで、そして排他的であるからだ。 もちろん、キャラクター本位で作品を摂取するような在り方は認められよう。しかし、誰に「推す」のだろうか、この表現は「推す」相手方の存在を前提としている。外に、キャラクター本位での作品の摂取を強制している。自身の「好き」という気持ちがあれば他人からの、そのキャラクターへの評価を気にするのはおかしいだろう。自身が核としているコンテンツにすら自信がないから他人に「推」さなくてはならないのだ。先述の「登場人物に自身の軸がない」という部分との整合性はとれているのかもしれないが。自分は、自身の好きなものを否定されるよりも嫌いなものを人に好きだと言われる方が断然嫌であるため「推す」という言葉への押しつけがましい相貌に苦手意識がある。「好き」と言えば済むところを「推し」というあまりに不自然な表現に変形させていて、それがさも当然の言葉として作中で使われているのだから疑問も生じるところである。
「ソシャゲ」のシステムは、時間をかけて自身の"ウデマエ"を上げれば攻略していけるという仕組みになっていない。初期編成ではどうにもならず、運の要素である「ガチャ」で良いキャラ等を出さなければ話にならないというものがほとんどで、そのために課金を行わせて利益を出すというのが大半の「ソシャゲ」の基本的なビジネスモデルであろう(逆に、そうしたビジネスモデル以外の「ソシャゲ」はここでは問題にしていない)。そういったビジネスモデルにおいて大切なのは、次の課金をどうさせるかということである。重要視されるのは課金のインセンティブとなる「ガチャ」の内容であってゲーム自体の内容ではない。キャラクターの”ガワ”だけ作っておけば、課金自体はされるのだから。どうしてそのようなゲームが「面白く」なりえるだろうか。主人公の行っているのはまさにこの手の「ソシャゲ」であり、それにどっぷりと漬かり、自身に稼ぎもないのに金を浪費している。その幼稚さが辛抱ならない。制作会社の「まどそふと」は確かにカジュアルで所謂「キャラゲー」寄りの作風ではあるが、ノベルゲームのプレイ層にもこのような「オタク像」が受け入れられるということになったということなのだろうか。というか、このような作品を好む層は「ソシャゲ」の暴力性についても無頓着であるからか。良作を駆逐し、ゲームというコンテンツを駆逐していく可能性を秘めている「ソシャゲ」について、どうして無批判にこのような形で扱うのだろう。以前行った『ラズベリーキューブ』でも感じたが、「まどそふと」の主人公はどこか受け付け難いものを感じている。一応中盤以降は比較的そういった面は気にならなくなってくるが、それでも看過しがたいものがある。
テキスト全体にある難、そして根源的なキャラ付けへの減点を除けば、ヒロインの見てくれは可愛らしく造形できていると思う。おおよその性格の基盤である「オタク要素」が受け付け難かったのでキャラクター自体への評価も上がらないのだが。ストーリーの展開は並である。特に奇抜な部分や秀でたところもなく、こういった作風にありがちな、海や文化祭でのイベントが広げられる。悪いという程のものではない。システム面は機能も多く良好。ただ、良い部分が何点あっても作品の難の部分がもたらす印象の影響が多きすぎる。とにかくテキストのノリが受け入れ難すぎる。「まどそふと」の作品はもうプレイしないかもしれない。
第21位 マブラヴ

ストーリー:3
キャラ:6
曲:7
グラフィック:5
前評判で散々「つまらない」ということを聞いていたのであまり期待していなかったことが幸いしてか、意外と楽しめた。少なくとも嫌いではない。面白いというわけでもないのだが。CGはそれなりに綺麗。立ち絵は時代相応な雰囲気があるが、全身の立ち絵も表示されるし、悪いわけではない。音響も音の発する位置が分かれていて立体感を演出している。
本作はEXTRA編とUNLIMITED編に分かれている。EXTRA編は学園モノで、良く言えば王道的。ラブコメ作品においてありきたりな展開や設定の連続である。幼馴染や無口、ツンデレ等の属性を割り振られた何人かのヒロインとドタバタ学園生活を送っているうちに主人公との恋愛関係に発展していくという流れは、目新しいものは全くない。むしろ、展開の作り方に無理やりな印象を受ける部分もある。例えば、体育祭での種目中に接触事故を起こした程度でクラスから総スカンを喰らうのは、さすがに無理のある運びではないか。個別ルートに関しても、個々のヒロインについてのイベントに納得感のあるものが少ない。
UNLIMITED編はEXTRA編をクリアして解放される。こちらは打って変わりSF系の作風となる。EXTRA編での世界観の記憶を維持したままの主人公が終末的な世界観へと放り込まれる。なかなか設定も良く、EXTRA編を先にプレイしているからこそ「もとの世界へ戻りたい」という目的意識を読者が主人公と共有できるようになっている。しかし、説明不足の部分も多く、終わり方も消化不良である。
演出の仕方等、好い点も少しはあるが、広く言われているように、この作品は続編への導入としての位置づけ以上には評価はできないと思われる。作品単体としては十分に完結した物語とはなっていない。
第20位 ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-

ストーリー:4
キャラ:6
曲:5
グラフィック:4
学園ファンタジー系統の作品。ストーリーは一本道でほとんどキャラクターごとのルートの差はない作品となっている。
制作会社の「きゃべつそふと」作品に概ね共通することだが、楽曲の歌手と声優が下手である。特に今回のOPは下手だという印象だった。
テキストはクセがなくすらすらと読み進めていける。作品内ではそこそこむごたらしい描写がある。特に序中盤では、物語の全容が把握できていない分、そのように感じられる部分があった。ただ、作品を通して人の死が最後まで描かれきっていない点が中途半端に軽い印象を与える。流血や殺人描写も暗転を使って表現を行っているだけだったので、それ用のCGを用意するなどしてもう少し凄惨さに振っても良いと思う。
戦闘シーンが多いのだが、CGが殆ど同じものの使いまわしで全く臨場感もなく飽きる。戦闘シーンが生じるたびに何十回と見たCGを毎度見せつけられるのは興ざめしてしまう。もっと少しCGの種類を増やしてくれると臨場感が出てきてよかったのではないか。というか、そこに金をかけなくては駄目だった。また、戦闘のバリエーションが少なく、殆どが同じような展開で終わっているような気がする。戦闘中の各キャラの成長もあることにはあるが、各キャラクターが1度大きく変化して終わるので、もっと段階を踏んで、戦いを重ねる中で成長しているような演出を入れてほしかった。
学園ファンタジー系作品の性質としてある程度は仕方のない部分もあるかもしれないが、最後があまりにご都合主義展開になっている。ラストシーンはこれまでの感慨を一切無視した展開に仰天してしまう。
今までこの作品のライターが得意としてきた叙述トリックをメインとしておらず、戦闘を描いたことによって不慣れな部分が悪く出てしまった作品であったと思う。序中盤は良かったものの、〆方があまりにもったいなく、期待していた分肩透かしを食らった。戦闘の臨場感も全く出ておらず、残念。自作に期待。
第19位 サノバウィッチ

ストーリー:5
キャラ:7
曲:8
グラフィック:7
実は初めてプレイするゆずソフト作品。全くの偏見ではあるが、この会社の作品はキャッチーなキャラデザで惹きつけ軽薄なストーリーをおまけ程度に積んでいるものだと思っていたが、想像していたよりはストーリーがしっかりしていたと感じた。会話のノリがうすら寒く感じる部分もあったが、許容範囲だろう。
こういう作風の作品はシステム周りの環境がとても充実しているように思う。本作も、「お気に入りボイス機能」やテキストの色彩変更の幅広さ等、他の作品に比して優れたものがあった。声優も上手く、キャラクターに適していたと思う。キャラデザも好く、立ち絵も豊富であった。CGも綺麗。
ストーリーについては、先ほど「思っていたよりはしっかりしていた」とはいったものの、もともとのハードルが低かったので、純粋に面白いかと問われるとそうでもないだろう。よく言えば王道的な内容ではあるが、こうしたノベルゲームをしていると浴びるほどに読んだ展開の連続で、起こるそれぞれのイベント・事件についても、あまり話の中に引き込まれるところまではいかない。各個別ルートについても内容にそこまで差異があるというわけではなく、基本的には同じ構成で、しかも、そこそこ長いので冗長に感じてしまう。会話の内容というよりはキャラクターの見てくれや声で読者に惹きつけるタイプの作品なので、そこまで各ヒロインにも思い入れを抱くけるようなこともなかった。
悪い作品ではないが、物足りないといえる。シナリオでもっと惹きつけてほしかったが、そういったことを求める層はこの作品の本来のターゲットではないだろうから、つまらないというほどでもないシナリオであったとは思うし、これでいいのだろう。
第18位 星織ユメミライ

ストーリー:4
キャラ:7
曲:8
グラフィック:8
今時珍しいくらいの”普通の”恋愛ADVだったように思う。主人公の名前を設定できるのも珍しいし、ヒロインとの出会い方も昔のギャルゲっぽさがあるように感じた。高校生で転向した主人公がヒロインと出会い、恋愛し、生活を営む様子が描かれた作品。
作品の外の話にはなるが、動作の挙動が不安定で、フリーズしたり、画面が点滅したり。セーブ画面が表示されなくなったりする。自身のプレイ環境のせいなのかもしれないが、そういったことがここまで頻繁に起きるのはこの制作会社(tone work's)の作品と別の会社あと一つくらいなのでどうにかしてほしい。
メインヒロインが6人と多く、CGの枚数も死ぬほどある。しかもそれぞれに個別のED曲が用意されている。OP、EDは好いものが多かった。背景やCGの出来も良くできている。海の魚を採ってきて展示にしているはずなのに、水槽のCGが明らかに淡水魚水槽の描写であるような細かい部分へのミスはあるが、そういうことを気にしているのは自分だけなので問題ないだろう。キャラクターはそれぞれ属性の分担もされており、不快感も与えてこないため良かった。欲を言えば、属性や性格のみでなく、会話の内容やテンション、雰囲気などからもっとキャラクターごとの個性、魅力が出されていれば良かったと思う。そのようなことが出来ている作品はそうそうないのだが。また、ルートを選ばなかったヒロインが分岐後には舞台装置と化してあまり人物としての主張をしてこなくなるのも残念だった。キャラ同士の掛け合いで魅せてほしい。
ストーリーに関しては、主人公の”人生”を描いている......らしい。それに関しては、高校時代に主人公がヒロインと出会い円満な関係を保ちながら、大学を卒業した後も仕事がとんとん拍子にうまくいき、幸せな結婚をする、というのを”人生”として描いているのが、あまりに欺瞞過ぎて入り込めなかった。主人公やヒロインは、殆どが大した挫折や失敗もなく恋愛や仕事が進めていくので物語に起伏がない。学生生活の枠の中のみで完結する作品ならまだしも、卒業や就職、結婚などの長いスパンでのライフイベントを描いている以上は、その過程で何らかの挫折や苦悩がないと不自然である。また、出会いから付き合うまでの流れが少し不十分に感じる。そこにも主人公らの葛藤は見られないため、結局全てを労せずに上手くいっている主人公の生活を見せつけられているだけの作品になってしまっている。また、全てのキャラクターが高校生からの”夢”を社会人になっても追いかけ続けていることも好きでない。目標をもって取り組み続けること自体は素晴らしいことだとはおもうが、そのような信念と情熱を持ち続けることができる人間はまれであろう。それができることが当たり前に描かれているが、むしろ、そういったことのできない人間の弱さのような部分を肯定してくれるようなルート、高校からの夢をあきらめてしまった主人公やヒロインのルートが一つくらいあっても良かったのではないか。
この作品は高校生活での恋愛にとどまらず、結婚までの長いスパンを描いていて、実際作品の尺もそうとうに長くなっている。それならば、もっと一人の人間の人生譚としての側面を出して、少しでも葛藤や苦悩などを乗り越える描写があれば良かったと思う。仕事も恋愛も大きな問題なくうまくいっているだけの起伏のない話を長々見せられてもしょうがない。
第17位 青い涙

ストーリー:6
キャラ:7
曲:5
グラフィック:4
人の”情”が描かれる作品。背景や絵は秀麗とは言えないが、セル画風で素朴で温かい印象を与える。キャラクターに声はついておらず、BGMも平々凡々な印象を受ける。また、既読スキップができなかったのは痛い。個別ルートの回収はほとんど同じテキストなのにほんの少し差分があるから、下手をするとまだ読んでいなかった文章を見逃してしまう。
個別ルートは殆どが同じ展開で辟易とする。ヒロインを変えただけで、ルートの大まかな展開や、それを通して主人公の達する結論が同じであるため、プレイする意味がない。それでいてそこまで面白い内容でもないので、進めるのに疲れる。
後半の展開についてはよくできていたと思う。人が人を想う”情”の連鎖と不条理な選択を迫られ、悔いるキャラクターたち、そして、その運命を断ち切ろうと藻掻くストーリ―が非常によくまとまっていて、感動できる。互いが互いにどういった感情を向けながら行動をしていたのかということが母と子のそれぞれの目線から同じ状況について描写されるため、安易に家族愛を魅せてくる演出になっておらず、立体感のある感情が演出される。後半は主人公とその周辺の人間関係に絞って描かれているため、主人公のいた村々をめぐっていた複雑な状況はどうなったのかということが描かれずに終わってしまっていたので、そういった周辺の状況の顛末についてはもう少し記載が欲しかった。
個別ルートに関しては、正直存在意義を感じないのだが、TRUEルートのみで見るとストーリーはとてもよくできた作品であったと思う。総合的にはプレイした価値はあったと思う。
第16位 こなたよりかなたまで

ストーリー:6
キャラ:7
曲:6
グラフィック:3
余命数ヶ月の主人公が、ヒロインたちとの関りを通して自分の人生を見つめ直すというのが主題である。短めの作品だがヒロインは4人で計5ルートあり、気合が入っている作品だと思う。
キャラクターは、全体に不快感はなく、ヒロイン達にも皆愛嬌があり好かった。立ち絵・CGは些かチープな印象で、曲数も少なく、BGMも単調である。しかし、OP・EDの質は良いし、年代のことを考えると許容範囲ではないだろうか。
展開が急に感じる場面もいくつかあったが、全体的にはまとまっていたように思う。しかし、ルートのラストは、各ルート全体的に弱いと感じた。特にそれぞれのヒロインと結ばれるルートでは、基本的に主人公とヒロインがくっついて終わりという展開が多く、それならば、各ED後に「その後」として、それぞれの登場人物の心情や境遇がどうなったかというところを一瞬でもいいから描いてほしかった。
また、欠点として、この作品のファンタジー要素は全くの蛇足である点が挙げられる。一般人設定であるヒロインのルートではファンタジー要素は殆ど出現しない。また、ファンタジー要素と直接のかかわりのあるヒロインのルートでも、それらのルートの中でファンタジーならではの描写は僅かであって、そういった設定に頼らずとも、別の、現実的な設定でも代替できるように思われる展開・演出が多かった。全体的に短めの作品であるがゆえに、碌に使えていない設定を入れるよりは要素を絞って勝負したほうが良かったように思う。
テーマは好く、それぞれのキャラクターにも光る部分はあったが、シナリオの纏め方でそれらを活かしきれなかった部分があるように思う、惜しい作品である。
第15位 ルリのかさね ~いもうと物語り~

ストーリー:6
キャラ:6
曲:7
グラフィック:5
主人公の高校生と年の離れた姪が、ぎこちない関係から気の置けない仲へと変化していく中で与えられる不条理に如何に立ち向かっていくのかが語られる。また、そうした事件を通して主人公の内面の成長が語られる教養小説らしさも備わっている作品である。
BGMは種類が少ないものの良質だと感じる。CGや立ち絵に関しては少し安っぽさが残る。演出がよく凝らされており、OP、EDの曲の挿入部分や、BGMの入り方が感情を乗せさせ、作品に入り込ませる。
主人公の高校生という立場は、姪との関係においては「大人」であることを求められるが、精神面において成長しきれているとは言えない。「子供」の部分があることを主人公も自覚的である。しかし、主人公が強制的に内面も「大人」になることを求められたとき、何を想い、何を考え、成長していくのかという過程が語られる。そうしたことがメインに書かれるルートはもちろんよくできているのだが、それ以外のルートもそれなりに感動できるものとなっている。
展開としてはシンプルな構成ながら、キャラクターの配置や演出で魅せ、感心・感動できる好い作品だったといえる。
第14位 つよきす

ストーリー:5
キャラ:8
曲:5
グラフィック:4
キャラクターが魅力的な作品。ノベルゲームにおいてはキャラクターが最も重要な要素の一つだと思っているので、自分好みの作品だったといえる。ヒロインだけでなく、サブキャラクターまで生かされている。テキストも適度にメタ的な要素やパロディが含まれていて笑える。
それぞれメインヒロインは「ツンデレ」属性をもっているのが良い。そういうタイプのヒロインが最近減っているような気がする中で、懐かしくもあり、また、プレイしていて楽しかった。
各ルート、主人公がヒロインと付き合った瞬間から人格破綻したかのように性欲に踊らされているのが受け付けがたい。そして濡れ場の回数が多すぎる。それでいて濡れ場のテキストやシチュエーションは全く新規性はなく、辟易としてしまう。前半の魅力的だったキャラクター同士の掛け合いも、個別ルートの後半に入ると、ほとんど該当ルートのヒロインしか描かれなくなってしまう。そして、その該当ルートのヒロインも会話の大部分が濡れ場に消化されてしまい、まっとうな掛け合いが減ってしまう。実に残念である。人の理性を莫迦にしている。
キャラクターはよく造形できていただけに個別ルートでの魅せ方をもう少し考えたものにしてほしかった作品である。
第13位 ひまわり

