厨ポケ(秘伝要員として)

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2022年にプレイしたノベルゲーランキング

はじめに

 2022年に読了したノベルゲームのランキングです。ちょっとした感想も述べています。

 

本編

 ストーリー、キャラ、曲、グラフィックをそれぞれ9点満点(数字の大きい方が高評価)で適当に評価しているが、作品のメッセージ性やシステム面等、そのほかの点も総合的・主観的に考慮しているため、点数の合計と順位は比例しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第24位 夏ノ終熄

www.cuffs.co.jp

ストーリー:2

キャラ:5

曲:8

グラフィック:8

 

 

 隔離された環境でのボーイミーツガール。疫病が世界を覆いつくした世界で出会った男女の一週間の物語。設定としてはよくある話である。
 作品の内容の外の話にはなるが、パッケージ版で購入してもソフト電池を通した認証が必要となることが良くない。せっかくパッケージ版を買ったのに結局DL版のプラットフォームを通さないとプレイできないため保管場所を圧迫する円盤が一つ増えてしまっただけである。認証が必要なせいで売れないし。
 作品の雰囲気は良いが世界観の掘り下げが不足である。音楽や背景は値段にしてはとてもよくできている作品であるといえる。しかし、ストーリーや設定が欠如している。この作品の鍵であろう世界を脅かしている疫病とやらは動物性たんぱく質の摂取で解決してしまうのであまり危機感を抱けないし、それがどうしてそんなにも猛威を振るったのか等の説得力がない。また、そうした疫病が流行ったことによる人間同士の軋轢等は仄めかされているだけで、詳細は全く描かれておらず、ただ閉鎖的な環境で出会った男女の物語としてしか価値がない作品となっており、あまりにもったいない。何なら、タイトルにもなっている「夏」を感じさせる要素にも不足を感じる。明確に「夏」を感じさせる要素やイベント、雰囲気がない。どの季節でもいい。
 ロープライスの作品で尺の短いのは仕方ないが、物語に起伏もなく、少し物足りない。
 

 

 

第23位 花咲ワークスプリング!

sagaplanets.product.co.jp

ストーリー:3

キャラ:7

曲:6

グラフィック:7

 

 

 SAGA PLANETS(この作品の制作会社)の作品のキャラクターは”萌え”があって好い。立ち絵も豊富で素晴らしい。こうした作品を行うと、日々自覚のない疲れがあるものだと実感する。

 キャラクターの設定や作中の事件は、どれもどこかで見たことのあるようなものが多く、退屈する。最初は勢いがあって期待できると思わせるキャラクターの掛け合いも、ワンパターンを繰り返し、しつこく、飽きてくる。一応「幽霊部」という独自の部活を拠点に話は進んだり、他にも、主人公らの過去に何かあったことをにおわせる描写はあるのだが、そこにはあまり深堀せずに終わってしまう。ストーリーや文体ではなく、キャラクターの見てくれや声、性格などの”属性”で売っている作品だろうからこんなものだろう。

 個別ルートも、伏線もない取ってつけたような進展の仕方や、起伏のない展開にげんなりする。感動もなければ感慨もなく、特に笑えるということもない。ヒロインの抱える問題についても、物語としては下らないように思えてしまうものが多く、どこか冷めた傍観者としての配置でしかいられなかった。

 OP、CG、立ち絵、画質、音質等のシステム面や申し分ないと思う。また、声優の演技も作風に合っていたと思うので、ストーリーについてあともう一捻りあればとてもよかったと感じる。

 

 

 

第22位 ハミダシクリエイティブ

madosoft.net

ストーリー:4

キャラ:3

曲:8

グラフィック:8

 

 