ストーリー:7
キャラ:7
曲:5
グラフィック:2
宇宙を舞台に添えたSF作品。キャラクターが皆善人悪人になり切れないところの描写が人間味があって好い。BGMはフリー音源ではあるもののそれぞれの場面に適したものが使われていたと思う。
スケールの大きなSFを二度読ませる構成が良くできている。一週目はまず部活モノチックなノリで、ドタバタがありながらも部活や恋愛展開をみせられることになる。正直この時点では退屈だが、話を進めていくうちに過去編へと至る。「過去に何があったのか」ということが隠されたまま進んでいたのだが、その謎が徐々に解けてくる。それぞれの登場人物の背負う過去や想い、しがらみの全貌が明らかになったあとに再度同じルートを辿らせる構成は、凝らされている。それぞれの登場人物の背景を知ることで一週目には気が付かなかった部分が見えてくるし、伏線の数々にも気が付くことができて良かった。
一方、所々蛇足だと感じる部分や説明不足なままに感じる点も残る。宇宙関係の描写においては細かく語られていた一方で、人の感情や言動の描写については疑問の残る部分も多い。一般的に考えてもおかしいと思われる現象に対して説明不足に感じる点が多々あった。また、恋愛描写においても唐突感のあるものが多かったように思う。なぜ、そこまでそのキャラに懸けるのかという背景が空白である。
なかなか冗長に感じる部分もあり、惜しい点も多くあったが、構成は凝らされており、作品の大筋としてもよくできた作品だったとは思う。
第12位 月の彼方で逢いましょう

ストーリー:7
キャラ:8
曲:9
グラフィック:8
OP、ED、BGM、どれをとっても曲が良い。開始数分で、BGMに力が込められていることが伝わってくる。背景も細かいところまでよく描かれていて、それらが相乗して、秀麗で清廉な夜の雰囲気などは特によく出ていたと思う。一方、背景のCGの使い方が手抜きであるようにも感じた。同じ配色で季節感も感じられなかったりと、気遣いが足らずもったいない。
メインヒロイン3人とサブヒロイン4人のルート構成。サブヒロインのルートは、比較的無難な恋愛展開に発展していくのだが、これらもなかなかヒロインの造形も良く、それぞれタイプも違ったものになっていて飽きさせなかった。それぞれのルートに適度な盛り上がりもあって、良くできていたと思う。
メインのルートはSF展開が色濃く反映されてくる。複数ライターによる作品らしく、それぞれのルートによって出来に差がある。
メインルートの2つは、途中、主人公が臭い正義を語りだしたり、幼稚化したりするのは鼻につく。性格が共通ルートと変化していて、主人公が不快で聞き分けのないクソガキになり果ててしまっているのにそのフォローもない。展開にしても、人物の行動原理の説明が足りず、シナリオにおいての妥当性があるのかどうかも疑義が残る。また、シナリオにおいても作者の身勝手さがにじみ出ていると感じた部分もあり、感動的な雰囲気で締めてはいるのだが、いまいち興醒めを感じてしまった。
一方、感動させる雰囲気づくりは、良質なBGMの挿入をはじめとして効果的に醸し出せていたと思う。メインヒロイン3人のうちの一つは特にこれが優れていて、また、ヒロインと主人公の恋愛展開もおろそかになっておらず、作品の良さが存分に出ていたと思う。
サブヒロインらとの恋愛展開に重きを置いたルートはそれぞれ見やすく良かったと思うが、メインのSF展開についてはなかなかイマイチだった部分も多かった。総合的には悪くない作品だったと思う。全体的に作品の雰囲気は好きだった。
第11位 すみれ

ストーリー:7
キャラ:6
曲:7
グラフィック:6
ままならない理想や上手くいかない現実を抱えた4人がネット上で集まり、それぞれとの関わりの中で新しく生まれ変わることを決意していく。
キャラクターの表情から悩み苦しんでいる様子や悲痛さが伝わってくる絵が多く、現実とネット上での表情のギャップが作品のテーマを表せていた。テーマ自体が奇抜ではないものの、周囲となじめない人間模様の描写の、静かに、滲みるようなテキストと展開に満足できた。主人公の「もはやオタクですらない自分」への自嘲を込めた語り口は、自分もそうなっていくのではないかと思わせる。また、個々のヒロインについても、自己実現のできない様の描写はよくできていて、刺さる。人間の、社会的な側面に対応できない弱さを忘れようとするも、なかなか克服できない葛藤が画面を通して伝わってくる。また、孤独を気取っていたものの、いざクラスメイトにはやし立てられると虚勢を張ってそこでできた付き合いに入り込もうとしていくような様は、割り切れない人間らしさが出てて良いのではないか。
ただ、シナリオが終盤になるにつれて何が起きているのかわからなくなっていく部分もあったり、結末が描かれ切らないまま終わることもあったので、そういった部分は消化不良だった。
シナリオ上の消化不良になる部分もあるが、ゼロ年代の全体的な優しい雰囲気を兼ね備えている作品で好印象であった。
第10位 終のステラ

ストーリー:7
キャラ:8
曲:8
グラフィック:9
近未来系SF系作品。アンドロイドの少女と主人公の旅路の中での心境変化を描いている。
ロープライス作品であるのに、CGや曲が非常に豊富だった。下手なフルプライス作品よりもよくできていたと思う。
作品の題材自体はいささか陳腐ではあるが、テキストは短いもののまとまっていた。ストーリーはルート分岐などなく一本道である。話の起伏も程よくつけられており、丁寧につくられていた。主人公とヒロイン一人の物語を語るからこそ余計な情報やキャラクターもなく、スッキリと話に入りこんでいけた。逆にフルプライス作品だとしたら、ルートによる出来の差異や余計なキャラクターの蛇足な部分ができていただろうから、これで良かったのではないか。
締め方への不平がないわけでもないが、関係性の中の”優しさ”の物語が好い。本能と理性が対照的な概念ととらえられがちであるが、この二つはそうそう割り切れるものでもないだろう。”人間性”などというものは人間自体にもそこまではっきりと捉えられるものではなく、割り切れないのが人間である。そのうえで、そのまま他者とのつながりを紡がなくてはならず、そこにある”愛”や”関係”をただ肯定していく必要があるのであろう。
第9位 腐り姫 ~euthanasia~

ストーリー:7
キャラ:5
曲:8
グラフィック:7
田舎町を舞台とする伝奇的な作品。記憶を失った主人公が療養のために田舎町で過ごすが、そこにある自信をめぐる因縁や整合しない記憶等に翻弄されながら進んでいく。
頽廃的な田舎町の雰囲気が可憐に描かれる背景から伝わってくる。また、BGMも郷愁的で美しく、よりその雰囲気を感じさせてくれる。ふんわりとした腐った甘い匂いが画面から出て伝わってきそうなほどである。
読み手は主人公と同様に何も知らされないままに物語は進んでいく。徐々に明かされていく登場人物の暗部と話の全容。田舎町においての閉ざされた人間関係の中、皆優しいはずなのに、記憶を失った主人公に対してどこかよそよそしい。そういった関係性の魅せ方、演出の仕方が非常に良かった。話の終盤には突飛に思える展開や設定も出てくるが、そういった部分を気にさせない、主人公の本能的な行動原理の一貫性と作品を包む切なさや雰囲気が作品をレベルの高いものに昇華している。
同じ話を繰り返すうちに失われた情報を徐々に取り戻しながら進めていくので、なかなかに複雑で理解のしにくい部分もある内容ではあると思うが、作品全体としての雰囲気づくりが素晴らしく、その一点だけにおいても目を見張るものがある作品だった。もちろん内容自体もつまらないものではなく、総合的にも良い作品であった。
第8位 きっと、澄みわたる朝色よりも、

ストーリー:7
キャラ:8
曲:8
グラフィック:9
開幕一番、画面に映える紅葉の描写がきれいである。季節を題材とした”夏ゲー”、”冬ゲー”等呼ばれる作品は多くあるとおもうが、「秋」を主題とした作品は珍しいのではないだろうか。
キャラデザが非常に”萌え絵”という感じがしていい。会話のノリが古臭く、コミカルさがわざとらしく強調された会話が耳になじまなかったが、年代的には標準はこんなものだろう。また、タイトルが章ごとに変わっていき、最後に一つの文章となっていく演出は次章への期待を高めてくれ、良かったと思う。
作品では「優しさと、それに伴う痛み」が語られる。実に”秋”らしい。絆や友情と形容してはあまりに陳腐な、”愛着の場”が描かれる。なぜ、主人公が幼少の頃のつながりをそんなにも大切にするか、等裏付けの描写がしっかりあって好かった。また、主要な登場人物はそれなりに数がいるのだが、どのキャラクターも確固たる意志を感じられるため、それほど混沌とすることもなくスムーズに進められた。しかし、何度も作中に挟まれる「主人公が衒学的に知識を見せびらかすシーン」だけは全く必要性を感じないし、勘弁してほしい。
「矛盾。それがこの世界。『人間そのもの』」と主人公が述べている通り、登場人物が全員優しく、だからこそ優しさだけではままならない想いや葛藤、軋轢の解消が問題となっていく。しかし、だからこそ、生じたその軋轢等を”優しさ”で解消しようとする様は温かく、好かった。
作品の根幹にかかわるため触れないが、その性質上不満点や矛盾も感じられるため手放しでは褒められないが、少なくとも好きか嫌いかと問われれば好きな作品となった。
第7位 CARNIVAL

(※公式ホームページ消失)
ストーリー:8
キャラ:8
曲:8
グラフィック:8
同一の事件が三者の目線から語られることにより、徐々に真相が明るみになっていくという群像劇の形式を採った作品。そのタネ自体は特に目新しい設定等はないが、その流れでも面白く魅せ、更にテーマ性を見せつけてくるところが瀬戸口作品といったところか。
一見して奇抜に見えるストーリーの展開は意外と単純で、殆ど一本道の内容となっている。素晴らしいテキストは体に染みわたり、決して読みやすく書いてはいないだろうに、すらすらと自然に読み進められる。ストレスなく読める文章というのはこういうことだろう。
人生の中で、人としてできることは「生きること」である。つまり、生まれたからにはただそこにある自身の「生」を全うしていくしかないのである。それが、どんなに不条理な状況に見舞われ、自分が望んでいな状況だったとしても、そこに与えられた人生を歩んでいくしかないのである。人生における不安や悩みは、それが解決されることによってではなく、考えなくなることによって解消される。だから幸福に生きるしかないのだ。人としての尊厳を破壊され、絶望的な状況になっていく中で、それでも自身の「生」を引き受けて歩みを進めていこうとするキャラクターの姿が短い作品の中でよく描かれていたと思う。
悪かった点としては濡れ場の展開が全て唐突すぎるだろうということくらいであろうか。短い中に、無駄なくメッセージ性が込められている作品だった。幸福に生きよ!
第6位 殻ノ少女

ストーリー:8
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
戦後の東京を舞台としたサスペンス・ミステリー作品。サスペンス、ミステリーどちらの要素もよくできており、文章も読みやすく後半になればなるほど読み進める手が止まらなくなってしまう。終盤になり一気に謎が解けていく様は感心してしまう。
グラフィックとBGMが秀麗で、透明感のある作品の雰囲気が非常に良く演出できている。春先の、まだ少し寒さの残るその空気や匂いが画面を超えて香ってくるような、それほどの臨場感がある。
サスペンス作品としては、猟奇的なシーンの描写の筆致も鮮やかで引き込まれる。そういった描写が視覚的、聴覚的な部分も併せて表現できるのはノベルゲームの特権であり、小説や映画、アニメではここまでの直接的な表現はできないだろう。また、主人公の目線からみて予測可能な悲劇であってもそれを回避するのにあと一歩届かないというような精神面での追い込み方も一級品である。メインヒロインの造形もまた素晴らしく、これから主人公が三部作にわたって囚われ続けるのも納得してしまうような、どこかはかなげで危うい雰囲気を醸し出しているような、そんなキャラクターを生み出していることが凄い。
ミステリー作品としてもノベルゲーADV作品という特性が生かされていて良いと思う。探偵モノということもあり、選択肢が豊富で、その選択によって様々なエンディングに分岐する。複雑に入り組んだ話をそれぞれの選択においてよくまとめていると思う。多少強引に進められているように感じた部分もあったが、十分満足。
システム面においては不満が少し残る。既読文の色変えやエンドロールのスキップができない。また、エンディング、CGの回収が非常に面倒くさい。選択肢による分岐が滅茶苦茶に多いので、自力で集めるのはほとんど不可能に近いだろう。
テキスト、BGM、グラフィック等、ノベルゲームに必要な要素が高水準に定まっていてとても良い作品であった。三部作の第一作目であって、この作品だけではまだ消化不良であるため次作にも期待。鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。
第5位 虚ノ少女

ストーリー:8
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
前作『殻ノ少女』の続編。前作に引き続き、絵、音楽、テキストによる雰囲気作りが素晴らしい。ノベルゲームという媒体を本当に生かしている作品だと思う。しかし、挙動が不安定で急に落ちたりフリーズしたりする頻度が高く、それについては勘弁してほしかった。
膨大な数のキャラクターと様々な場所、時間で起きる事件が徐々につながり、一つにまとまっていく。猟奇描写等の狂気の描き方は前作よりもマイルドになっているが、シナリオとしてはこちらの方が楽しめたし、筋が通っているように思う。エンディングの分岐も前作より複雑でないので、すっきりとした印象を受ける。
先ほども述べたように、猟奇描写や設定は前作に比べて弱い。TRUE ENDのラストは、特に前作を行っていれば、読者も主人公と同じように感情が揺さぶられるものになっていた。しかし、今作のメインの話は主人公とは一歩引いた立場の人間関係に焦点が当てられており、本作から出てきた登場人物のコンテクストを意識した感動(本作単体での感動)は少々薄い。作品が独立して楽しめるという側面もあるだろうが、三部作と銘打っている以上は前作の文脈がもう少し話の中でも意識されていてはどうかと思う。次作において、本作の内容も回収されるのであればそれで良いが。
パラノイアに囚われた猟奇殺人犯を追う主人公。その主人公もまた前作のヒロインの影に執拗に囚われている。前作では言及されていなかったが、主人公が執心しているヒロインは学園の”中等部”の設定であったことが判明したのでさすがに引いた。それゆえ”偏執”と形容されるのだろうが。
三部作の途中なので、次作でどのように最後をまとめてくれるのか期待している。卵は世界だ。
第4位 BLACK SHEEP TOWN

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
あまりに巧みな群像劇。多数のキャラクターの行動や考えが折り重なり、それぞれに影響を与えながら収束していく。大規模なプロットとそれをまとめ上げたことにまず脱帽する。音楽や絵柄も作品のノワールな感じに適しており、とても良かった。また、この作品は一方通行のシナリオなのだが、その開放順や用語解説機能なども読み手に配慮された作りになっていて、多数のキャラクターや複雑な話の相互の関連を理解しやすいようになっていた。
作品のテーマとして一つ「死生観」があげられ、様々な側面からそれが語られるが、あまり衒学的にはならず、純粋に娯楽作品としても楽しめるのも高評価のポイントである。
歯車のような形態でかみ合う社会で、本質的に独立した”個”などない。それぞれが選択し、変わり、終わる。作中、様々な死があふれているが、死に逝く人々の全てにドラマがあり、意味があり、感じ入る部分がある。選択一つ違えばその”死”はなかったかもしれないが、そうしたifを考えることは、無意味なのだろう。その死が、それまでの”生”に意味をもたらしている。惜しむ気持ちと同時にそこには一種の満足感が与えられる。そして、選択の結果がどうであれ、生きている限りはその結末を引き受け、”生”を肯定していかなくてはならないのであろう。一縷の希望にすがりながら。そこに多少の善悪があろうとも、また明日が来る。
決して明るい内容ではないが、絶望的な状況に静かな温かさや希望が与えられるような、しっとりとした作品である。今日も太陽は東から昇ってくる。
第3位 SWAN SONG

ストーリー:9
キャラ:8
曲:7
グラフィック:8
様々な人間の目線から多角的に語られる様式が、群像劇として現前する。同じ物事をとらえるにあたって、その人物の過去、経験から印象が変化し、結果、生まれるすれ違い。極限状態の中においては、あらゆる行為が正当化され、倫理が失われていく。自身の本能のために奪い、犯し、互いが互いの敵となる。やがては獣のようになりゆくその生物を、果たして「人」と呼べるのだろうか。人が人として生きるということはどういったことだろうか。
余裕のない中の生活で、意識させられる他人との差異。そこから生まれる軋轢は、過激化し、とめどなくなっていく。その中で、何かにすがりたいという気持ちはごく自然であろう。宗教をヒステリーだと莫迦にする人たち、そうした人たちも、特定の敵を作って、共通の認識に寄りかからなくてはならなかった。宗教を莫迦にしていた者たちでさえも、様々な形で信仰に回帰していく様は、ドストエフスキーを思わせる。信仰は、苦しい状況にある人にとって、理性の暴力的行使のブレーキとなり得る。また、神を信じず、信仰を憎み、敵対するようになった人間も、最後には信仰に回帰していくのである。
そうしてふと現実を見ると、まるで同じ問題に立ち向かわされる。自身と違うものを排除しようとしていないだろうか。自身の正義絶対的なものだと信じ、それを振りかざしてはいないだろうか。「正しさ」が相対的ではないのなら、何を信じ、生きればよいのか。きっと疲れている今の世は、わかりやすい「指針」を求めている。間違っているものは糾弾すべきだ。犯罪者は排除すべきだ。大義名分をもって、正義の名のもとに行う罰の執行者にみんながなりたがっている。でも、世の中〇か×かだけには決められないだろう。だれが「正しさ」を決定するのだろう。自身と相手が違う存在であるということを理解し、折り合いをつけながら関係を築いていく営み、これこそが人が人としてある条件の一端なのではないか。人は他者を”想う”ことができるのだ。
第2位 天ノ少女

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
「カラノショウジョ」シリーズ三作目。この話で今までの締めくくりとなる。三部作のラストとしてふさわしく、良い決着の仕方であった。
引き続きCGやBGMは一級品である。今までのミステリー・ホラー路線は変わらないものの、事件の背後にある思想や因果は前作よりも意外性はなく、細かい内容や登場人物の荒はある。この作品を単体で見るとなるともっと低い評価になるだろうが、三部作の最終章という立ち位置においてあのラストシーンを制作しただけでこの作品は満足できる内容であった。
長く苦しい事件を追いかけ、失ったものは数多く、得られたものは僅かであった。僅かに残されたものに目を向け、踏ん切りをつけ、新たに歩み始めた主人公。それでも心のわだかまりは残るが、時がその傷をゆっくりと癒していく。そこから約10年の時を経て、自身の行ってきたことが全くの無駄には終わらなかったのだということを感じ、カタルシスを迎えるのである。今まで追いかけてきたヒロインとの思い出のフラッシュバックを感じると同時に、そのヒロインとの訣別を実感し、”これでこの物語は終わったのだ”と自覚する。主人公も読者も。ラストの挿入歌や独白の調子は本当に、今まで作品を行ってきた人ならば自然と涙がこぼれてしまうだろう。一作目の『殻ノ少女』におけるメインヒロインの造形が非常に優れており、だからこそ、主人公が揺さぶられている様にも共感できるし、感動できる。あれを見たら放心してしまう。
一つの長い物語に区切りをつけ、新しく始まっていく物語への嚆矢となる。失われた過去の人の想いを背負って、今を幸せにしなくてはいけないのだ。生まれようとするものは、一つの世界を破壊せねばならぬ......しかし、その先に続く新たな道を、確かに、歩んでいくのである。
第1位 マブラヴ オルタネイティヴ