 学園モノで、所謂”キャラゲー”。主人公が学園生活を送る中で様々なヒロインとかかわっていくような、よくある話。

 この作品は、自身にとってとにかく登場人物らの「オタク像」が受け付け難かった。「絵師」だの「推し」だの「Vtuber」をだのを権力者であるかのように崇め、「ソシャゲ」に可処分時間を費やして「ガチャ」の結果に一喜一憂するという主人公の人物像は、自分の嫌いな性質をこれでもかというほどに集めている。その他にも、テキストには昨今のネットミームが大量に使用されており、非常に癪に障る。時事ネタにまで昇華できておらず、記号化された「面白さ」を押し付けてくるただの寒いノリにしか感じない。また、登場人物らは、集団が嫌いだとかなんだと言っておきながら、クラスのみんなからどう思われるかだとか、SNSのフォロワーが何人いるかだの、ソシャゲのランクがどうだの、「他人から見た自分」ばかりを気にしているのもイライラさせられる。集団を嫌うならせめて自分の軸をもって生きろ。

 そもそも、主人公が「推し」だのと言っているのはソシャゲの中のキャラクターで、これがどうも気に入らない。昨今は、ドルオタ、アニオタ等ジャンル問わず「推し」という言葉を使って、自身の抱く対象への好意を表しているように感じる。自分はアニメやノベルゲームのことしかわからないが、殊更アニメやノベルゲームのキャラクターに対して「推し」という言葉を使うことには違和感を覚える。それは作品をキャラクター本位で観ることが前提の表現だからで、そして排他的であるからだ。 もちろん、キャラクター本位で作品を摂取するような在り方は認められよう。しかし、誰に「推す」のだろうか、この表現は「推す」相手方の存在を前提としている。外に、キャラクター本位での作品の摂取を強制している。自身の「好き」という気持ちがあれば他人からの、そのキャラクターへの評価を気にするのはおかしいだろう。自身が核としているコンテンツにすら自信がないから他人に「推」さなくてはならないのだ。先述の「登場人物に自身の軸がない」という部分との整合性はとれているのかもしれないが。自分は、自身の好きなものを否定されるよりも嫌いなものを人に好きだと言われる方が断然嫌であるため「推す」という言葉への押しつけがましい相貌に苦手意識がある。「好き」と言えば済むところを「推し」というあまりに不自然な表現に変形させていて、それがさも当然の言葉として作中で使われているのだから疑問も生じるところである。

 「ソシャゲ」のシステムは、時間をかけて自身の"ウデマエ"を上げれば攻略していけるという仕組みになっていない。初期編成ではどうにもならず、運の要素である「ガチャ」で良いキャラ等を出さなければ話にならないというものがほとんどで、そのために課金を行わせて利益を出すというのが大半の「ソシャゲ」の基本的なビジネスモデルであろう(逆に、そうしたビジネスモデル以外の「ソシャゲ」はここでは問題にしていない)。そういったビジネスモデルにおいて大切なのは、次の課金をどうさせるかということである。重要視されるのは課金のインセンティブとなる「ガチャ」の内容であってゲーム自体の内容ではない。キャラクターの”ガワ”だけ作っておけば、課金自体はされるのだから。どうしてそのようなゲームが「面白く」なりえるだろうか。主人公の行っているのはまさにこの手の「ソシャゲ」であり、それにどっぷりと漬かり、自身に稼ぎもないのに金を浪費している。その幼稚さが辛抱ならない。制作会社の「まどそふと」は確かにカジュアルで所謂「キャラゲー」寄りの作風ではあるが、ノベルゲームのプレイ層にもこのような「オタク像」が受け入れられるということになったということなのだろうか。というか、このような作品を好む層は「ソシャゲ」の暴力性についても無頓着であるからか。良作を駆逐し、ゲームというコンテンツを駆逐していく可能性を秘めている「ソシャゲ」について、どうして無批判にこのような形で扱うのだろう。以前行った『ラズベリーキューブ』でも感じたが、「まどそふと」の主人公はどこか受け付け難いものを感じている。一応中盤以降は比較的そういった面は気にならなくなってくるが、それでも看過しがたいものがある。