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:8
前作『マブラヴ』の続き。前作はプレイ必須。そうでないと作品が浅いものになってしまう。前作では十分に語られているとは言えなかった緻密な世界観の設定と前作からの怒涛の伏線回収には息をまく。一方複雑な設定や場景の説明に非常に長い時間が割かれてしまっているのがいささかの欠点であろうか。戦闘シーンはCGや動画の挿入といった演出も相まって非常に緊迫感のあるものとなっている。
主人公をはじめとするキャラクターたちの成長をメインに添えられたストーリーである。前作の段階から積み上げてきた”想い”が作品を進めていくうちに反響してくる。その増幅は主人公だけにとどまらず、主人公と同じ道を辿り、歩んできた読者を引き込んでいく。
進める度に、主人公の目的意識がさらに掘り下げられていく。なぜ戦闘を行うのか、何のために争うのか、その理由も人により様々で、どこにも一つの正解はなく、自身の決意も揺らいでいく。そうした様が良く描写されている。また、主人公だけでなく、周りのキャラクターたちも同様な精神的な成長を果たしていく。絶望し、藻掻き、立ち上がろうとする、そのようなキャラクターの魅せ方が上手く、だからこそ得られる哀愁が感動的によく作用してくれる。とにかくキャラクターに対して得られる深み、思い入れが並ではない。
何度も繰り返すが、前作を含めて長いストーリーを主人公と共に歩んできたからこそ主人公に共感できるし、最後の展開にも非常に感動でき、カタルシスが生じる。長い作品であることを最大限活かしている作品で、非凡であることは間違いない。
おわりに
ここまで読んでくださった方はありがとうございます。キャラを名指しした解説を極力省いたので、去年のものよりも総合的な感想になっていると思います。ただ、キャラクター名を出さずに感想を書くことは作品によっては適していないので次書くときにはいっそのことネタバレを思いきり行いながら、もっと批評的に書いてみるのもいいかも知れません。
文字数も昨年のものより少なくなっています。よほど面白かったりつまらなかったりする作品は語りやすいのですが、今年は「中の中~上の下」くらいに感じた作品のプレイが多く、感想を書くのが難しかったような気がします。自分の感情を揺さぶるような作品がなくなってきたのでしょう。有名作品からかたっぱしプレイし続けていればそうなってきます。しかし、些細な作品の良さを見出して、そこを掘り下げ、表現できるように目指さなくてはならないと思います。どのような作品であってもどういったところに自身が価値を見出したのか、あるいは、どういった部分に憤りを感じたのか、そういった感情をうまく見つけ、表現できるようになりたいものです。そして、結構これらの作品を行うのに時間を使っているはずなのですが、月平均にするとどうしても2本程度にとどまってしまいます。不思議です。
今年は『BLACK SHEEP TOEN』という大きな新作があったのが良かったです。『ジュエリー・ハーツ・アカデミア』は期待していただけに残念でした。『それは舞い散る桜のように』のリメイクと『サクラノ刻』も2022年発売予定だったのが、しれっと2023年に延期されていました。決して安くない金を出すのにも関わらず、平気で発売延期を行い、ともすればそれを繰り返すノベルゲー界隈の風潮はどうにかならないものかと思います。
以上
コムドット やまと『アイドル2.0』感想 —— 明日への希望
はじめに
「コムドット」というのは、リーダーのやまとを中心に「地元ノリを全国へ」「放課後の延長」をスローガンに掲げて活動する5人組のYouTuberである(Wikipedia)。そのコムドットのリーダーのやまとさんが講談社より、こちらの本を出されました。

タイトルは『アイドル2.0』。Youtuberの動画を普段そんなに観ないこともあり、著者のやまとさんのことはあまり存じ上げませんでした。しかし、やまとさんの前作『聖域』を読み、あまりの感銘を受けたために本作も思わず購読してしまいました!毎日メルカリのチェックは欠かせませんでした……
帯の文は、なんと”あの”秋元康が書いています。帯文では内容の感想はなく、タイトルにしか触れていないような気もしますがこれは期待できるのではないでしょうか……?そのような想いを胸に馳せながら、ついにページをめくりました。
内容
ページをめくって、まず目に飛び込んでくるのが「写真」です。著者のやまとさんの写真が、上質な紙にカラーで印刷されています。しかし、前作『聖域』では18ページもありましたが、今作では2ページにとどまっています。しかし、このやまとさんの写真は、よく見ると”衣装っぽい”生地の服を着ていて、更にはスカートを履いています。アイドルには疎いのですが、色合いも相まって、これは「AKB48」をどことなく意識させるような気がします。読者は既に秋元康の掌で遊ばれているということなのでしょうか……?不安にさいなまれつつも進むしかないのです。買ったからには。
目次は概ね下記ような感じで、途中コラムが入ったりします。
はじめに
1章 コムドットが売れた17の理由
2章 令和の「YouTube論争」
3章 鈴木大飛のリーダー論
4章 鈴木大飛のセルフブランディング論
おわりに
それでは、いよいよ内容を読んでいくことにしました。
はじめに
まず、「はじめに」で、やまとさんの、本書への想いが語られます。
今回の『アイドル2.0』では、コムドットが実際に行ってきた戦略や今後の展望、業界に対する分析等、現時点で私が持っている全てを吐き切るつもりである。(中略)この本を手に取ってくれた人にとっての「人生の一冊」になるよう最後まで本書と向き合い尽力することをここで宣言させていただこう。(コムドット やまと『アイドル2.0』pp. 5)
なるほど……この本には、なぜコムドットがYouTubeで成功したのかを分析した内容が書かれいているようです。「人生の一冊」……すごい気迫を感じます。その後にも、
コムドットが売れた理由は1000個以上ある(同上pp. 12)。
とされています。その1000個の秘訣を教えてもらえるなんて凄いですね。早速分析結果を見てみることにしましょう。
1章 コムドットが売れた17の理由
......あれ、残り9900個以上の理由はどこへ行ったのでしょうか。まあ、重要なものだけ書いてあるのでしょう。その17の理由は以下のような感じです。書かれていることを一つずつ見ていきましょう。
[1]ルーツは地元にあり
まず、コムドットの成功理由の根底には、その特異な関係性があるらしいです。一体”特異な”関係性というのはどういったことなのでしょうか。
通常、中学校を卒業して高校に入れば地元の友達との関係性は幻だったかのように希薄になる。(中略)しかし我々の地元では、高校進学後も中学校の時と会う頻度がほぼ変わらなかった。部活後に集まり、バイト先も休日も一緒だった。これがこの関係性の特異さである。(同上pp. 15)
小中学校が同じ。そして高校進学後も疎遠にならなかった。これは”特異”......ということなのでしょうか。確かに容易にそのようなコミュニティを形成できるとは思いませんが、”特異”という単語が強すぎて期待しすぎてしまったのかもしれません。
[2]ノリの正義
ここではまず、やまとさんの大学生の頃に経験したことが語られますがあまり重要ではありません。「最初は軽い気持ちでYouTubeを始めた」ということが伝えたいことで、はじめの一歩を踏み出すことが大切なんだということでした。「まず行動に移す」というようなことは確かに大切だと思います。
[3]怒りから生み出された旗
ここでいう「旗」とは目標やスローガンと言い換えてもいいでしょう。コムドットが標榜している「地元ノリを全国へ」という標語は強烈な怒りから生み出されたということが書かれています。そこまでやまとさんに強烈な怒りを与えたものとはなんだったのでしょう。
見ず知らずの相手からの煽り文句は私の中で怒りへと変換された。
そしてその時、「地元ノリを全国へ」というスローガンを打ち立てた。考えたというよりも、怒りから生み出されたというイメージに近い。(同上pp. 21)
煽りコメントに憤怒した結果、「地元ノリを全国へ」という標語を立てたらしいです。あまり因果が感じられないような気もしますが、もはや「売れた理由」になっているのかも怪しいのでいいでしょう。
[4]70点クオリティの正義
クオリティは初めから上げすぎず、余裕をもって持続的に提供できる範囲で力を入れながら行うのが良いということでした。なるほど。
[5]戦略的ナンパ
初期の方ではチャンネル登録者数を直接声をかけて伸ばしていったということが書かれています。精神力がついたようです。
こうした地道な努力をしている姿には好感が持てます。正直、「売れた理由!!」と銘打ってタラタラと眉唾なことを述べるよりも、きっちり努力しているんだと宣言してほしいです。
[6]顧客のターゲッティング
目標設定で、「日本で一番人気になりたい」と掲げたコムドットが次に出した結論は、「女子高生の間で人気になることが必要不可欠!」ということでした。その理由は「女子高生は流行を作り出し、その流行を社会現象に変える力をもっているから」らしいです。
[4]70点クオリティでの話では持続可能な作品提供の話をしていたのに、一過性の”流行”を作り出す女子高生を主眼としたターゲッティングを行うのは矛盾していないだろうかと少し思う部分もありましたが、数字が出ているので結果オーライなのでしょう。
[7]価値の創造
「コムドットの動画を観たい!」と思わせたい、らしいです。それはそうだろうと思うのですが、どうやってそう思わせられるようになったのか、具体的な記述はありません。「価値が出るまで活動に情熱をささげた」(pp. 29)、としか書かれていませんでした。
[8]今会えるYouTuber
タイトルの「アイドル」に寄せてきたっぽいですね。秋元康が帯文を書いていることと何か関係があるのかもしれないです。
オフ会を頻繁に開催していたということが書かれています。今売れている理由は、コムドットが「視聴者ファースト」の活動を続けているからということらしいです。「視聴者ファースト」って何でしょうか。
[9]TikTok戦略
TikTokでとっかかりを作り、YouTubeへと視聴者を誘導するらしいです。
[10]オセロ戦略~悪名を売る~
悪名は無名に勝るので、まずは悪名を広める、ということらしいです。
本当にこれくらいのことしか書いていないので、[10]と[11]を分ける必要があったのでしょうか。
[11]オセロ戦略~印象逆転~
「心理学に興味があって独学で学んでいたため、”認知不協和音の解消”を応用した」らしく、YouTuberとコラボして、その視聴者に良い印象を持ってもらう戦略を用いて知名度と好感度を上げていったようです。どうでもいいけど、「心理学に興味があって独学で学んでい」る奴の信用のならなさが半端でないですね。
[12]会社の設立
やまとさんは、個人の実力を無視した年功序列のシステムが嫌い!、全ての責任を負う代わりに自由に仕事がしたい!ということで、自身で会社を設立したようです。
YouTubeに広告を出している多くの大企業、また巨大資本のGoogleの用意したプラットフォームで出世した割にはすごいことをいうものだと思いました。
[13]道をあけろ
皆さん、こちらのツイートはご存じでしょうか。
【宣戦布告】
— コムドット やまと (@comyamato0515) 2020年12月9日
全YouTuberに告ぐ
コムドットが通るから道をあけろ
俺らが日本を獲る pic.twitter.com/iUVpaFA8zP
こちらのツイートも当然”戦略”のうちかと思っていたら、実のところそうでもないらしいです。
正直、私は例の文章を戦略的に投稿したわけではない。(中略)例の文章はまさに当時の私の心を等身大に映し出した、嘘偽りのない文章だった。(同上pp. 46)
”戦略家”のやまとさんにしては珍しく、感情的な衝動による投稿だったようです。結果的に知名度も増えて良かったと書かれていました。「道をあけろ」というマインド自体が大切なようです。
[14]新世代同盟
コラボをたくさん行い認知度を上げ、「新世代YouTuber」という枠組みを作って浸透させたということが書かれていました。確かに、似た層を好む似たようなチャンネルとコラボするのは賢いなと思いました。これ、[11]にも似たようなことが書いてありましたね。
あと、やまとさんが「革命」「同盟」「宣戦布告」等の言葉をよく使うのは世界史、国際政治を専攻していたことが影響しているらしいです。
[15]部活動精神
中学でメンバー全員同じ部活に所属していたからお互いに言いたいことが言い合えるため、軋轢が生じずにうまくやってこれた、らしいです。これ、「[1]ルーツは地元にあり」で記述しておけば良くないですかね。せっかく1000個以上の中から17個に絞ってくれているのに、そこに被りがあってはもったいないです。
[16]毎日打席に立つ
毎日動画投稿してトライ&エラーを繰り返していくということでした。こちらにはとても好感が持てました。なかなか決めたことを毎日できる人はいないので、それをしっかり続けていることは、それ自体にすでに価値があると思います。
[17]コムドット劇場
大きい目標を宣言することで自分たちを追い込み、注目も集めるのだ、ということでした。[3]に書いていたことはここでも良かったのではないでしょうか。
2章 令和の「YouTube論争」
1章ですでに疲れたし、ここには大したことが書かれていないので一点だけのべます。
「差別化を武器に変えろ」
という章がありました。どうやらコムドットは、努力する姿をエンターテイメントに昇華することでほかのYouTuberと差別化できたらしいです。
努力を隠すことが美徳とされている日本の文化に盾突いたのが良く、コムドットのおかげで「努力は隠すべき」という風潮もなくなりつつある、ということが書かれていました。
……さすがに言い過ぎなのではないかと思います。何本か最近の動画は拝見しましたが、努力の過程をエンターテイメントに昇華した、している具体例を挙げてほしいです。また、動画の内容も差別化できているかと言われたら甚だ疑問です。企画自体はどれも他に行っている人が多そうなものばかりに感じます。
3章 鈴木大飛のリーダー論
ここでは、やまとさんの”リーダー論”が語られます。やまとさんがリーダーに必要と感じていることは以下のような感じでした。
・自信を持つ
・理想を高く持つ
・完璧主義にとらわれず、周りを頼る
・勝ちにこだわる
・初期には独裁的に判断を行う
・”絶対的メンター”を置く
・新入社員に求めるのは「愛」と「情熱」
・目標を発信する
リーダー論自体は全く役に立ちそうにもないので、気になったところにだけ言及します。
まず一つ目に、目標を高く持ち、それを発信するという内容がここでも出てきます。この内容が何度でてきたかわからないですが、出てくるたびに、「目標を立てる」ことと「目標を発信する」ことを別のトピックとして記述してきます。その二つにあまり記述の差が見られないので、どちらかを省いてほしいと思いました。
また、「独裁」というワードがでてきたのも気になりました。国際政治専攻のやまとさんは、「革命」だの「同盟」だの「独裁」だのと”つい”そのような言葉がでてきてしまうのだと1章にも記述されていましたが、本当にそうなのでしょうか。「独裁」はそうそうでてくるワードだとは思えません。「”コム”ドット」というチーム名も意味深な印象を与えているように思えてきました......
さらに、「新入社員に求めるのは『愛』と『情熱』」という部分の記述には度肝を抜かれました。
私は人を雇うにあたり「技術」よりも「心」を重視している。(中略)そして、最後に、「最初の6ヵ月は最低限しかお金を渡すつもりはないけど大丈夫?」という質問を投げかける。(同上pp. 142)
ブラックベンチャーのイメージそのままのような内情を知れました。
4章 鈴木大飛のセルフブランディング論
ここでは、”セルフブランディング”の重要性が語られています。SNSが身近になったことで”セルフブランディング”が重要になってきたらしいです。「セルフブランディング」の明確な定義は出てきませんが、
自分を分析・理解し、ストレートに自分という人間を他者に伝える手段こそが「セルフブランディング」なのである。(同上pp. 160)
とありました。「セルフブランディング」という言葉の使い方に疎いので間違っているかもしれませんが、「自身をブランド化する」というようなイメージを字面から感じます。そんなに万人に必要とされるスキルでしょうか。
セルフブランディングの方法としては、
・自己分析
・定着確認
があげられていました。「定着確認」というのは、「自己分析後の自身の行動の変化、他人からの印象の変化を確認する」ということらしいです。この2点については、まあ「セルフブランディング」を行うなら必要だろうなというのは想像に難くないです。
その後は、あまり3章と変わらない内容が述べられていたと思います。アドラー『嫌われる勇気』の引用が行われていたり、福沢諭吉の『学問ノススメ』の引用が行われており、年間100冊以上の読書をするという、やまとさんの含蓄の深さがうかがえます。
『学問ノススメ』の引用場面では、人は平等でなく、その差は「環境をコントロールする能力を持っているいか」で決まるのだということが語られていましたが、福沢諭吉の引用までしたのに「学問が大切だ」という結論にならなかったのは驚きました。なぜ引用したのでしょうか。
また、コミュニティを複数持つということも重要らしいです。人間関係に軋轢が生じた際の避難場所を用意しておくことが大切らしいです。それはそうだとは思いますが、「セルフブランディング」はどこに行ったのでしょうか。
最後には「羅針盤を離すな!」とあり、まあ、「目標を立てろ」という今まで述べられていたのと変わらないことが述べられていました。こういう本は比喩に「羅針盤」を用いるのが大好きな気がします。
おわりに
コムドットはあなたの味方です!!
と、勇気のでるコメントがありました。
因みに奥付の後ろに写真が上質な紙に16枚もカラー印刷されていました。金がかかっています。
おわりに
最後まで読んでくださりありがとうございました。残念ながら『アイドル2.0』は「人生の一冊」にはならないと思います。
このブログは、コムドットのこともやまとさんのことも嫌いではなく、アンチでもなんでもありません。むしろ本の内容は、ゴーストライターを使わず、やまとさん本人が書いていることが伝わりますし、怪しげなセミナーへの勧誘文句もないので好感を持っています。
途中でも少し述べましたが、コムドットは「地元ノリを全国へ」を標榜している割には「地元」を押し出していないような気がします。行っている企画自体は「地元」の独自性もない、誰にでも出来る内容しかしていません。これは、コンビニやイオン等の巨大資本に占領され個性のなくなっていく各風土の現状を現していて、だからこそ「地元ノリ」として、個性を発揮することではなく、均一化された誰にでも出来る企画を行うことで、現状へのアンチテーゼとしているのではないかと思います。見え隠れする共産的なワードもそうした行き過ぎた資本主義への反発心が出ているのではないでしょうか。日本のこれからを少しでもマシな形にするように考えていかなくてはなりません。
「『革命のファンファーレ』の感想ブログ」を読んでみよう!! ―― 優しい世界とその代償
皆さん、こちらの本はご存じでしょうか。

お笑いコンビであるキングコングの西野亮廣さんの著書『革命のファンファーレ:現代のお金と広告』(以下『革命のファンファーレ』)です。2020年には、映画「えんとつ町のプペル」で話題となっていましたね。評判はどうなのでしょうか。試しに検索をしてみました。
まず、「革命のファンファーレ 感想」という語でGoogleで検索をかけ、一番初めに出てきた感想ブログを見てみましょう。
「革命のファンファーレ」は読む価値のない駄本!?
と、いきなり本質を突くようなタイトルから始まります。一体、中身はどうなのでしょうか。
……
………
…………
…………… 読み終わりました。
読んだ感想をいうと、このブログは宗教がかっていて少し怖かったです。
「革命のファンファーレ」を読む価値の無い駄本と批判する人に問いたい。
アナタは何を成し遂げましたか?
ということが結論部に書かれていますし、ほかにも
その一方で「買わなければよかった」とか「読む価値がない」というのは読書の姿勢としてどうな?とツッコミたくなる。
ということが書いてあり、怖いです。
肝心の、『革命のファンファーレ』に対しての感想は、以下のような点が述べられていました。
- 本書で学ぶべきは西野氏の行動力
……このほかに感想らしきものはみつけられませんでした。『革命のファンファーレ』の要約とアマゾンレビューを取り上げてこのブログは終わっています……
さて、
あまりあてになりそうになかったので、次のブログに進んでみました。
次のブログはこちらです。
こちらのブログは、「実際に信用持ちを目指してみた人の感想」としています。”信用持ち”というのは、『革命のファンファーレ』で述べられている概念の一つです。これからの時代は「信用持ち」の時代らしいですが、ここではあまり『革命のファンファーレ』の内容には踏み込まないようにします。そんな『革命のファンファーレ』を実践した筆者は何を感じたのでしょう。一体、中身はどうなのでしょうか。
……
………
…………
…………… 読み終わりました。
読んだ感想をいうと、まず、読むのが大変でした。本からの抜粋に自身のエピソードが重ね合わせられているだけのパートがほとんどで、ただ、本の内容に迎合しているだけでしかなかったです。述べられていた感想としては、
- 自分には意思があるか?覚悟は?
決定権はあるのか?
今一度自問自答出来た気がします。
のみでした。これですら感想ではなく事実の列挙に過ぎないとは思いますが、書き手がこれを”感想”だと称しているのでそういうことにしておきましょう。
さて、
皆さんは、「革命のファンファーレ 感想」などといった検索ワードをGoogleにかけてみたことはありますでしょうか。そうしてみると、大量のブログが出現します。「こんなにも読者がいて、感想ブログもたくさん上がっている。やっぱり、人気があるんだな。すごいな」と思ってしまいます。しかし、それらのブログを観てみると徐々に違和感が去来します。
その理由は、『革命のファンファーレ』の内容を悪く言うブログは検索にほとんど引っかからないということです。
これは、最近の情報弱者相手のビジネスで流行りの手法です。因みに、この手法はシリカ水(水素水の亜種)でも使われているので、「シリカ水 効果」と検索しても、効能があるといってはばからないブログのみが大量に表示されるようになっています。
誰もがスマートフォンを持ち歩くようになった時代でありますから、「ググる」ことなどどんな人でもお茶の子さいさいになってきているわけです。だから、その「調べた先」まで想定しているんですね。幸い、西野さんの本やシリカ水を売りつけるターゲット層は、そのブログの発信元がどうなっているのか等は気にしないでしょうから、そこまで根回しをしておけば大丈夫ということでしょう。だいたい、「感想ブログ」と検索しているのに、出てくるたいていのブログは『革命のファンファーレ』の”要約”がほとんどで、肝心の感想は一行程度にしか語られてません。一から感想文を考えるよりも、内容をそのまま持ってきてそれに迎合しているだけのほうが製作コストが少ないですから当然ですね。そういうことが気にならない人に向けてということなのでしょう。購読者も安心してモノを買えて、販売者は売り上げが上がっていく。こういう商売をしていきたいですね。誰も損していないので(主観的には)。
そもそも、この本の副題に「現代のお金と広告」とありますが、まともな感性をしている人が「現代のお金と広告」について知りたいのであれば、一芸人の本を買ってそれを学ぼうと思うはずないですね。『革命のファンファーレ』は実際に購読しましたが、本の中身はポジショントークに終始していて一般化などとてもできない内容でしたので、この本から何を”学ぶ”のだというのが正直な感想です。本で連呼されている「信用の時代」というのもつこっみどころが多くて、どうしようもない本だと思いました。
さんざん言いましたが、これもあくまでも一つの意見として受け取ってもらえたらと思います。別に西野さんの「アンチ」ではないので。何かブログを書きたい衝動が出てきたもののネタがなかったので若干旬の過ぎたテーマとなってしまいましたが、ここまで読んでくださった方はありがとうございます。
小説 5作品
小説を多少読むのですが、身近に話せる人がいないので一方的に発散しようと思い、書きました。読んでください。全く学問的背景のない感想です。読みやすいと思った順に並べています。
『タタール人の砂漠』/ディーノ・ブッツァーティ

特別な時間を過ごしたい、自分の才能を活かしたい、そのような思いをだらだらと抱えているうちに、気が付けば取り返しのつかなくなっている。”理想の自分像”を描きながら、無意識のうちに退屈な現実に適応していく様子が寓話的に語られる作品である。突飛な設定なのに、つい自身の状況と重ねあわせて考えてしまい、悲愴な状況にありながらも不安な気持ちに苛まれていく。小説のラストは寂寥感がはなはだしく、儚く、もの悲しい後味を残す。
『巨匠とマルガリータ』/ミハエル・ブルガーコフ

裏と表のある物事に、表のみを求めるのは人間の性であろうと思います。ロシアの街に現れた悪魔が奇想天外な出来事を起こし、世間を混乱の渦に巻き込んでいく。その裏で語られる、「巨匠」の描くイエスの物語と現実の不思議な交差。透明になって箒で空を飛んでいく「マルガリータ」。ロシア文学には何となく暗い雰囲気あり、舞台もスターリン統治下のモスクワであるが、そんなことを感じさせないポップさと奇想さに溢れていて、面白おかしく読める。その中に、抑圧からの解放を求める作者の想いや、独裁者への批判も感じられる内容となっている。
『息のブランコ』/ヘルタ・ミュラー

詩的な文章の中で戦争により分断される関係と、新たに作られる関係が語られる。ルーマニア在住のドイツ人たちが、第二次世界大戦のまさに終盤というところで、ソ連によって収容所へと移送される。収容所にあるのは一貫した「ひもじさ」であり、仲間の死や境遇への怒り等は「悲惨さ」としては描かれない。しかし、「ひもじさ」はしっかりと主人公の人生に影を落としていく。果ての見えない収容所生活の淡々とした記述。生き延び帰郷しても、どこかぎこちない家族との関係。喪失感。息苦しい、生きることへの閉塞感が静かな怒りを伴って伝わってくる作品。
『逃亡派』/オルガ・トカルチュク

「移動」をテーマに、ミクロな目線からマクロな目線へ、幅広い断章が116本連ねられている。その断章も、小説の体を成しているものからエッセイ風のものまで文体も幅広い。幅広い題材を並列し、同列に扱うことで、根底にある「移動」というものの普遍性が表されている。それぞれの断章については、芳醇な比喩表現や言葉遊びを用いて、細々と、淡々と書き連ねられており、水に浮いているようなふわふわとした心地よさを感じることができる。輪郭のぼやけたそれぞれの断章が、完全には溶け合わず、緩やかにつながっていく。スケールの大きさとその文体に読み進めるのが難しいが、読了した後には、静かに、確かに自分のなかに残る糧となるような作品である。
『農耕詩』/クロード・シモン

フランス革命中の国民公会で何やらなされている議論、スペイン市民戦争中のアラゴン地方と思える戦場、第2次世界大戦中のバルセロナと思えるある市街地、それら3つを時代的・地理的背景として、それぞれの場所、時代に居る3人の「彼」の、決して劇的とはいえない体験が、これ以上ないほど鮮明に語られる。
相互に関連しない登場人物、時間が並列し、一文の中に混在して描かれる。何を形成することもなく、ただ、そこにある出来事、あった出来事が客観的に、緻密に語られていく。その、関連しない相互の話の中であっても、変わらない人の営みや感情の表現は、偉大なものとして胸の中に残っていく。まさにリアリズム小説の粋であり、これを私小説として読むと、読み終えた際に、どうしようもなく儚く、切ない気持ちにさせられる。記述すること自体が「小説」として表れている、そんな作品である。
おわり
近頃は、どのような本が売れているのでしょうか。
↑みてみました。小説というジャンル自体、弱いのだと感じる結果となります。映画やYouTubeはそれを見ながら他のことができますし、漫画であれば、イラストで分かりやすく、瞬時に状況が頭に入ってきます。それに比べて、小説というのは、それを読んでいる間には全く他のことができないです。映画でも倍速で視聴されてしまう時代、せかせかと、”効率的”な方々にはやはり、受け入れられないものだと思います。内容がほとんどないようなビジネス書でも、更にそれを「要約」している動画がアップロードされている現状、文字を読むのは、マルチタスクに適さない非効率な手段として排斥されていくのでしょう。
小説を読んでいるのは、面白い物語を求めている部分もありますが、一種の義務感にかられるところもあります。初めは「『罪と罰』って聞いたことはあるけど、読んでいないのは恥ずかしいな」というようなところから始まったわけです。それまでにも、アニメなどについて、面白いだのつまらないだのと偉そうに言うことがあったわけですが、「ドストエフスキーのような”名の知れた”作家の作品すら読んでいない自分の感じている「面白さ」は、根拠に欠けるな」と思ったのです。
困ったことに、作家の名前を知れば知るほど、”名の知れた”作家の幅が広がっていくわけで、終わりが見えなくなりました。実際、今回挙げた作品の作家は、ノーベル文学賞受賞者が3人いますが、3年前には全く知りませんでした。それでも、ノーベル文学賞というのは国際的な賞であって、その受賞者は”名が知れている”わけですし、「読まねば」と思うわけです。もちろん、ノーベル賞以外にも国際的な賞は沢山あり、賞ができる前の作家にも読むべき作家はいて、果てしなき旅といった感じです。
そうして、まだまだ量が足りていないと感じていますが、ここ最近はなんだかんだ、殆ど毎日小説を読むような日々を過ごしてきたわけです。そんな中で、今回選んだ5冊(特に後半3冊)は、「小説という媒体だからこそ良い」と感じた作品を選びました。また、一応薦めている体なので、まだ絶版になっておらず、入手しやすい作品にしました。せかせかと急ぐのでなく、自分のペースで読めることも読書の特徴だと思うので、”非効率的”な人は是非ゆっくりと読んでください。
今年はフランス文学を読もうと思っています。しかし、かなりきついです。読むのにひどく疲れるし、時間もかかります。しんどいですね。
コムドット やまと『聖域』感想 __生きるということ
はじめに
「コムドット」というのは、リーダーのやまとを中心に「地元ノリを全国へ」「放課後の延長」をスローガンに掲げて活動する5人組のYouTuberである(Wikipedia)。そのコムドットのリーダーのやまとさんがKADOKAWAより、こちらの本を出されました。

タイトルは『聖域』。Youtuberの動画を普段そんなに観ないこともあり、著者のやまとさんのことはあまり存じ上げませんでした。しかし、帯にもあるように「40万部突破!!!!!!」しているらしいです。出版不況と言われて長く経ちますが(バルザック『幻滅』にすでにそのような記述を発見して吃驚しました。)、そんな中で40万部もの売り上げを叩きだしているのですから、面白いこと請け合いです。思わず買ってしまいました。「遅ぇよ時代。」と書いてありますが、こういった現代の先端を行く人の考えに触れることで、その時代に追いつこうと思います。どういったジャンルの本なのか表紙や著者からは分かりませんが、そのような想いを胸に馳せながら、ついにページをめくりました。
内容
ページをめくって、まず目に飛び込んでくるのが「写真」です。おそらく著者のやまとさんと思われる写真が、上質な紙にカラーで印刷されています。しかも、何とそれが18ページもあります。著者近影をそんなに載せなくても良いし、印刷代がかかって大変なのではないか?とも思いましたがKADOKAWAの懐の広さなのかもしれませんね。因みにこの本の価格は1300円(税別)なので、こんなに写真を載せているにしてはすでに非常に安いと思います。
写真ページを乗り越えると、目次があり、この本の構成が確認できます。ざっと以下のような感じです。
はじめに
0章 プロローグ 鈴木大飛を構成する7つの鍵
1章 可能性を解き放て やりたいことの見つけ方
2章 自己肯定感は最強の武器 夢を追うのに準備はいらない
3章 地元ノリを全国へ 人生を誰よりも楽しむために
4章 終わりなき挑戦 時代は自分で引き寄せる
おわりに
それでは、いよいよ内容を読んでいくことにしました。
はじめに
「はじめに」では、著者のやまとさんが『聖域』を書くにあたって何を思っているのかが語られます。『聖域』は、どうやら「夢をかなえる」ということがテーマらしいです。
ここで印象的だった点は、やまとさんの肩書は「革命家」であることの激白です。その部分を抜きだしてみます。
僕の肩書きは「Youtuber」や「インフルエンサー」などが妥当なところだと考えられがちですが、僕があえて自分に肩書きをつけるなら「革命家」です。(中略)これに関してはジョークではありません。心からそう思っています。(コムドット やまと『聖域』KADOKAWA pp. 22)
いきなりの政治思想の吐露に仰天してしまいました。あまり暴力的なことは嫌いなので革命思想には距離をとり、社会民主的な在り方を目指していきたいと考えているのですが、やまとさんはそうではないらしいです。「革命家」の方のいう「夢をかなえる」方法は、暴力も辞さない強権・強硬的な態度に終着してしまわないか、という一抹の不安を抱えながらもさらに歩を進めていきました。
0章 プロローグ 鈴木大飛を構成する7つの鍵
ここでは、やまとさんの過去や、考え方について語られます。副題にある「7つの鍵」というのは、
1.イケメン
2.ナルシスト
3.変人
4.しつこい
5.探求心
6.目立ちたがり
7.ビビり
ということらしく、それぞれの性質について自身のエピソードが語られます。7つエピソードトークが語られますが、それらの中身は、いずれも「他人の眼ではなく、自分の意見をしっかり持つ」ということを語る結論になっていたと思います。
構造的には、「イケメン」、「目立ちたがり」については、立項しなくても「ナルシスト」に入れられるだろうと思いました。また、「しつこい」と「探求心」についてもどちらか一方でよさそうに思います。さらに、「変人」を立項してしまうのもどうかと思います。「変人」というのは、「ナルシスト」や「目立ちたがり」や「ビビり」なやまとさん全体を包括した概念だと思うので、「変人」で立項してしまうと他の立項が意味をなさなくなってしまうのではないかと思います。いずれも同じ結論に至っているのだから、読者としては、情報は少ない方がありがたいです。
1章 可能性を解き放て やりたいことの見つけ方
この章では、「自分のしたいことをした方が良い」ということが書かれています。そして、その見つけ方として「外へ出ろ」・「自分を知れ」という2つの方法を挙げています。「地元ノリを全国へ」を標榜しているやまとさんが「外へ出ろ」というのはなんだか意外でした。
「外へ出ろ」というのは、「様々な体験をしないと本当に自分のしたいことが見えてこないから」という理由からで、実際にやまとさんが行ってきた体験が併せて載せてあります。大学のミスターコンクールに出場したり、短期留学に行ったり、学生企業を企画したりと、正直、「”意識高め”な大学生」のしそうな体験の範疇を超えないようなものばかりに感じてしまいましたが、その結果たどり着いた自分のしたいことが「地元ノリを全国へ」であるなら妥当であるところでしょうか。
「自分を知れ」に関しての記述は、自分の読解力がないのか、何を言っているのかが良くわからなかったです。とりあえず「自分を知れ」ということらしいです。
2章 自己肯定感は最強の武器 夢を追うのに準備はいらない
この章では、目的と目標意識を持って努力することが必要であるということが語られていました。そして、「周りに流されるな、自己肯定感を持て」というようなことが書かれていたと思います。
教えに関しては陳腐に過ぎ、何も言うことはないのです。印象に残ったのは「努力の方程式」という部分でした。
努力の正しい方程式は「量×正しいベクトル」である。(コムドット やまと『聖域』pp. 76)
比喩表現として方程式を用いている文章が好きなので目に留まってしまいました。この定義に従うならば、「努力=量×正しいベクトル」となりますが、それでは「量」と「正しいベクトル」の主語が分からなくなってしまいます。「量×正しいベクトル」で何が導き出せるのかはよくわからなかったです。その後のページでも、「夢がかなうまで努力をしろ」と書いてあるので、結局「量」なのではないかなと思いました。
また、コムドットは「日本を獲る」ことを目標に掲げていますが、どうしたら「日本を獲った」ことになるのでしょうか。「日本を獲る」ための活動としてYouTubeは「正しいベクトル」なのでしょうか、といった部分については一切語られないので、そこも解説があればよかったと思います。
この部分(「努力の方程式」)には、コムドット黎明期に原宿で一人ひとりに声をかけてチャンネル登録者を増やしていったエピソードが書かれていました。2行程度にさらっと書かれていましたが、「テストで何点とった」とか「ミスターコンテストに出場した」とかよりも、こうした地道な努力を続けた経験が今につながっているのだとして、もっと掘り下げたほうがいいのではないかなと思いました。
3章 地元ノリを全国へ 人生を誰よりも楽しむために
周りの意見を気にするなという、何度も書かれた話を除けば、
「コムドットのメンバーサイコー!!!」
という内容でした。ここでまたコムドットのメンバーの写真と寄せ書きが数ページありました。金がかかっています。終わります。
4章 終わりなき挑戦 時代は自分で引き寄せる
・自分がしたいことをしろ
・オンリーワンに成れ
・自己肯定感
以上。
おわりに
アンチなんか気にすんなよ、ということと「日本を獲る」という目標に邁進していく所存が語られていました。頑張ってください。革命でも起こす気なのでしょうか。ラストのページにはまた16ページものカラー写真が掲載されています。こんなにカラー写真を載せて1300円は安いです。
おわりに
読むのが苦痛で途中(序盤)から投げやりになってしまいました。全体として同じことの繰り返しや要領の得ない体験談、記述内容もばらばらで、何を伝えたいのだという感じでした。しかし、この本はクソの役にも立たないような内容ですが、もともとがファンブックなので、そこまで悪い印象を持ちませんでした。アマゾンのレビューにはコムドットのファンと思われる”激推し”の意見とそれ以外(やまとさんに言わせれば「アンチ」なのでしょうか)に分かれています。Youtubeにも、この本を酷評する内容の動画があげられていたりします。そうした反対意見が出ている現状が、まだ健全なのではないかと思います。メンタリストのDaigoさんの本やキングコング西野さんの本は、別に「ファン」に向けたという体ではないのに、ネガティブな意見を書いているブログやレビューを見つけることも難しいですし、Youtubeにも書いていることを無批判に受容し、内容を持ち上げている動画ばかりです。論拠が怪しい主張を、あまりにも具体的な場面に適応し、それが糾弾されないような大半の軽薄なビジネス書に比較して、『聖域』は健全なのではないかと思います。
2021年にプレイしたノベルゲーランキング
はじめに
去年ランキングをつけてみて、それがノベルゲームをプレイするモチベにもなったので、今年もとりあえずつけてみることにしました。今年は感じたことをメモしながらプレイしていて、感想も、それぞれの作品についてプレイ後すぐ書いているので、最低限レビューとしての機能は果たせていると思います。感想を述べる上で、ストーリー展開上で重要だと思うネタバレは避けていますが、個人の匙加減なので悪しからずに。一番最後に目次を載せておきます。
本編
ストーリー、キャラ、曲、グラフィックをそれぞれ9点満点(数字の大きい方が高評価)で適当に評価しているが、作品のメッセージ性やシステム面等、そのほかの点も総合的・主観的に考慮しているため、点数の合計とランキングは比例しない。
以下ランキング開始。全23作品。下位から順に。
第23位 Clover Day's