 テキスト全体にある難、そして根源的なキャラ付けへの減点を除けば、ヒロインの見てくれは可愛らしく造形できていると思う。おおよその性格の基盤である「オタク要素」が受け付け難かったのでキャラクター自体への評価も上がらないのだが。ストーリーの展開は並である。特に奇抜な部分や秀でたところもなく、こういった作風にありがちな、海や文化祭でのイベントが広げられる。悪いという程のものではない。システム面は機能も多く良好。ただ、良い部分が何点あっても作品の難の部分がもたらす印象の影響が多きすぎる。とにかくテキストのノリが受け入れ難すぎる。「まどそふと」の作品はもうプレイしないかもしれない。

 

 

 

第21位 マブラヴ

muvluv.com

ストーリー:3

キャラ:6

曲:7

グラフィック:5

 

 

 前評判で散々「つまらない」ということを聞いていたのであまり期待していなかったことが幸いしてか、意外と楽しめた。少なくとも嫌いではない。面白いというわけでもないのだが。CGはそれなりに綺麗。立ち絵は時代相応な雰囲気があるが、全身の立ち絵も表示されるし、悪いわけではない。音響も音の発する位置が分かれていて立体感を演出している。

 本作はEXTRA編とUNLIMITED編に分かれている。EXTRA編は学園モノで、良く言えば王道的。ラブコメ作品においてありきたりな展開や設定の連続である。幼馴染や無口、ツンデレ等の属性を割り振られた何人かのヒロインとドタバタ学園生活を送っているうちに主人公との恋愛関係に発展していくという流れは、目新しいものは全くない。むしろ、展開の作り方に無理やりな印象を受ける部分もある。例えば、体育祭での種目中に接触事故を起こした程度でクラスから総スカンを喰らうのは、さすがに無理のある運びではないか。個別ルートに関しても、個々のヒロインについてのイベントに納得感のあるものが少ない。

 UNLIMITED編はEXTRA編をクリアして解放される。こちらは打って変わりSF系の作風となる。EXTRA編での世界観の記憶を維持したままの主人公が終末的な世界観へと放り込まれる。なかなか設定も良く、EXTRA編を先にプレイしているからこそ「もとの世界へ戻りたい」という目的意識を読者が主人公と共有できるようになっている。しかし、説明不足の部分も多く、終わり方も消化不良である。

 演出の仕方等、好い点も少しはあるが、広く言われているように、この作品は続編への導入としての位置づけ以上には評価はできないと思われる。作品単体としては十分に完結した物語とはなっていない。

 

 

 

第20位 ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-

cabbage-soft.com

ストーリー:4

キャラ:6

曲:5

グラフィック:4

 

 

 学園ファンタジー系統の作品。ストーリーは一本道でほとんどキャラクターごとのルートの差はない作品となっている。

 制作会社の「きゃべつそふと」作品に概ね共通することだが、楽曲の歌手と声優が下手である。特に今回のOPは下手だという印象だった。

 テキストはクセがなくすらすらと読み進めていける。作品内ではそこそこむごたらしい描写がある。特に序中盤では、物語の全容が把握できていない分、そのように感じられる部分があった。ただ、作品を通して人の死が最後まで描かれきっていない点が中途半端に軽い印象を与える。流血や殺人描写も暗転を使って表現を行っているだけだったので、それ用のCGを用意するなどしてもう少し凄惨さに振っても良いと思う。

 戦闘シーンが多いのだが、CGが殆ど同じものの使いまわしで全く臨場感もなく飽きる。戦闘シーンが生じるたびに何十回と見たCGを毎度見せつけられるのは興ざめしてしまう。もっと少しCGの種類を増やしてくれると臨場感が出てきてよかったのではないか。というか、そこに金をかけなくては駄目だった。また、戦闘のバリエーションが少なく、殆どが同じような展開で終わっているような気がする。戦闘中の各キャラの成長もあることにはあるが、各キャラクターが1度大きく変化して終わるので、もっと段階を踏んで、戦いを重ねる中で成長しているような演出を入れてほしかった。

 学園ファンタジー系作品の性質としてある程度は仕方のない部分もあるかもしれないが、最後があまりにご都合主義展開になっている。ラストシーンはこれまでの感慨を一切無視した展開に仰天してしまう。