ストーリー:4
キャラ:5
曲:7
グラフィック:8
後に出てくる『Clover Heart's』が制作会社(ALcot)の処女作であり、本作は会社設立10周年を記念して作られた。『Clover Heart's』と世界観を共有していて、街のCGや学園の制服のデザイン、キャラクターなどが流用されている。『Clover Heart's』をプレイしていなくても大丈夫だが、プレイしているといろいろと設定が引き継がれているところが発見できて楽しい。
CGは綺麗。立ち絵も、キャラごとに多少出来の差はあるものの、妹キャラ2人を中心に、全体的に良いと思う。差分も多い。キャラごとのルートをクリアするごとに、メニュー画面の背景が変化して、流れている曲の演奏される楽器の種類が増えていく演出は良いと思った。
どのルートを選んだかによってキャラ別にOPの演出が別々にあったので、そこは良いと思った。ただ、個別ルートクリア時にEDに移行せず、フリーズすることが何回かあって、幾度かやり直しをさせられたので、そこは気に食わない。OP、EDの曲自体は良かった。
現在の中に、過去の回想が挟まりながら物語は進む。各ルートの節々に、主人公の暗い過去が暗示されるような描写が挟まる。「思い出」がテーマに据えられており、ヒロインはほとんど全員が幼少期から主人公と関係がある。共通ルートでは、各ヒロインと主人公との関係が、現在に至るまで、どうやって構成されてきたか、過去から現在まで、それぞれのキャラクターが、どのように主人公を観て、どのような印象を抱き、それが変化していったのかが描かれる。個別ルートが作品のメインで、ルートは、「加賀美 ヘキル&加賀美 ヒカル」、「竜胆 つばめ」、「結橋 泉」、「鷹倉 杏璃」、「鷹倉 杏鈴」の5種類ある。
「加賀美 ヘキル&加賀美 ヒカル」ルートは、幼少期に転校したが、10年経って戻ってきたという設定。双子の「加賀美 ヘキル」と「加賀美 ヒカル」について描かれる。主人公と付き合うのは、「加賀美 ヘキル」のほうで、「加賀美 ヒカル」は表面上では「加賀美 ヘキル」を応援するも、そのなかで、自分も主人公を慕う気持ちに気付き、さあ、どうするか、という内容。主人公が、「加賀美 ヘキル」と付き合いだすのだけれど、その後中盤まで、主人公の言動が単純な性衝動に由来するものになっており、やめてほしかった。主人公も、そのノリを受容するヒロインも気持ち悪すぎる。終盤の展開も、並。この作品に限らず、双子のキャラを同時に攻略させるルートは、特にこういう正統派学園モノの雰囲気を漂わせる作品では、雑にキャラを消化した感じがして、あまり好きではない。主人公のハーレム形成に対して、周囲の人間が、誰も反対したり、嫌悪感を示したりせずに、「応援する」という立場を採るのは、単純でよくある展開なのだけれど、受け入れ難いものがある。
「竜胆 つばめ」ルートは、廃部寸前の演劇部を再興させる、熱血部活モノっぽい感じに、ヒロインの、主人公に対する想いと葛藤を織り交ぜたシナリオ。シナリオ自体は、ヒロインの葛藤や演劇部関連の話は上手い具合に纏められていたと感じる。しかし、主人公のセリフや、話の展開の一部から、ライターの倫理観を疑うような描写があり、気になった。発情している犬を放っておきながら微笑ましく会話を続ける飼い主同士の描写や、「強姦が許される犬社会はうらやましい」というような主人公の発言がギャグ的なノリで描かれる場面があるのだが、悪意なくこういうことを書いてそうで、無理。他にも、主人公はヒロインと付き合いだしてから、性衝動を所かまわず振りまく言動が増加しており、ヒロインのことを自信の性欲処理のための道具だと思っているのではないか疑わしくなるような描写も多数あった。
「結橋 泉」ルートは、ヒロインとサブヒロインの家庭環境と、それに絡めたヒロインの内面の描写がされる。こちらは、ヒロインの葛藤の描写は良くできていた。それぞれ家庭環境に振り回されるヒロインとサブヒロインの感情や苦労、その二つの関係のシナリオ上での融合のさせ方は良く描かれていたと思う。〆方は微妙に感じたが。
「鷹倉 杏璃」ルートは、学園の生徒会の選挙の話が中心に据えられるが、正直、一番このルートがつまらなかった。シナリオがほとんどこじつけに見える。あと、主人公が気持ち悪い。
「鷹倉 杏鈴」ルートは、シナリオは、家族関係が取沙汰されるのだが、例によって、主人公とくっついた後の話の展開は上の3つと大きな差はない。くっついて、問題が顕在化してきて、それを解決して、大団円。ただ、なぜかラストはヒロインじゃなくて、サブキャラがメインになっていた。あと、主人公が気持ち悪い。キャラデザと声が一番良いので、このキャラがいなかったら途中でこのゲームを投げていた。
個別の感想が長くなったが、概して、個別ルートでの主人公は例外なく気持ち悪く感じてしまい、ハマることができなかった。ヒロイン全員が主人公のことをただただ持ち上げるだけで、恋愛モノとして、対等の関係になっていない。ヒロインと付き合ってからの、ただ乳繰り合っているだけのパートの描写が長く感じてしまったのも面白く感じられなかった一因かもしれない。ほめられるのはヒロインのキャラデザとOP、ED曲だけ。
第22位 春季限定ポコ・ア・ポコ!

ストーリー:4
キャラ:5
曲:5
グラフィック:4
音楽系の学校を舞台とした作品で、演奏することをやめたチェロ引きの主人公(天才)が、必要に迫られて、もう一度合奏を行おうとする中で、自分やヒロインらの過去の葛藤と向き合っていく、といった内容。ミドルプライスの作品で比較的安く、短い。
システム面は良好でわかりやすく、画質もいい。立ち絵や背景は、あまり細かい描写はなされていないが、逆に目立って悪いということもない。価格相応。
話の流れは、シンプルでわかりやすくまとまっていたと思う。下手に長くない分、すっきりしている。コミカルなノリで進む日常パートも読みやすかったように感じる。活動内容は音楽の話であるが、そこまで音楽や藝術について深入りしないので、前提知識は必要としない。
攻略可能ヒロインは「一 桜」、「野々宮 藍」、「悠木 夏海」の3人であり、途中まで共通ルートをプレイした後に、選択で分岐する。「一 桜」ルートについては、重い話をしている中に始まる唐突なエロシーンに驚愕。過去の清算とか、つらい現実からの逃避などといった類ではなく、純愛的な展開が急に始まってびっくりした。また、自分の過去を引きずったり、トラウマを抱えてうじうじとする描写が冗長に感じた。終わりも唐突だったように思う。「野々宮 藍」ルートについては、このヒロインが義妹であり、主人公の家族関係の描写がメインであった。このルートは、微妙な関係になった家族それぞれの立場の想いが描かれていて、感動要素もあり、意外とよくできていたと思う。「悠木 夏海」ルートについては、普通に甘い恋愛系のシナリオがメインで、これはこれでありだったと思う。全体的には価格相応のクオリティだったという印象。キャラはまあ良し。中身が薄いのであまり語ることもない。
第21位 アオイトリ

ストーリー:5
キャラ:5
曲:7
グラフィック:7
接触した相手を幸福な気持ちで満たすことができる(実際には何でもできる)能力を持つ、幽閉されている主人公が、演劇を通してヒロインらとの関係を構築していく話。
会話のノリがうすら寒い。主人公の倫理観には疑問を抱かざるを得ない。その点に関しては主人公自身も作中で自己言及しているので、設定の一部であることを強調して、それを免罪符としているのかもしれないが、それでもなかなかキツいノリがあった。主人公が中途半端にモラリストぶっているのもイマイチで、そういう路線ならとことん振り切った方が良いと思う。この作品の世界観には「理性」が存在していないのではないかと思わされる。あまりにも過剰に人間が本能に流されている。
ストーリーは面白くない。設定のオリジナリティはあるものの、ヒロインの性格付けや主人公との関係の構築に関しては全く凡庸で、序中盤は読んでいて非常に退屈した。問題解決に際しても、主人公の「万能能力」によってすべて解決という流れが甚だ感情移入を阻害していて、各ルート感心をもって観ることができなかった。ルートごとにキャラクターの性格が違って整合性の取れていない部分もあり、また、設定についても活かされていない部分が目立つ。あるルートでは重要な設定を、別のルートでは都合をつけるためか夢オチで済ませる等、ばかげている。それらについて、終盤で一応の説明をつけてはいるが、途中まで説明なしに設定を無視したり、キャラの性格が変わったりするため戸惑うし、その説明のつけ方も投げやりな印象。グランドルートについて、その内容を最後に配置する展開の良さはあったが、この作品で正直褒められるのはそれくらいかと思う。
悪い点を数々上げていった。どの点も致命的に悪いというわけでもないが、そういった細部の綻びが積み重なって、作品全体の”薄さ”につながっているのだと思う。万能能力を持っている主人公はただでさえ御都合主義になりやすく、読み手はノリにくいのだから、そういった細部に注力してもらわなくてはならない。
第20位 アマツツミ

ストーリー:5
キャラ:4
曲:7
グラフィック:7
発した言葉で相手を操ることができる”言霊”の能力を持つ一族の主人公が、人間の里に下り、ヒロインらとの関係を構築していく話。
キーコンフィングは沢山出来て、マウスの挙動でのショートカットも10パターンも設定できる。そんなに使わないが。背景の画像は綺麗で、水面も描写は動きもあって、良かったと思う。キャラデザは、そこそこ好みであった。
各ヒロインの話はそこそこ面白くまとまっており、それぞれのルートでそれなりに散りばめられた伏線も回収されている。それぞれのルートのクオリティに差があまりなく、各ルートの終盤は楽しめた。
シナリオについては、上記に挙げた長所以外はすべてがダメである。まず、キャラクターの倫理観の欠如が挙げられる。同一の制作会社で、先述の『アオイトリ』にもそのあたりに疑義を感じたが、こちらのほうがよりそういった点に関しては強く不快感を覚えた。初っ端から主人公は、自分の能力を使って洗脳し、ヒロインの家庭を洗脳し、家族として受け入れてもらうことにしようと画策し、実行した。これは流石に如何なものか。それでも、「いずれこの関係は終わらせる。」みたいなことを序盤は言っている。しかし、共通ルートが終了した直後に、主人公と同じ能力を使える別のヒロインが、洗脳を上書きして、その「疑似家族」状態は継続されることとなる(ドン引き)。さらに、この作品は、トゥルーエンドまでのストーリーラインが定まっていてかつそのストーリーラインの途中から分岐する形で個別エンディングが複数設定されている、所謂「途中下車方式」が採用されているのだが、トゥルーエンドに至るまでのストーリーライン上で、ヒロイン全員と性的関係を持つことがデフォルトで設定されている。ヒロインもヒロインで、恋愛感情から発した主人公との関係で、肉体関係を持った直後に「恋人としては見れない......」、「このまま友達で......」とか言われても、それを素直に納得して、そのまま何食わぬ顔で和気藹々と共同生活を続けるのもおかしいだろうと思う。
作品全体に言えることだが、倫理観の欠如に加えて、キャラの内面の描写が薄く短いため、感情移入ができない。一応、感動系の話であるのだが、どんな描写をされてもそういった倫理観の欠如がちらつき、どこか他人事に感じてしまう。作中での主人公の成長もあまり感じられない。
駄作とまではいかないが、もっとキャラの作りこみを頑張ってほしい作品。
第19位 Clover Heart's

ストーリー:5
キャラ:6
曲:6
グラフィック:5
主人公が2人で、最初の選択肢によってどちらの視点から物語が進むのかが決まる。序盤は、よくある感じのドタバタラブコメみたいな流れで進んでいく。そういった日常パートからだんだんと主人公らの過去に焦点が当てられて、それぞれが抱えている問題が露呈してくる。それを、ヒロインと過ごすことによって向き合い、解決していくといった内容。
システム面は悪い。音量調整で、マスターボリュームでの調整ができないから、一人ひとり音量の設定をしなくてはならなかった(めちゃくちゃめんどくさい)。テキストの表示も、MAXに調整しても一瞬で表示されるようにならない。未読スキップはできない。既読スキップもできたりできなかったりする。BGMはなぜか10秒でループして、しかも切れ目が不自然だから違和感をめちゃくちゃ覚える(これに関してはバグかもしれん)。曲自体の出来は普通だと感じる。ただ、種類は少ない。
ヒロインのキャラ付けは好き。メインヒロインはパッケージの金髪の双子で、見た目はほぼ同じなのだけれど、性格はお調子者としっかり者の対照的な2人がヒロイン。こんな設定は使い古されていて、ジャンクフードみたいなキャラ付けなのだけれど、この作品をプレイしたのがノベルゲー2か月ぶりで、さらにその間ラブコメ作品に触れていなかったせいで刺さってしまった節がある。立ち絵と声優が良かった。ただ、CGに関しては全体的に安定しない。
ストーリーについては、全体的にあらゆる描写が冗長に感じた。日常パートもだらだらした感じがあるし、主人公が煩悶している描写も、同じ内容を何度も何度も読まされて、話が進まない感じがして疲れる。さらに、2人の主人公にそれぞれ4つずつあるチャプターの内、両方ともにほとんど情事に耽っていて話が進展しないチャプターがある。登場人物それぞれの会話の片隅に、ちょくちょく「過去になにかあった」ことを感じさせるものがあるが、話に起伏のない場面が多く、あまり集中して進めることができなかった。しかも、そうして仄めかされる「過去になにかあった」ことについても、ふたを開けてみれば話の展開にあまり影響を与えないようなものもしばしば。
また、このゲームは「白兎」編と「夷月」編に分岐するのだが、「白兎」編の序中盤、主人公が癇癪持ちで、しょっちゅう逆ギレするし、自分の悪い点を認めずに正当化しようとする。それによって、主人公の過去のトラウマを暗示しているのだとしても、あまり見ていて気持ちのよいものではなかった。「夷月」編は、主人公の行動や人格形成に「いや、そうはならんだろ......」ってなることが多かった。また、ヒロインが主人公に恋愛感情を持つに至る過程の描写が、「白兎」編では多少なりともあったのだが、「夷月」編には、あまりにも存在しない。キャラクターが薄い。
第18位 キミのとなりで恋してる!