 今までこの作品のライターが得意としてきた叙述トリックをメインとしておらず、戦闘を描いたことによって不慣れな部分が悪く出てしまった作品であったと思う。序中盤は良かったものの、〆方があまりにもったいなく、期待していた分肩透かしを食らった。戦闘の臨場感も全く出ておらず、残念。自作に期待。

 

 

 

第19位 サノバウィッチ

www.yuzu-soft.com

ストーリー:5

キャラ:7

曲:8

グラフィック:7

 

 

  実は初めてプレイするゆずソフト作品。全くの偏見ではあるが、この会社の作品はキャッチーなキャラデザで惹きつけ軽薄なストーリーをおまけ程度に積んでいるものだと思っていたが、想像していたよりはストーリーがしっかりしていたと感じた。会話のノリがうすら寒く感じる部分もあったが、許容範囲だろう。

 こういう作風の作品はシステム周りの環境がとても充実しているように思う。本作も、「お気に入りボイス機能」やテキストの色彩変更の幅広さ等、他の作品に比して優れたものがあった。声優も上手く、キャラクターに適していたと思う。キャラデザも好く、立ち絵も豊富であった。CGも綺麗。

 ストーリーについては、先ほど「思っていたよりはしっかりしていた」とはいったものの、もともとのハードルが低かったので、純粋に面白いかと問われるとそうでもないだろう。よく言えば王道的な内容ではあるが、こうしたノベルゲームをしていると浴びるほどに読んだ展開の連続で、起こるそれぞれのイベント・事件についても、あまり話の中に引き込まれるところまではいかない。各個別ルートについても内容にそこまで差異があるというわけではなく、基本的には同じ構成で、しかも、そこそこ長いので冗長に感じてしまう。会話の内容というよりはキャラクターの見てくれや声で読者に惹きつけるタイプの作品なので、そこまで各ヒロインにも思い入れを抱くけるようなこともなかった。

 悪い作品ではないが、物足りないといえる。シナリオでもっと惹きつけてほしかったが、そういったことを求める層はこの作品の本来のターゲットではないだろうから、つまらないというほどでもないシナリオであったとは思うし、これでいいのだろう。

 

 

 

第18位 星織ユメミライ

toneworks.product.co.jp

ストーリー:4

キャラ:7

曲:8

グラフィック:8



 今時珍しいくらいの”普通の”恋愛ADVだったように思う。主人公の名前を設定できるのも珍しいし、ヒロインとの出会い方も昔のギャルゲっぽさがあるように感じた。高校生で転向した主人公がヒロインと出会い、恋愛し、生活を営む様子が描かれた作品。

 作品の外の話にはなるが、動作の挙動が不安定で、フリーズしたり、画面が点滅したり。セーブ画面が表示されなくなったりする。自身のプレイ環境のせいなのかもしれないが、そういったことがここまで頻繁に起きるのはこの制作会社(tone work's)の作品と別の会社あと一つくらいなのでどうにかしてほしい。

 メインヒロインが6人と多く、CGの枚数も死ぬほどある。しかもそれぞれに個別のED曲が用意されている。OP、EDは好いものが多かった。背景やCGの出来も良くできている。海の魚を採ってきて展示にしているはずなのに、水槽のCGが明らかに淡水魚水槽の描写であるような細かい部分へのミスはあるが、そういうことを気にしているのは自分だけなので問題ないだろう。キャラクターはそれぞれ属性の分担もされており、不快感も与えてこないため良かった。欲を言えば、属性や性格のみでなく、会話の内容やテンション、雰囲気などからもっとキャラクターごとの個性、魅力が出されていれば良かったと思う。そのようなことが出来ている作品はそうそうないのだが。また、ルートを選ばなかったヒロインが分岐後には舞台装置と化してあまり人物としての主張をしてこなくなるのも残念だった。キャラ同士の掛け合いで魅せてほしい。

 ストーリーに関しては、主人公の”人生”を描いている......らしい。それに関しては、高校時代に主人公がヒロインと出会い円満な関係を保ちながら、大学を卒業した後も仕事がとんとん拍子にうまくいき、幸せな結婚をする、というのを”人生”として描いているのが、あまりに欺瞞過ぎて入り込めなかった。主人公やヒロインは、殆どが大した挫折や失敗もなく恋愛や仕事が進めていくので物語に起伏がない。学生生活の枠の中のみで完結する作品ならまだしも、卒業や就職、結婚などの長いスパンでのライフイベントを描いている以上は、その過程で何らかの挫折や苦悩がないと不自然である。また、出会いから付き合うまでの流れが少し不十分に感じる。そこにも主人公らの葛藤は見られないため、結局全てを労せずに上手くいっている主人公の生活を見せつけられているだけの作品になってしまっている。また、全てのキャラクターが高校生からの”夢”を社会人になっても追いかけ続けていることも好きでない。目標をもって取り組み続けること自体は素晴らしいことだとはおもうが、そのような信念と情熱を持ち続けることができる人間はまれであろう。それができることが当たり前に描かれているが、むしろ、そういったことのできない人間の弱さのような部分を肯定してくれるようなルート、高校からの夢をあきらめてしまった主人公やヒロインのルートが一つくらいあっても良かったのではないか。

 この作品は高校生活での恋愛にとどまらず、結婚までの長いスパンを描いていて、実際作品の尺もそうとうに長くなっている。それならば、もっと一人の人間の人生譚としての側面を出して、少しでも葛藤や苦悩などを乗り越える描写があれば良かったと思う。仕事も恋愛も大きな問題なくうまくいっているだけの起伏のない話を長々見せられてもしょうがない。

 

 

 

第17位 青い涙

www.panther.co.jp

ストーリー:6

キャラ:7

曲:5

グラフィック:4

 

 

 人の”情”が描かれる作品。背景や絵は秀麗とは言えないが、セル画風で素朴で温かい印象を与える。キャラクターに声はついておらず、BGMも平々凡々な印象を受ける。また、既読スキップができなかったのは痛い。個別ルートの回収はほとんど同じテキストなのにほんの少し差分があるから、下手をするとまだ読んでいなかった文章を見逃してしまう。

 個別ルートは殆どが同じ展開で辟易とする。ヒロインを変えただけで、ルートの大まかな展開や、それを通して主人公の達する結論が同じであるため、プレイする意味がない。それでいてそこまで面白い内容でもないので、進めるのに疲れる。

 後半の展開についてはよくできていたと思う。人が人を想う”情”の連鎖と不条理な選択を迫られ、悔いるキャラクターたち、そして、その運命を断ち切ろうと藻掻くストーリ―が非常によくまとまっていて、感動できる。互いが互いにどういった感情を向けながら行動をしていたのかということが母と子のそれぞれの目線から同じ状況について描写されるため、安易に家族愛を魅せてくる演出になっておらず、立体感のある感情が演出される。後半は主人公とその周辺の人間関係に絞って描かれているため、主人公のいた村々をめぐっていた複雑な状況はどうなったのかということが描かれずに終わってしまっていたので、そういった周辺の状況の顛末についてはもう少し記載が欲しかった。

 個別ルートに関しては、正直存在意義を感じないのだが、TRUEルートのみで見るとストーリーはとてもよくできた作品であったと思う。総合的にはプレイした価値はあったと思う。

 

 

 

第16位 こなたよりかなたまで

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fandc.co.jp

ストーリー:6

キャラ:7

曲:6

グラフィック:3

 

 

 余命数ヶ月の主人公が、ヒロインたちとの関りを通して自分の人生を見つめ直すというのが主題である。短めの作品だがヒロインは4人で計5ルートあり、気合が入っている作品だと思う。

 キャラクターは、全体に不快感はなく、ヒロイン達にも皆愛嬌があり好かった。立ち絵・CGは些かチープな印象で、曲数も少なく、BGMも単調である。しかし、OP・EDの質は良いし、年代のことを考えると許容範囲ではないだろうか。