ストーリー:5
キャラ:5
曲:5
グラフィック:6
メーカー指定セールのときに抱き合わせで買った。BGMは可もなく不可もなくといった感じ。当たり障りのない印象だが、作品の雰囲気を壊したりするといったこともなく、良くも悪くも「普通」といったところ。OPは、静かで透明感のある雰囲気で、結構好みだった。また、サブキャラである妹キャラの作りは優れていたと感じた。
タイトルからして安易なラブコメ作品なんだろうと思っていた。実際に本編の中身はそのような感じ。祖母に「1週間以内に嫁を作れ」と指令を受けた主人公が奔走して、3人の嫁候補の中から1人を選ぶという展開になる。ヒロインキャラは、「小松 莉奈」、「星野 なぎさ」の幼馴染2人と、急に主人公(陸上の天才)目当てで転向してきた上級生の「知花 涼香」1人。作品の性質上、それぞれの個別ルートの感想を述べる。
「小松 莉奈」ルートは、良かった。主人公と幼馴染で、「自分はそういうキャラじゃないから」という枷を自分で嵌めて、関係を発展させられないもどかしさや、主人公の告白を受けた際のそっけない返事で、これまでと変わらない関係性を表面上取り繕おうとするところはよくできていたと感じる。他のルートでもそういったところを感じさせる描写がされていたので、子のキャラは最後に持ってくるべきだったかもしれない。「知花 涼香」ルートは、雑な印象を受けた。主人公に対して急に積極的になっていくのは、「幼馴染2人には普通にしていてもかなわない」という感情が表されていてよかったが、それ以降は、「私の陸上のパートナーになってほしい」という言葉以上のものがなく、なぜ、それで主人公がこのヒロインになびいたのかが良くわからなかった。「星野 なぎさ」ルートは、望まれてない誕生だとか、サブキャラの重い話が結構されていた。まぁ、サブキャラのこういった話を別に枠を取ってやられるよりはついでにこうして消化してくれた方が、キャラも活きるし、重いだけのつまらない話にもならないからよかったと思う。途中までは、ヒロイン自身の陸上部員としての選手性に話の重点が置かれていたが、途中から主人公の陸上選手への復帰に着眼がされるようになり、キャラのヒロイン性が薄くなっていたように感じる。
全部のルートを終わらせた後の、ED以下の演出については良かったと思う。意外と感動できた。同じ制作会社の『リアル妹がいる大泉くんのばあい』のような感じで、綺麗な演出だった。また、本編とは別についているサイドストーリーについてもよい発想であったと感じる。妹キャラや、主人公の親友枠の話は、本編で枠を取って書いていたとなると、内容が重く、辟易としてしまっていただろう。サイドストーリーとして、別枠でくっつけることで、ミドルプライスの製品でありながらも、キャラの掘り下げができていて、すっきりと纏められていた。ミドルプライスの作品としては十分な出来だったと思う。
第17位 ゴア・スクリーミング・ショウ

ストーリー:6
キャラ:7
曲:7
グラフィック:6
凌辱・グロ・ホラー展開が強調される作りとなってはいるが、ストーリーに目を向けてみると、それぞれのルートを通して、ただ独善的なガキであった主人公の人格や価値観が成長していく様を描いている教養小説チックな面があったり、また、ヒロインの1人である「ユカ」ルートは純愛モノとして見ても面白い作品であった。
ヒロインは5人いるのだが、あくまでメインのヒロインは「ユカ」である。各ヒロインは、主人公に執着する「ユカ」から凌辱の限りを尽くされ、理不尽に惨たらしい目にあわされてしまうルートが多いのだが、「ユカ」ルートを観ると、「ユカ」がどういった想いでそのような所業に臨んでいたのかが明かされる。それは決して複雑な想いではなく、単純で純粋なもので、だからこそこちらに訴えかけてくるものがある。「ユカ」ルートを観た後では、他のルートでの「ユカ」の見方も変わってくる。EDの演出も良く、「ユカ」ルートの最後に流れるEDの歌詞は、「ユカ」の心境を詰めたものとなっており、浸ることができる。このゲームは「ユカ」に対してどれだけ感情移入できるか、好きになれるかが肝で、「ユカ」が好きなプレイヤーなら泣けるだろうと思う。
また、タイトルにもなっている「ゴア」のキャラについても良かった。奇妙奇天烈なキャラで、ただの狂ったキャラクターとしての第一印象があるが、こちらもまた行動原理が単純で、且つ一貫しており、ある種の愛嬌を覚えるようにもなる。また、ふざけたキャラとして幾度となく登場してくるが、それでいてもホラー展開を担うキャラクターとしてしっかりと「怖さ」の演出ができているのも良かった。
強固なストーリーは存在しており、作品として描きたいものがあるというのは十二分に伝わる、良い作品ではあると思うが、パッケージの雰囲気からただよう、凌辱・グロ・ホラー展開等も当然入っているので、確実に人を選ぶ作品ではあるが、この作風でなかったら埋もれていたであろうと思う。
第16位 加奈 ~いもうと~

ストーリー:6
キャラ:5
曲:6
グラフィック:1
田中ロミオ処女作。余命いくばくかの妹と主人公の兄がメインの話で、互いに惹かれあっていくなかにある葛藤が描かれていく。ENDは6つあるものの、どれも大筋はほとんど同じで終わり方だけが異なる。
キャラについて、古い作品であるのでしょうがない部分もあるのだが、立ち絵やCG少なく、攻略可能ヒロインも実質一人のみである。また、立ち絵も結構悪いのだが、こちらは描こうと思えば当時でももう少し行けたのではないかと思う。曲については、数は少ないものの、良い曲がそろっていたと感じる。
主人公への感情移入のさせ方は妙技である。初めは嫌っていた妹を、守るべき対象として見るようになり、やがては恋愛感情を抱くようになる主人公の心の移り変わりの様が抵抗なく読者に入ってくる。話の展開も変に捻ったり衒学的でなく、一本道のシナリオなのでわかりやすい。「泣かせよう」というわかりやすいシナリオの展開で、その中にライターの死生観についてもよく出されており、”ロミオらしさ”というのも十分に感じられた。”奇跡など起こらない現実をどうやって生きるのか”、といったメッセージが語られているのがやはり面白い。
しかし、6つのルートがほぼ同じもので退屈することや、シナリオも些かありきたりな展開に思える部分もあり、そういった欠点もままあるが、エロゲの草分け的な存在なことと、ロミオのデビュー作ということでプレイする価値はあった。
第15位 車輪の国、悠久の少年少女

ストーリー:7
キャラ:8
曲:8
グラフィック:5
『車輪の国、向日葵の少女』のファンディスク。そのため、キャラの設定やBGMは前作から引き継がれている。『車輪の国、向日葵の少女』のヒロインである4人の後日譚と、前作の冒頭で射殺された「南雲 えり」の前日譚。前作の悪役を務めた「阿久津 将臣」(=「法月 将臣」)ルートの6つの話が入っている。
ヒロインたちのルートは、後日譚的な要素なので、全てのルートで、軽い日常系のようなノリで話が進んでいく。ストーリーには基本的に大きな起伏もない。ただ、ファンディスクの在り方としては、こうした後日譚パートでひねる必要はないと思うので、真っ当であると思う。ヒロインたちの声や立ち絵を鑑賞しながら、『車輪の国、向日葵の少女』をプレイしていた時のことを思い出して、懐かしむことができたので、よかった。
しかし、このファンディスクの目玉である「阿久津 将臣」ルートは、アツかった。前作で敵役であった「法月 将臣」の過去や境遇が語られ、その生き様に感動する。前作での面白い部分を纏めたような内容となっている。だれることもなく、一気に最後まで駆け抜けることができたのも高評価である。本作で新たに出てくる敵役や、親友キャラ、ヒロインについてもとても魅力的だった。
ファンディスクなので、前作のプレイは必須だが、『車輪の国、向日葵の少女』をプレイして、面白いと感じた人は、この作品の「阿久津 将臣」ルートだけでもプレイする価値はあると思う。ルートをすべて終わらせると、おまけにギャグのような短いパートが解禁されるので、CG回収にはそれもプレイする必要があったが、あまり面白くもなく正直プレイする必要はなかった。
第14位 あの晴れわたる空より高く

ストーリー:7
キャラ:4
曲:6
グラフィック:5
まっすぐな青春系部活モノ。意図せずに入部することになった部活で、ロケットを作り、大会で結果を出すために主人公とヒロインらが奔走していく。
テキストは読みやすく、テンポよく進めていくことができる。しかし、基本的にロケットを作る部活動をしているシーンなので、製造から燃料、打ち上げまで、結構な専門用語(解説は随時みられるようになっているが)が並んでいるため、慣れるまではそういった用語を確認しながら読んでいたので少し手間取った。
正直キャラの立ち絵は微妙で、声優も棒読みに思えるキャラが何人かいる。「伊吹 那津奈」、「導木 ほのか」、「黎明 夏帆」、「暁 有佐」の4人がメインヒロインとして据えられているが、ルート分岐の影響はほとんどなく、どのルートも大筋は同じで、誰の作業を手伝うのか、誰とくっつくのかが変わる。4人全員のルートが終わった後に、誰ともくっつかなかった世界線の後日譚としてのTRUE ENDの「Liftoff!」ルートとなる。
一番初めにプレイした「伊吹 那津奈」ルートは楽しめなかった。ヒロインである「伊吹 那津奈」は、本当に不愉快であった。まともな言葉を話すことができない。擬音や造語を連発するのを日常生活から行っており、それでいて、「まじめに話せ」と言われると泣き出して、まるでその電波言葉を理解できなかった方が悪いかのようにふるまう。感情論で動いていることが多いのだけれど、そこに電波な言葉で理由付けしてくるものだから、プレイしていてマジでキレそうになってた。
「導木 ほのか」ルートは、会話のテンポはよく、すれ違いコントのようなノリで進む会話が少し冗長と思える部分もあるが、特に目立った欠点には感じず、そこそこ楽しめた。
「黎明 夏帆」ルートに関しては1つのルートとして無難に良かったと感じた。ヒロインも他の3人に比べればキャラとしての欠陥もなく、展開も程よくまとまっていた。
「暁 有佐」ルートに関しては、ヒロインの理不尽な暴力はいささかやりすぎではないかと思うような部分はあったが、4つの個別ルートのなかでは一番アツい展開だったと思う。
「Liftoff!」ルートは、部活モノの王道という感じがして、また、この作品を最後に纏める話としては秀でていたと感じる。綺麗に、爽やかにこの作品が終了して、消化不良感も残らず、良かったと思う。
先述のように、個別ルートはヒロインの差だけで、展開は基本的には変わらない。そのため、この作品は根底にある1本のルートをたどっていくことになるのだが、概して青春部活モノとしての王道のポイントは抑えられており、キャラクターに関してはもうちょっとどうにかならなかったのかと思う部分もあるが、シナリオは無難に良かったのではないかと思う。
第13位 それは舞い散る桜のように

(※ホームページ消失)
ストーリー:6
キャラ:9
曲:8
グラフィック:6
曰くつきで有名な作品。会社の都合等で完全版の追加シナリオだけライターや原画担当が違う等、ちぐはぐになってしまっている部分がある。
序盤、共通ルートにおいての主人公やヒロイン達の掛け合いは流石、優れている。テンポよく、面白い。読んでいて全くストレスがない。キャラクターもそれぞれ魅力的であり、のめりこむようにして進めていってしまう。
中盤は、ヒロインを一人選んでいくこととなるのだが、ヒロインの固有イベントはあまりなく、その間にあるイベントも冗長に思える。ヒロインの心情描写もほとんどなく、どういったところからヒロインが主人公に惹かれていったのかが分かり辛い。
終盤はよくわからない。序盤からそれなりに存在し、特に終盤は、主人公の過去や、母との関係、人間を超越した存在との接触等の伏線が沢山あるのだが、作中で全く触れられない。謎を提示しておきながら答え合わせまでさせてくれない。また、完全版の追加シナリオで増えたヒロインのルートについては、終わらせ方が全く他のルートとの整合性がとれていないように思える部分もあった。
この作品は、そういった致命的な欠陥を抱えているものの、「他者への信頼」や、「悲しみを受け入れていくこと」等、そういったメッセージ性を読み取ることもできる。人は一人では孤独に負けてしまう、だからこそ誰かに頼って生きていく必要があるのだということを感じることができた。描かれきれていない分、考察に幅が生まれ、様々な解釈が可能になっている作品である。しかし、描き切れなかった経緯がライターの意図していない部分に起因しているので、やはりちゃんと完結させてほしかったというのがプレイ後の感想。ちゃんと描き切っていたら3位くらいには入ってもおかしくはないと思う。序盤のキャラの掛け合いやテキストの楽しいノリ、根幹にあるメッセージ性で十分満足した。王孫雀はもっとエロゲを書いてほしい。
第12位 終ノ空 remake

ストーリー:8
キャラ:7
曲:9
グラフィック:9
『素晴らしき日々~不連続存在~ 10th Anniversary特別仕様版』を買ったときに一緒についてきた。むしろそちらを目当てで買った節もあるが。ライター曰く、「『終ノ空』と『素晴らしき日々』をつなぐもの」として作られたらしい。
センテンスや登場人物の言動など『素晴らしき日々』に重なる部分が所々に見受けられる。基本的にはサイケな作品だったという印象。地の文とかキャラのセリフとか出てくる引用などの衒学趣味は『素晴らしき日々』よりも強く押し出されているように感じた。『素晴らしき日々』の前身という印象が強かったが、ストーリー展開は独自なものも多くあり、ラストの2つのENDは唸った。おそらく『純粋理性批判』をしっかり読んでいたらもっと楽しめたのだと思う。
新しい作品だけあって、画質、音質などのクオリティは高い。こういったシステム周りはやはり新しいものほど充実する。BGMも作品の長さのわりには種類が多いと感じる。声優も、短い作品なのにとても多く、こだわりが感じられる。
先述のように『素晴らしき日々』よりも哲学・文学的な表現、また、マニアックな描写が多い。『論理哲学論考』どころか、『哲学探究』、スピノザ、ヒューム、カントなどもちらほら見受けられる(ような気がする)し、ディキンスンやトルストイ等の引用もところどころにある。エロシーンも『素晴らしき日々』よりハード。ライターの「趣味を出そう」という気の強さを感じる。万人受けはしないように思われる。まあ、2万も出してすば日々記念版を買うような奴らに向けた商品であるし、元の『終ノ空』もアングラ的なノリの中で人気がでた作品なので、万人受けは狙ってないのだろうが。個人的には十分に楽しめた。この作品の雰囲気は他の作品では感受できないものがあり、不定期に摂取をしたくなる。
第11位 ISLAND

ストーリー:8
キャラ:6
曲:9
グラフィック:8
放送当時アニメを観たときは4話で切ってしまっていたのだが、60%offセールをしていて、つい購入してしまった。
システム面は概ね良好。フローチャートもあってシナリオの進行具合も分かりやすい。ただ、声のついているキャラのセリフの表示が少し遅くなる点はいただけない。曲については、ピアノや弦楽の落ち着いたBGMはこの作品に合っていてよかったと思う。設定上、海辺や夜のシーンが多いのだが、そういった落ち着いた雰囲気に合う曲が良く作られていた。キャラデザはあまり刺さらなかったが、声優は良かったと思う。CGは全体的に綺麗に描かれていた。背景の描写が特に優れていたと思う。
シナリオについて、全体的に、記憶喪失の主人公が何者かという話と、舞台となる島の歴史や人間関係について話がされる。また、ストーリーの各所に”陰謀”を思わせる記述がなされていて、展開を読みづらくさせている。あまりにもBADエンドが多く、回収が大変だった。序盤からタイムトラベルをにおわせる話で進んでいくのだが、ストーリーの途中から相対性理論を持ち出してタイムトラベル等の理屈っぽい話をされるパートは少し分かりづらかった。
ヒロインは、「伽藍堂 紗羅」、「枢都 夏蓮」、「御原 凛音」の3人。「伽藍堂 紗羅」ルートは、主にタイムトラベルの話がメインになる。ストーリーが進むにつれて、確定的な証拠はないままに、主人公がタイムスリップしてきたことが確定しているような感じで話が進み、そのノリでルートのラストまで行くのは違和感を覚えざるを得なかった。深刻なノリなんだけれども、「えぇ?」って印象だった。スタッフロール後に種明かしはされるので、納得はできたけれど、途中の展開のもっていき方は無理があったのではないかと思う。一方、「枢都 夏蓮」ルートは、タイムトラベルなどの超常現象的な内容は薄い。島の閉塞的な社会の空気感や、その中でしきたりを守らなければならない立場と、「自由になりたい」という気持ちの間で葛藤するヒロインの姿が描かれている。「伽藍堂 紗羅」ルートと比べれば、こちらの方が正道なノベルゲーのシナリオというような感じがする。主人公とヒロインがぶつかりあいながら、互いに距離を詰めていくという王道的な内容であった。
この2人のルートは踏み台で、これらが終わってからメインヒロイン(作中でもそういわれている)の「御原 凛音」ルートに入るのだが、こちらは、くそ長い。初めてプレイしたときは、恋愛関係に至るまでの描写が急で、雑だと感じていた部分もあるのだが、話が進んでいくうちにスケールの大きい話になり、予想していた展開をどんどん塗り替えていった。タイムスリップの話で、途中、理屈っぽい内容になってついていけなくなった部分もあったが、急に予想もしていない、重厚なSFが始まったり、身分の格差を描き出すようなディストピア展開になったりして、先の読めない展開に感心した。感動もした。
サブヒロインのルートも含めて、全体的に伏線が散りばめられていて、大きく広げた風呂敷をよくまとめたものだとは思うが、回収しきれていない伏線や、最後の多少の投げっぱなし感は否めないものがあり、惜しいと感じる。とは言っても、面白い作品だった。
第10位 白昼夢の青写真

ストーリー:7
キャラ:8
曲:9
グラフィック:9
セカイ系っぽい感じの作品。CASEー1~CASEー3の三つのルートを観た後に、最終章のCASEー0に収束し、そこで三つの物語が語られた必然性も示されることになる。
システム面では、UIがCASEごとに変化している等、細部に意匠が感じられ感心した。また、OP映像もCASEごとに作られていて、曲もそれぞれ違ったものになっている。OPはそれぞれのCASEの印象とマッチしており、良かった。
CASE-1~CASE-3は、短編小説のような感じで個別に展開される。それぞれ違った設定の世界観が展開され、そこでの人間関係もまちまちである。それぞれの世界観はメーカーの過去作に由来しているらしいが、Laplacian作品は初プレイなのでそういったことはわからない。
CASE-1は、かつて小説家を志望していた非常勤講師の主人公と、その教え子であるヒロインが、お互いの生活に徐々に踏み込みながら、なし崩し的に不倫関係になっていくという感じの話。こちらのルートは、私小説っぽい気持ち悪さがあって好きだった。まず、高校生に手を出す中年教師という設定が気持ち悪いし、その主人公も退廃的なくせに、一時は、「才能があるものにしかわからない境地があるんだ」とか大衆をさげすむことを言い出したり、ヒロインに飯を奢ったときも、「今はまだ彼女は奢られ慣れていないけど、これからたくさんの男に奢られて、男に金を出させる適当な距離感をつかんでいくのだろう」みたいなことを内心つぶやいていて、キツ過ぎるのがたまらなかった。
CASE-2は、シェイクスピアを模した人物が主人公で、ひょんなことから知り合ったヒロインと一緒に劇団を立ち上げていく話。こちらは、この作品の中で1番好きだった。高飛車なヒロインとそれに巻き込まれる主人公、ちゃらんぽらんなサブキャラがかみ合わないまま演劇をしようと奔走していくうちにだんだん一致団結していくのが、古くからあるエロゲっぽい設定に感じて、刺さった。サブキャラが作中で一番多く登場し、生き生きと役割を果たしていて、それだから日常パートも結構面白く観れた。
CASE-3は、青春という感じ。青春モノと言っても、暑苦しかったり押しつけがましいものではなく、主人公が本当にやりたいことを見つけようとする中で、ヒロインと出会い、恋をしていく、まっすぐな青春譚を呈している。CGは一番良質に感じた。また、雰囲気も明るく、キャラは少ないものの、会話はテンポよく、面白く読める。
CASE-0は、この物語の収束部分。このパートは長く感じる。他のCASEのテンポの良さと比べ、こちらは冗長な部分も多く、また、生かしきれていない設定や、世界観の掘り下げが足りない部分もそこそこ見受けられた。そういった細部を抜きにしても、展開的に、ラストは、お涙頂戴感があって腕くみしながら眺めていたし、主人公の言動にも理解を示せなくなっていった。
文句は言ったものの、この作品は最後のまとめパートで少しトチってしまっただけで、CASE-1~CASE-3だけでも相応には楽しめたし、絵も綺麗で、声優の演技も幅が広く、エロゲとして十分楽しめたので、満足はしている。
第9位 さくらの雲*スカアレットの恋