 展開が急に感じる場面もいくつかあったが、全体的にはまとまっていたように思う。しかし、ルートのラストは、各ルート全体的に弱いと感じた。特にそれぞれのヒロインと結ばれるルートでは、基本的に主人公とヒロインがくっついて終わりという展開が多く、それならば、各ED後に「その後」として、それぞれの登場人物の心情や境遇がどうなったかというところを一瞬でもいいから描いてほしかった。

 また、欠点として、この作品のファンタジー要素は全くの蛇足である点が挙げられる。一般人設定であるヒロインのルートではファンタジー要素は殆ど出現しない。また、ファンタジー要素と直接のかかわりのあるヒロインのルートでも、それらのルートの中でファンタジーならではの描写は僅かであって、そういった設定に頼らずとも、別の、現実的な設定でも代替できるように思われる展開・演出が多かった。全体的に短めの作品であるがゆえに、碌に使えていない設定を入れるよりは要素を絞って勝負したほうが良かったように思う。

 テーマは好く、それぞれのキャラクターにも光る部分はあったが、シナリオの纏め方でそれらを活かしきれなかった部分があるように思う、惜しい作品である。

 

 

 

第15位 ルリのかさね ~いもうと物語り~

product.hobibox.net

ストーリー:6

キャラ:6

曲:7

グラフィック:5

 

 

 主人公の高校生と年の離れた姪が、ぎこちない関係から気の置けない仲へと変化していく中で与えられる不条理に如何に立ち向かっていくのかが語られる。また、そうした事件を通して主人公の内面の成長が語られる教養小説らしさも備わっている作品である。

 BGMは種類が少ないものの良質だと感じる。CGや立ち絵に関しては少し安っぽさが残る。演出がよく凝らされており、OP、EDの曲の挿入部分や、BGMの入り方が感情を乗せさせ、作品に入り込ませる。

 主人公の高校生という立場は、姪との関係においては「大人」であることを求められるが、精神面において成長しきれているとは言えない。「子供」の部分があることを主人公も自覚的である。しかし、主人公が強制的に内面も「大人」になることを求められたとき、何を想い、何を考え、成長していくのかという過程が語られる。そうしたことがメインに書かれるルートはもちろんよくできているのだが、それ以外のルートもそれなりに感動できるものとなっている。

 展開としてはシンプルな構成ながら、キャラクターの配置や演出で魅せ、感心・感動できる好い作品だったといえる。

 

 

 

第14位 つよきす

www.candysoft.jp

ストーリー:5

キャラ:8

曲:5

グラフィック:4

 

 

 キャラクターが魅力的な作品。ノベルゲームにおいてはキャラクターが最も重要な要素の一つだと思っているので、自分好みの作品だったといえる。ヒロインだけでなく、サブキャラクターまで生かされている。テキストも適度にメタ的な要素やパロディが含まれていて笑える。

 それぞれメインヒロインは「ツンデレ」属性をもっているのが良い。そういうタイプのヒロインが最近減っているような気がする中で、懐かしくもあり、また、プレイしていて楽しかった。

 各ルート、主人公がヒロインと付き合った瞬間から人格破綻したかのように性欲に踊らされているのが受け付けがたい。そして濡れ場の回数が多すぎる。それでいて濡れ場のテキストやシチュエーションは全く新規性はなく、辟易としてしまう。前半の魅力的だったキャラクター同士の掛け合いも、個別ルートの後半に入ると、ほとんど該当ルートのヒロインしか描かれなくなってしまう。そして、その該当ルートのヒロインも会話の大部分が濡れ場に消化されてしまい、まっとうな掛け合いが減ってしまう。実に残念である。人の理性を莫迦にしている。

 キャラクターはよく造形できていただけに個別ルートでの魅せ方をもう少し考えたものにしてほしかった作品である。

 

 

 

第13位 ひまわり

blank-note.sakura.ne.jp

ストーリー:7

キャラ:7

曲:5

グラフィック:2

 

 