ストーリー:8
キャラ:8
曲:7
グラフィック:8
きゃべつそふと4作目の作品。この会社の前作の『アメイジング・グレイス』についはプレイ済みで、ライターも同じで前評判も良かったので、発売当初から目をつけていた。
キャラデザと立ち絵のクオリティは素晴らしい。立ち絵は緻密に書き込まれているものが多く、多様な差分もあって、全く崩れることもない。キャラデザの影響でストーリーは大したことのない「萌え」重視の作品であるという印象を与えかねないが、そんなこともなく、ストーリーの方も練られている。
文章はクセのない文体で書かれており、内容も複雑怪奇なものではなく、総じてテンポよく進み、読みやすい。ストーリーの分岐はなく、強制的に1本の道筋をたどることになる。
ストーリーは、大正時代に飛ばされた主人公がそれぞれの個別ルートを経由していきながら、少しずつ現代に戻るために手がかりを入手して、問題の解決に至るという道筋をたどる。主人公は探偵の助手として働くことになり未来の知識で無双していくのだが、キャラに嫌味はなく、すんなりと読めるものであったと思う。所謂「俺TUEEE」系の作品ではない。
全体として、歴史に生じた「歪み」を修正するために主人公は奔走するわけだが、過去を改変することに関して無頓着というか、気にしたり気にしなかったりという差が激しいように感じた。テロの実行犯を事前に警察に引き渡したりしているが、それって大丈夫なのか?と思ってしまうところもしばしば。そういったところも”敢えて”している部分があり、伏線として終盤へつながっていく部分もあるのだが、もう少し葛藤を見せる振りなりなんなりの描写が欲しかった。
全体的に緩やかな雰囲気で進んでいく物語の中に張り巡らされる伏線やミスリードが、シナリオが進むにつれて明かされていくのだが、こちらはよくできていた。終盤は全く予想の斜め上をいく展開に素直に感心。ストーリー展開上で鼻につく表現や引っかかる部分はすべて伏線として回収してくれており、爽快である。内容について全く知らない状態でプレイしたが、それが正解で、とてもよかった。ラストは微妙な締め方に感じたが、それなりに綺麗にまとまっているし、EDのスタッフロールでいい感じに余韻に浸ることができた。満足感が高く、誰にでも進められる作品であることは間違いない。
第8位 BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”

ストーリー:9
キャラ:8
曲:9
グラフィック:9
『BALDR SKY』という作品は2部構成になっており、本作はその前半部分。何人かいるヒロインの内、本作では3人が攻略対象で、残りは後半部分で攻略可能となる。シナリオは一本道のループもののような感じ(後半部分未プレイ時点で書いているので断言はできない)で、攻略順は選べない。ヒロインを一人攻略すると、新しいヒロインが攻略可能となる。その過程で、主人公はプレイヤーと共に失った過去の記憶を取り戻していくこととなり、世界観が徐々に明快になっていく。
世界観は、重く、暗い雰囲気であるが、一人目のヒロインの時点では、主人公は過去の記憶をほとんど何も覚えておらず、どことなく軽い雰囲気を漂わせている。シナリオやヒロインを2人目、3人目と進めていく毎に、覚えている記憶の範囲が増えていき、だんだんと主人公にも重厚な趣や、傭兵としての冷淡さというものが垣間見えるようになってくる。プレイヤーの知っている範囲と主人公の記憶が同期しながら進むので、進めていくにつれて登場人物の言動や思惑に引き込まれていく。楽曲についても種類が豊富で、どれも場の臨場感に合っているように感じた。ストーリーに関しては、壮大なSF系のエンタメ作品としてとても面白く読むことができた。全体通しての感想はこの作品の後半部分に回そうと思う。
また、この作品は、アクション要素があり、敵を倒していくイベントが各ストーリーに約30回ほど現れる。初めは操作に慣れず難しい部分もあったが、技の開発やコンボなども豊富にあって、こちらの要素も楽しめた。難易度の調整もでき、そこそこに難しいのもやりがいにつながった。
難点としては、save&loadが効かず、CG回収やED回収に非常に時間がかかる点である。この作品はED後にも自分の装備した武器等を引き継げるのだが、save&loadには対応しておらず、武器等を引き継ぎたい場合は、一度クリアしたデータで一からやり直さなければならない。ストーリーはスキップできるから良いが、戦闘シーンはとばせないので、プレイしなければならない。これのおかげで1つのEDの回収に40分くらいかかった。さらに、特定の戦闘シーンでの時間経過具合によるCGの変化などもあるくせに、戦闘場面で何分たったか経過時間を見せてくれないため、手元で別途計らなければならなかったのも結構神経を使った。
第7位 さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-

ストーリー:8
キャラ:7
曲:9
グラフィック:9
ファンタジー色の強い作品。魔法や死後の世界、時間超越等の要素があり、スケールが大きく、プレイ時間も長い大作。全体的に幻想的な雰囲気が感じられる。個別ルートメインのマルチエンドの作品ではなく、すべてのルートが一つの終幕に収束していく作品。
この作品で特に優れているのが、BGMと背景である。BGMは、ピアノや弦楽、オルガン等の立体感のある演奏が良かった。どれも場面に適しており、臨場感を高める役割を十二分に果たしている。CGや背景もとても綺麗。光の感触や、ぼかし等、美しく表現されており、透明感の高く、幻想的な作品の雰囲気にもあっている。BGMと背景のおかげでここまで順位を持ち上げているといっても過言ではない。曲と背景であればこの作品は圧倒的に1位であるし、ノベルゲー全体としてもこれを超えてくるレベルの作品はほとんどないと思われる。しかし、キャラの立ち絵についてはあまり好みではなかった。
ストーリーの中身についてだが、評価できる点とできない点がそれぞれ多分にあり、賛否の分かれそうな内容であると感じた。加点しようと思えばいくらでも加点でき、減点しようとすればいくらでも減点できる。
まず、文章についてだが、しつこいほどの傍点による強調や、まどろっこしい言い回し、同じ場面の回想の繰り返しなど、非常にこの部分で損をしている作品であると感じる。BGMや背景は抜群と言ってよく、大筋の幻想的なストーリーの構築と展開についてはそれなりに良いと思っているだけに、こうした点で没入感がそがれるというのはもったいない。
はじめから宮沢賢治の引用からはじまるところ等に象徴されるように、自己犠牲が作品のテーマの一つとして敷かれている。登場人物らは全員何かしら自己を犠牲に他人のためにつくしていくのだけれど、終盤になるにつれて、その無償の情愛が染みてくるようになる。自分がどれほどの思いを抱いているのか、そのために、他人のためにどれだけ自分を犠牲につくせるか、といった心境を描かれると、そういう展開に弱いこともあり、泣いてしまった。しかし、特に主人公の、わざとらしいまでの自己犠牲を被ろうとする姿勢に辟易としてしまう人もいると思う。主人公が自己犠牲を被ろうとするのには理由があるのだが、その理由が明かされるのがだいぶ後半になってからなので、そこまでついてくるのも大変かもしれない。
作品の世界観は非常に凝らされている。過去から未来までが融合する”夜”の世界が作品の主な舞台となるのだが、時間を超越している作品というだけでも非常に複雑になるであろうと予想はできるのだが、それに加えて、”夜のイキモノ”や魔法というような特殊な設定があったりするので、作品の世界観を把握することが難しい。さらに、ストーリーが多人数の視点から同じ出来事が語られ、しかも場面転換が多いため、読者にミスリードさせることを狙った意識的なものにせよ、殊更分かり辛い。実際に、プレイしていて、「なぜこのような状況になっているのか」と、状況把握に戸惑う場面も少なくなかった。これは、あまり集中できていない状態でプレイしていたり、テキストを忘れてしまったりしていることも一因であると思うが、この作品は先に言った通り、冗長なテキストで、プレイ総時間も長い作品であるため、その文章をすべて真剣に読んで覚えなくてはならないというのは厳しいものもあるのではないかと思う。長い作品においての伏線を否定するわけではなく、この作品の文章の冗長さによる、「読むのが億劫だ」と思ってしまうことが状況把握に手古摺ってしまう元凶である。
文句を多く言ったが、割と高順位に付けているとおり、つまらないわけはなく、むしろ面白い作品であることは間違いがない。「テキスト以外を見れば」と言っているが、テキストも、作品として耐えられないというレベルではない。テキスト以外が抜群に優れているため、逆にテキストの粗が目立っている作品である。もったいない。
第6位 穢翼のユースティア

ストーリー:8
キャラ:8
曲:9
グラフィック:8
背景の書き込みやBGMはよくできていて、独特の世界観であるこの作品への没入感を高めてくれる。キャラクターについて、全体的に声優が上手くて良かったのだが、立ち絵に関しては、なんとなく背景に浮いてしまっているように感じた。それほど気になる点ではないが。
「途中下車方式」のストーリーで、一本筋のストーリーの段階ごとにヒロインが分かれる。メインルート以外のヒロインは、目に見える「物」でなく、目に見えないものにすがりながら生きている。家庭の矜持、主人公との関係、信仰、威厳、etc。ヒロインは主人公と関わるうちに現実を直視し、すがっていた虚構から訣別する。そして、柵から解放されたヒロインは、地に足をつけながらも、以前より爽やかに生を実感するようになる。
これらのヒロインの扱い方については、「理由のない理不尽は存在する。しかし、それでも逃げずに、ただそこにある現実を受け入れろ」と言ってくるように思えた。個人的にはそれはどうなのかと思った。物語の役割として、受け止められない現実に対して、それをどうにか受け入れられる形に転換する働きというのが一つあると思う。ただそこにある現実に意味付け(=物語化)を行うことで、どうにかそれを受け入れ暮らしていけるようにするというのは、人間に必要な行為であると感じる。この作品のヒロインは誰しもが理不尽を背負っているが、そこから逃げるために何かにすがったり、意味付けを行うことは至極真っ当で、否定されるべきものではなく、それを「物語」という形式をとって否定的に描いているこの作品は、作品自身の在り方そのものを否定することに近いのではないかと感じた。作品としてはつまらなくはないのだが、そういった部分に不満を感じた。
メインルートの流れは、非常に面白かった。各ヒロインに現実を見るように強要していた主人公もまた、所詮は「牢獄」(主人公の暮らしていた地域の俗称)にすがっていただけであり、その空虚な人間性の暴露と、それを乗り越え、今度は1人の人として、自分の意志によってヒロインを助けに行こうと決断することで、主人公もまた解法されていく流れは非常に面白く、最後の展開も良かったと思う。
書かれている中身は気に食わないが、ストーリーは面白かったと思う。
第5位 MUSICUS!

ストーリー:8
キャラ:9
曲:7
グラフィック:7
プレイ直後は『ISLAND』よりも下に置いていたのだが、思い返すほどに評価が上がってこの順位とした。ある理由から定時制高校に通うことになった主人公が、偶然出会ったロックミュージシャンである「花井 是清」に感化され、更には、バンドに入って演奏するまでになる。音楽と関わっていくなかで、主人公はどう生きていくのかというような内容が、分岐する選択肢のなかでそれぞれ語られていく。
所謂途中下車方式を採用しているゲームで、話の大筋に分岐点が複数存在して、途中の選択によってルートが変わっていく。「尾崎 弥子」、「香坂 輪」、「花井 三日月」の3人のメインヒロインのルートと、もう一つの「BAD END」の、合計4つのルートがあり、それぞれの音楽性の違いによって分岐し、多様な価値観とヒロインとの関係の在り方が描かれる。
「尾崎 弥子」ルートは、ルート単体で見ると平凡なルートである。主人公は音楽を手放し、受験勉強に専念するという選択を取ることにする。しかし、文化祭でバンドを組むというクラスメイトとともに、乗り気でないながらも自身もドラムとして参加することとなり、すったもんだがありながらも、最終的にバンドは成功して、大団円。特に捻りもなく、このルートでの主人公は、文化祭のあと音楽からは身を引き、ヒロインとくっついて幸せに過ごすことになる、よくある感じのストーリーであるといえる。その他のルートでは、主人公は受験に専念するのではなく、むしろ学校を辞めて音楽に専念するようになる。
「香坂 輪」ルートは、主人公がバンドをはじめ、それなりに成功し始めていくなかで、バンドメンバーの「香坂 輪」の過去や人間関係に焦点が当てられながらストーリーが進んでいくことになる。こちらも、キャラクターは良かったもののシナリオとしてはあまり語ることもなく、つまらなくはないが、平凡なルートであった。展開も締めも月並みという印象。
次に「BAD END」をプレイしたのだが、こちらのルートでは、バンドのツアーでそこそこの成功を収めるものの、その後停滞し、売れない日々を送ることになる。主人公はバンドを解散し、一人で音楽にのめりこむようになる。音楽以外の全てを断ち切って出会えたものは果たして何なのか、ということに重点が置かれている。先述した2つのルートとは対照的に、展開も鬱っぽく、全体的に暗い。狂気と孤独にとらわれていく中、それでも微かに残ってしまう人間的な感情の描写と、機械のように音楽にのめりこみ続けていく主人公のEDの演出は一級品であった。
最後にプレイした「花井 三日月」ルートは、この作品のメインストーリーとしての位置づけになっている。「BAD END」と同様に売れない中で悩むのだが、こちらではバンドは解散しない。主人公は「花井 三日月」とともにバンドマンとしての道を歩んでいくこととなる。こちらのルート、展開上、転機が何回かあるのだが、それらのきっかけがすべて他力本願というか、自分たちの内面から出てくるものでない部分を転機としていて、それについては欠点に感じた。バンドが売れたのも、バンドが活動を停止するのも、バンドの活動が復活するのも、すべてが外から持ち込まれた要因によるものが大きく、メインとしてふさわしいのかと感じさせる部分があった。ただ、そういった欠点を持っても尚、良いと思えた。このルートでは、最終的には主人公とヒロインがくっつかない。エロゲに限らず、古くから物語全般において、男女の物語では、その2人がくっついたり、結婚をしたりというところをハッピーエンドとして描いている作品が多くある。しかし、男女の在り方というのは、それだけがハッピーエンドではないだろうというところを掬ってくれている。”友達”だろうが”恋人”だろうが、そこにあるのは同じ人間2人の”関係”であることには変わりはないのだから、呼び名というのはあくまで形骸的な器に過ぎない。そこに確かな”幸せ”が感じられる関係こそが”ハッピーエンド”である。そういった意味でも、”普通”の物語の流れに沿った「尾崎 弥子」ルートとは対照的になってくる。
概して、多様な人物が多様な音楽との関わりを持つ中で、そこに1つ音楽の持つ活力が共通して齎されているように見えた。また、この作品は全体を通して見ると、音楽性の違いといった枠組みを超え、それぞれのヒロインとの関係性、ひいては「人と人との関係の在り方」の多様性を広く認めてくれているように感じた。全ルートにその関係性の、それぞれ違った描かれ方がされていて、そういった視点で見るととても響いてくる内容であった。「BAD END」においての主人公の状況は、外側から見れば救いようのないものに見えるが、それでも主人公は音楽に縋りながら生きていくのであり、「音楽」だけは主人公から失われなかったのである。どのルートでの主人公在り方も否定されず、音楽、人との関係、ひいてはこの世の森羅万象において人により様々な向き合い方があるのだということをまざまざと描き出し、読者に訴えかけてきている。「深く狭く」の人の関係から「広く浅く」の関係に移行していく現代社会に生きる人間には、自分の想像できない、理解できない「人の在り方」があることを認識し、豊かな想像力をもって受容していくことが求められる。
第4位 BALDR SKY Dive2 ”RECORDARE”

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
先述の『BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”』の続きであり、本作で完結する。通してプレイし終えた感想としては、シナリオ、世界観、曲、キャラ、戦闘、どれを取ってもよくできており、エンタメ作品としてとても楽しめた。
記憶を失っている主人公が右往左往しながらもがき続ける様は、何も知らされずにいきなりアクションに駆り出されるプレイヤーとリンクし、徐々に記憶を取り戻しながら、アクション要素に慣れていきながら戦いに臨んでいく。それを幾度も繰り返しながら進めていくと、主人公への没入感は非常に高められる。そうして、ラストのボス戦ではOPが流れるのだが、その歌詞が、今までたどってきた主人公の道のりだけに非ず、膨大なプレイ時間をかけて主人公と共に戦ってきたプレイヤーに対しても入り込んでくるのである。たくさんの戦闘、様々なキャラクターの個々の想いを乗り越えた先に迎えるTRUE ENDは綺麗に纏められている。そこで緊張が解かれて安心できることでカタルシスが生じ、今まで戦ってきた長い時間が無駄ではなかったことに、主人公と共にプレイヤーも救済されるのである。
難点として、先述のようにsave&loadが効かず、CG回収やED回収に非常に時間がかかる。ループものであり、その性質上、同じ展開を何度も見させられる。それ自体は作品のコンセプトであり、そうすることがシナリオ上必要なのだが、ED回収に際して、それに加えて全く同じ展開をプレイさせられるのがキツイ。シナリオジャンプ機能という、任意の場所からシナリオを始められる機能があるのだが、こちらの解放条件は各ヒロインを2周以上攻略していなければならず、戦闘シーンはスキップできないため、苦行である(一応戦闘シーンスキップの機能もあるのだが、こちらは全EDを見ないと解放されない)。また、戦闘に使う武器はレベル上げをしていくことで性能が上がっていくのだが、それが非常にめんどくさかった。レベルを上げるまではほとんど使い物にならないような武器を戦闘で何度も使わないといけない。しかも、もらえる経験値は僅かで、武器のレベルを上げるために時間がものすごくかかる。
前作と通して行うことが前提であり、滅茶苦茶に長い作品で、プレイしている間には、発熱、怠さ、視界のぼやけ等が現象し、生活に支障が出ていたのだが、そのプレイ時間があってこその作品であり、存分に楽しめた。一つの完成形に近いのではないかと思う。
第3位 装甲悪鬼村正