 宇宙を舞台に添えたSF作品。キャラクターが皆善人悪人になり切れないところの描写が人間味があって好い。BGMはフリー音源ではあるもののそれぞれの場面に適したものが使われていたと思う。

 スケールの大きなSFを二度読ませる構成が良くできている。一週目はまず部活モノチックなノリで、ドタバタがありながらも部活や恋愛展開をみせられることになる。正直この時点では退屈だが、話を進めていくうちに過去編へと至る。「過去に何があったのか」ということが隠されたまま進んでいたのだが、その謎が徐々に解けてくる。それぞれの登場人物の背負う過去や想い、しがらみの全貌が明らかになったあとに再度同じルートを辿らせる構成は、凝らされている。それぞれの登場人物の背景を知ることで一週目には気が付かなかった部分が見えてくるし、伏線の数々にも気が付くことができて良かった。

 一方、所々蛇足だと感じる部分や説明不足なままに感じる点も残る。宇宙関係の描写においては細かく語られていた一方で、人の感情や言動の描写については疑問の残る部分も多い。一般的に考えてもおかしいと思われる現象に対して説明不足に感じる点が多々あった。また、恋愛描写においても唐突感のあるものが多かったように思う。なぜ、そこまでそのキャラに懸けるのかという背景が空白である。

 なかなか冗長に感じる部分もあり、惜しい点も多くあったが、構成は凝らされており、作品の大筋としてもよくできた作品だったとは思う。

 

 

 

第12位 月の彼方で逢いましょう

toneworks.product.co.jp

ストーリー:7

キャラ:8

曲:9

グラフィック:8

 

 

 OP、ED、BGM、どれをとっても曲が良い。開始数分で、BGMに力が込められていることが伝わってくる。背景も細かいところまでよく描かれていて、それらが相乗して、秀麗で清廉な夜の雰囲気などは特によく出ていたと思う。一方、背景のCGの使い方が手抜きであるようにも感じた。同じ配色で季節感も感じられなかったりと、気遣いが足らずもったいない。

 メインヒロイン3人とサブヒロイン4人のルート構成。サブヒロインのルートは、比較的無難な恋愛展開に発展していくのだが、これらもなかなかヒロインの造形も良く、それぞれタイプも違ったものになっていて飽きさせなかった。それぞれのルートに適度な盛り上がりもあって、良くできていたと思う。

 メインのルートはSF展開が色濃く反映されてくる。複数ライターによる作品らしく、それぞれのルートによって出来に差がある。

 メインルートの2つは、途中、主人公が臭い正義を語りだしたり、幼稚化したりするのは鼻につく。性格が共通ルートと変化していて、主人公が不快で聞き分けのないクソガキになり果ててしまっているのにそのフォローもない。展開にしても、人物の行動原理の説明が足りず、シナリオにおいての妥当性があるのかどうかも疑義が残る。また、シナリオにおいても作者の身勝手さがにじみ出ていると感じた部分もあり、感動的な雰囲気で締めてはいるのだが、いまいち興醒めを感じてしまった。

 一方、感動させる雰囲気づくりは、良質なBGMの挿入をはじめとして効果的に醸し出せていたと思う。メインヒロイン3人のうちの一つは特にこれが優れていて、また、ヒロインと主人公の恋愛展開もおろそかになっておらず、作品の良さが存分に出ていたと思う。

 サブヒロインらとの恋愛展開に重きを置いたルートはそれぞれ見やすく良かったと思うが、メインのSF展開についてはなかなかイマイチだった部分も多かった。総合的には悪くない作品だったと思う。全体的に作品の雰囲気は好きだった。

 

 

 

第11位 すみれ

nekoneko-soft.info

ストーリー:7

キャラ:6

曲:7

グラフィック:6

 

 