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:9
争いを止めるためには「正義の英雄」が必要なのだろうか。では、「正義」とは何か。「悪」を屠る者が「正義」なのだろうか。しかし、諍い合う両者は、互いを「悪」とみなして争う。互いに自分が「正義」であるとして戦う。「正義」と「悪」に本質的な違いは果たしてあるのだろうか。本作の主人公は、圧倒的な力をもって世界を破壊したらしめる「銀星号」を止めるため、挑み、倒そうとするも、そういったことに煩悶しながら己の道を進んでいく。
この作品はキャラクターが素晴らしい。メインキャラクターからサブキャラクターまで「捨てキャラ」がいない。この作品の主軸を成す、「正義か悪かは見る側の立場に依拠するものなのだ」というのはその通りだとは思うが、いまや誰でも知っているようなことであり、今日までよく描かれたテーマである。しかし、その狭間で悩み、矛盾を感じて苦悶しながら、それでも自分の在り方を信念をもって通す決断して戦っていく登場人物らのその様の描き方が格別であった。作品のテーマは全体に一貫されていて、悪役に見えるキャラクターにも良い部分が、善人に見えるキャラクターにおいても陰りが見える。性格的に「完全」なキャラクターは登場せず、それがキャラクターたちに立体感を与え、だからこそ、読者はそのキャラクター各々の苦悩や決断を重く受け止めることができ、作品のテーマに感じ入ることができる。「完璧」というのはまさしく「夢」なのである。余談だが、主人公らが扱う武器である「劔冑(ツルギ)」も、一つの能力に秀でれば、他の能力を犠牲にしなくてはならない。
戦闘シーンはどれも恰好良く、アツい。特に各ルートのラストの戦闘は鳥肌が立ちっぱなしになってしまったものも多かった。キャラクターが戦っていくなかで、その理由、自身の方針に疑問を抱きつつ、迷いながらも決断し、戦う理由を見つけて決戦するのだが、やはりキャラクターの造形が優れているから、戦いあう両者に共感できるし、納得できる。武装や刀剣等の細かい記述も世界観全体にリアリティを与える。そういったキャラクターや細部が上質だから、クライマックスもしっかり盛り上がる。そうして突き進んでいった主人公の行く末は、ため息が出てしまう。
惜しむらくは序盤であるか。中盤以降はキャラクターにも入れ込み始め、話にのめりこむように進めていってしまうのだが、序盤の展開は少し冗長に思える。事が動き出すまでが地味で、些か退屈してしまう。一応それにも、話の展開上の意味は認められるのだが、もう少し短くても良かっただろう。また、「善/悪」がテーマなのだが、その描き方が一様であったように思える。特に序中盤は、凄惨さを知らしめるための描写には凌辱シーンを入れるか、主人公の「敵」である「銀星号」による大量殺戮を描くかのどちらかだったので、あともう少し他の方向からのアプローチも欲しかったところである。
第2位 ファタモルガーナの館

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:8
記憶を失った「あなた」が謎めいた館の女中に導かれ、呪われた館や主人公、女中が何者なのか等のを解明する作品。前半はオムニバス形式で物語が進み、後半になるにつれ、その物語が1点にまとまっていく。「悲劇と絶望の西洋浪漫サスペンスホラー」と公式は銘打っているが、ホラー要素はあまりなく、心理描写に重点が置かれている。曲はオルガン調の伴奏にコーラスが付けられているものや弦楽の重奏のBGMが多く、どことなく不気味で切なげな雰囲気を漂わせていて、この作品の雰囲気に非常に適していた。また、グラフィックも、あまりデフォルメされていないタッチでかっこいい。
序盤に短編の物語が描かれたのち、徐々に本筋のストーリーへと移行していき、今まで散りばめられてきた謎について回収されていくのだが、全く飽きさせず、予想を超えてくるストーリー展開と伏線の回収に息を巻く。そこで語られる話の内容も悲愴で救いがない。人の純真とどす黒い感情のコントラストがまざまざと見せつけられる展開に、どうしようもなく切ない気持ちにさせられる。とにかく、「人の弱さ」が際立って描かれている。そんな過酷な運命に打ちのめされながらも立ち向かっていく物語は、静かでありながらも情熱を感じさせる。登場人物らのすれ違う互いの善意の感情から生み出されてしまった軋轢と、それを追いかける彼らを襲う悲劇は観ていて憐れになるものであったが、それがあってこそ、最後の展開は感極まって泣いてしまった。人物相互の内面まで描写しているからこそ、没入感が高く、良い作品だった。
また、人間相互の関係性についてのほかに、この作品の一つのテーマとして「弔い」が挙げられる。「弔い」という行為についても、そこにあるのは「死」という現象のみであるのだが、人は、そこに意味を見出す。そこに恨みや許しを請う。それは、人間が今を「生きる」ということに必要であるのだと思う。そのままを受容することが厳しい現実に、ストーリーを与えることでなんとか耐えられるようにする。ただそこにある現象に意味付けをすることで、その現象を受け入れやすくする。そういったことが物語の効能としてはあるのだと思う。死者への悼みというのは実質的に意味のない行為なのかもしれないが、人間が、死に意味を与えることは決して無駄なことではないのだということをこの作品は伝えてくれるように感じた。
セールで800円くらいで購入したのだが、他のフルプライスの作品と比較しても全く引けをとらないどころか、並大抵の作品よりは優れていると感じる。シナリオの構成力は圧倒的で、それ以外にも欠点のない作品。
第1位 俺たちに翼はない

ストーリー:9
キャラ:9
曲:9
グラフィック:7
読んでいて心地の良い文章と、多少の中だるみはあるもののテンポの良い展開、所々に散りばめられた不明瞭な要素が気になり、読み進める手が止まらない。読んでいてストレスがなく、時間を忘れて没頭させてしまう。曲も60曲以上の幅広さで、没入感を高める。サブキャラ含め、キャラが本当に魅力的。コミカルなキャラクター同士の掛け合いは素直に面白く笑えるし、大掛かりな話の展開には息をのむ。そうしたビジュアルノベルとしての外見的な魅力も尽きないが、就中、この作品から読み取れるメッセージ性が非常に良かった。この作品は登場人物の欠陥をテーマに添えられているのだが、その背後には、どんな人にも抱えるものがあるのではないかと思う。
絶対的なものというのはあるのだろうか。複数のキャラクターの目から語られる景色は、同じものをみてもそれぞれ違う物に感じる。しかし、それらはすべて間違っているわけではない。ある人には間違えて見える、意味の解らないように見えることであっても、別の見方からすれば、正しく見えるのである。正解、不正解の二択を迫らない。これは非常に重要に感じる。絶対的な価値観というものが存在しないからこそ、今の自分に何ができるのかを見つめ直し、今の自分にできる範囲での努力を重ねていくことこそが重要なのだと感じさせてくれる。
また、「物語」を読む意義を示してくれている作品であると感じた。他の作品の感想でも述べているが、物語というのは簡易的な現実からの避難所である。現実から逃げても、逃げた先で自分を癒せるのなら全く良いことである。世界はあまりにも冷たく、人はあまりにも弱いものだから。ただ、いつまでも現実に向き合わないままでも良いということではない。社会の構成員として生活を営む以上、いつかは現実に戻らなくてはならない。そうしたときに、心を逃がせる場所がある人とない人では、精神的な苦悩が違う。小説や漫画、アニメ等、物語を読む意味とは何だろうかと考えた時に、そういうことを感じる。人生は長く苦しいものだろう。自分の思い通りにならないことは数知れず、理不尽な苦難に見舞われることもあるだろう。そうして、いざ、自分が辛い現実に向き合わなくてはならないときに、何か、自分を逃がせる場所、自分の辛い現実から目を背けられる場所を手っ取り早く提示してくれるのが、「物語」なのだと思う。「空想と現実の理解ができていない」などというと、悪い印象がある。「物語」にと入り込むというのは、現実から目を背けているようで印象が良くないのではないか。いつまでも現実から逃げるわけにはいかないのだが、それでも、人が向き合い続けるには、あまりにもこの世は大変なのだと思う。いくら辛い場面に直面した場合であっても、「物語」に入り込んでいる間は、そこに集中して、辛い現実は忘れることができる。そうして、いざ、現実に戻らないといけないときに、気持ちを軽くできるのではないか。現実に向き合うための、勇気を、気合を、自分に与えてくれるのではないか。こういうことを、ビジュアルノベルといった媒体で示してくれたこともあり、「物語」を読む意味はそういったことにあるのだと、ひしひしと伝わってきた。「逃げ」をこの作品は肯定してくれているように感じた。「優しさ」を失っていく社会に生きる現代人は読んでおくべき作品であると思う。
終わりに
ここまで読んでもらって、どうもありがとうございます。前回書いた記事よりも作品ごとの文字数のムラが少なくて、内容についてもきちんとした感想を述べられているのではないかと思います。1~3月の3か月かけてそこまで長くない『Clover Heart's』1本しか終わらせられていなかったりと、序盤の失速が痛手で、やる気を出せばもっとプレイできたのではないかと、悔いの残る結果でした。2021年にプレイした作品の中では、感想を読んでもらった人にはわかるかもしれませんが、『俺たちに翼はない』と『MUSICUS!』が一等好みでした。逆に『Clover Day’s』はプレイしていて不快になりました。
今年も面白く、生きていることを実感できるような作品を味わえたので良かったです。とりあえずは『サクラノ刻』の発売までは生きていようかなと思います。
2022年もできそうならランキング付けします。
- はじめに
- 本編
- 第23位 Clover Day's
- 第22位 春季限定ポコ・ア・ポコ!
- 第21位 アオイトリ
- 第20位 アマツツミ
- 第19位 Clover Heart's
- 第18位 キミのとなりで恋してる!
- 第17位 ゴア・スクリーミング・ショウ
- 第16位 加奈 ~いもうと~
- 第15位 車輪の国、悠久の少年少女
- 第14位 あの晴れわたる空より高く
- 第13位 それは舞い散る桜のように
- 第12位 終ノ空 remake
- 第11位 ISLAND
- 第10位 白昼夢の青写真
- 第9位 さくらの雲*スカアレットの恋
- 第8位 BALDR SKY Dive1 ”Lost Memory”
- 第7位 さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-
- 第6位 穢翼のユースティア
- 第5位 MUSICUS!
- 第4位 BALDR SKY Dive2 ”RECORDARE”
- 第3位 装甲悪鬼村正
- 第2位 ファタモルガーナの館
- 第1位 俺たちに翼はない
- 終わりに
『俺たちに翼はない』感想 ——歪な現実を生きる
『俺たちに翼はない』 感想
皆さん、『俺たちに翼はない』というゲームはご存じでしょうか。この作品について、内容を知っている前提で書いている部分もあるため、多少のネタバレや、説明なしにはわからない部分もあると思うので、嫌な人は読まないでください。ただ、ネタバレを食らったからといって、プレイする価値がなくなるような作品ではないと思います。

『俺たちに翼はない』は、2009年に発売された、ビジュアルノベル(ノベルゲー/ギャルゲー/エロゲ)です。非常に有名なタイトルで、アニメ化もされています。そんなゲームを今更プレイしたので、感想を述べようと思います。
「羽田タカシ編」「千歳鷲介編」「成田隼人編」「伊丹伽楼羅編」「羽田ヨージ編」と5つの物語で構成されています。本来は「羽田ヨージ」一人の話なのですが、過去の記憶から逃避するために多重人格を作り出して、5人の人格が一つの体に同居している状態になっています。各ルートは、それぞれの人格の視点からみた話が語られています。
翼のない”俺たち”
この作品は、このような序文から始まります。
ほら、空ってどこにでも繋がってるよね。
どこへ逃げたって、敵はその白い翼でどこまでも追っかけてくるんだ。
だから翼のない彼らは、どこにも繋がってない空を求めていた。
この作品では、主人公やヒロインに目立った欠陥があります、または、ありました。それは、凡そ、現実から逃げていることが問題の原因、または、それ自体が問題となっています。「翼のない」登場人物らは、そうした、「どこまでも追っかけてくる」現実から逃げるために「どこにもつながっていない空」を求めていたんですね。
これは、現実の生活にもいえることです。完全に孤立できる場所はなく、否応なしに、現実は迫ってきます。だから、誰しもそんな現実から逃避できる場所が欲しいのではないでしょうか。
この作品ではルートが入れ替わる際に、各人格から読者に語り掛ける形が採られます。読者もこの分裂した人格の一部としてとらえられています。タイトルの「翼がない”俺たち”」というのは、作品の登場人物の枠を超えて、読者、あるいはもっと広く、この世に生活している人のことを指していて、誰しもがそういった現実から一人飛び立って独立することはできないことを表しているのだとも思います。
”逃避”は悪いことなのか
また、序文では、こういったことも語られます。
これは"たとえば"の話だけど。僕らが君に語るのは、たとえばそんなメルヘン。
それはきっと何処にでもある、ありふれた物語。
この作品は「例えば」の話で、ここで語られるのは、「ありふれた物語」なんです。
主人公「羽田ヨージ」というキャラクターは、自分の辛い現実から目を背けて、沢山の人格を作り出しました。「現実から目を背けている」というのは聞こえは悪いかもしれません。しかし、「羽田ヨージ」は、個室に隔離されているような精神状態だったにも関わらず、そうして、別の人格を形成していくことで、(別の人格になってはいますが)社会性をある程度取り戻しています。”逃避”は本当に悪い結果のみをもたらすのでしょうか。
「辛い現実から目を背けたい」というのは、誰しもにいえることなのではないかと思います。生きているうえでは、自分の思い通りにならないことの方が多いのだと思います。みんながどこかに生きづらさを抱えながら過ごしているのだと思います。時には、自分に耐えられない不条理な出来事もあるでしょう。そうしたときに、心を逃がせる場所を用意しておくことは大切なのだと思います。そして、それが、このような「ビジュアルノベル」、ひいては小説を読む一つの理由なのではないかと思います。いくら辛い場面に直面した場合であっても、その作品の世界観に入り込んでいる間は、そこに集中して、辛い現実は忘れることができると思います。そうして、いざ、現実に戻らないといけないときに、気持ちを軽くできるのではないか、現実に向き合うための、勇気を自分に与えてくれるのではないか、そう思います。そうした”逃避”を肯定してくれているように感じました。
現実と向き合う
登場人物は、それぞれ問題を抱えていましたが、各ルートではそれに向き合ってい、前に進みだしました。「羽田ヨージ」は、自分の母親に重傷を負わせた過去と向き合い人格の統合を成し遂げました。「渡来明日香」は、イマジナリーフレンド「明日夢」などいないのだという現実を受け入れました。「玉泉日和子」は、自身の小説の2作目が売れなかったという現実に向き合い、3作目を出すことができました。「鳳鳴」も、自身の逃避していた学校に通ようになることで、友好的な関係を広げていくことができるようになりました。翼なんてものはもっていない”俺たち”でも、進んでいくことのできる道はあるのです。
逆に言えば、「”現実”に向き合わないこと」は悪なのだと思います。
サブヒロインのルートを除くと、この作品のバッドエンドは、「羽田タカシ」が現実からの逃げ場としていた「グレタガルド」から戻ることの出来なくなってしまうというものです。「羽田タカシ」は、虚実を綯い交ぜにして生きていくことを余儀なくされ、自分でも理解していないままに、妹に手を引かれながら精神科に通い詰めることになります。
これは、「羽田ヨージ」がいつまでも現実から目を背け続けるといった選択をした結果です。”逃避”は現実から目を背けるためではなく、向き合うために行うものなのだということを感じました。
二者択一を求めない
この作品は、メインヒロインのそれぞれにtrueENDがあります。そして、4人中3人は、本来の「羽田ヨージ」の人格以外の、他の人格がメインの人格となって終了しています。しかし、多重人格設定で、本来の人格に1つに戻せなかったら、それは本当に良いENDなのでしょうか。
この作品は、何度も言うように、各人格によってルートが分かれて、それぞれの目線から見た生活が語られます。それぞれの人格で、同じ人物と関わっているにしても、全く違う見方になったり、また、それぞれの人格の交友関係は別々なので、別の人格が憑依している際に、違うコミュニティの人間からいぶかしがられたりします。それぞれの登場人物によって、同じものを見るにしても感じ方が違うということなのですが、それは、決して間違っているのではなく、それぞれ正解なのだと思います。作中でも、
正解はない、どれもが正解だ、おまえの正解はおまえが決めろ。だがまだ決めるな、まだ残ってる、まだ可能性は全部じゃない。
とあります。現実は、自分で決めていいんです。そのため、例え、元の人格に統合できなかったとしても、外見的には問題が解決していないかに見えても、それぞれの目線から見ればそれで良いのだと思います。それが、現実を生き、選択するということなのではないでしょうか。大切なのは、正解、不正解で割り切ることなのではなく、それぞれ、今の自分にできることを精一杯やっていくことなのだと思います。
終わり
読んでくれた人はありがとうございました。自分の思考の整理を兼ねて、メモ的に書いた側面もあるのと、そこまで『俺たちに翼はない』の細部を確認しながら緻密に書いたわけではないので、粗があるかもしれませんが、この作品は面白かったです。