 ままならない理想や上手くいかない現実を抱えた4人がネット上で集まり、それぞれとの関わりの中で新しく生まれ変わることを決意していく。

 キャラクターの表情から悩み苦しんでいる様子や悲痛さが伝わってくる絵が多く、現実とネット上での表情のギャップが作品のテーマを表せていた。テーマ自体が奇抜ではないものの、周囲となじめない人間模様の描写の、静かに、滲みるようなテキストと展開に満足できた。主人公の「もはやオタクですらない自分」への自嘲を込めた語り口は、自分もそうなっていくのではないかと思わせる。また、個々のヒロインについても、自己実現のできない様の描写はよくできていて、刺さる。人間の、社会的な側面に対応できない弱さを忘れようとするも、なかなか克服できない葛藤が画面を通して伝わってくる。また、孤独を気取っていたものの、いざクラスメイトにはやし立てられると虚勢を張ってそこでできた付き合いに入り込もうとしていくような様は、割り切れない人間らしさが出てて良いのではないか。

 ただ、シナリオが終盤になるにつれて何が起きているのかわからなくなっていく部分もあったり、結末が描かれ切らないまま終わることもあったので、そういった部分は消化不良だった。

 シナリオ上の消化不良になる部分もあるが、ゼロ年代の全体的な優しい雰囲気を兼ね備えている作品で好印象であった。

 

 

 

第10位 終のステラ

key.visualarts.gr.jp

ストーリー:7

キャラ:8

曲:8

グラフィック:9

 

 

 近未来系SF系作品。アンドロイドの少女と主人公の旅路の中での心境変化を描いている。

 ロープライス作品であるのに、CGや曲が非常に豊富だった。下手なフルプライス作品よりもよくできていたと思う。

 作品の題材自体はいささか陳腐ではあるが、テキストは短いもののまとまっていた。ストーリーはルート分岐などなく一本道である。話の起伏も程よくつけられており、丁寧につくられていた。主人公とヒロイン一人の物語を語るからこそ余計な情報やキャラクターもなく、スッキリと話に入りこんでいけた。逆にフルプライス作品だとしたら、ルートによる出来の差異や余計なキャラクターの蛇足な部分ができていただろうから、これで良かったのではないか。

 締め方への不平がないわけでもないが、関係性の中の”優しさ”の物語が好い。本能と理性が対照的な概念ととらえられがちであるが、この二つはそうそう割り切れるものでもないだろう。”人間性”などというものは人間自体にもそこまではっきりと捉えられるものではなく、割り切れないのが人間である。そのうえで、そのまま他者とのつながりを紡がなくてはならず、そこにある”愛”や”関係”をただ肯定していく必要があるのであろう。

 

 

 

第9位 腐り姫 ~euthanasia~

www.liar.co.jp

ストーリー:7

キャラ:5

曲:8

グラフィック:7

 

 

 田舎町を舞台とする伝奇的な作品。記憶を失った主人公が療養のために田舎町で過ごすが、そこにある自信をめぐる因縁や整合しない記憶等に翻弄されながら進んでいく。

 頽廃的な田舎町の雰囲気が可憐に描かれる背景から伝わってくる。また、BGMも郷愁的で美しく、よりその雰囲気を感じさせてくれる。ふんわりとした腐った甘い匂いが画面から出て伝わってきそうなほどである。

 読み手は主人公と同様に何も知らされないままに物語は進んでいく。徐々に明かされていく登場人物の暗部と話の全容。田舎町においての閉ざされた人間関係の中、皆優しいはずなのに、記憶を失った主人公に対してどこかよそよそしい。そういった関係性の魅せ方、演出の仕方が非常に良かった。話の終盤には突飛に思える展開や設定も出てくるが、そういった部分を気にさせない、主人公の本能的な行動原理の一貫性と作品を包む切なさや雰囲気が作品をレベルの高いものに昇華している。

 同じ話を繰り返すうちに失われた情報を徐々に取り戻しながら進めていくので、なかなかに複雑で理解のしにくい部分もある内容ではあると思うが、作品全体としての雰囲気づくりが素晴らしく、その一点だけにおいても目を見張るものがある作品だった。もちろん内容自体もつまらないものではなく、総合的にも良い作品であった。

 

 

 

第8位 きっと、澄みわたる朝色よりも、

www.propeller-game.com

ストーリー:7

キャラ:8

曲:8

グラフィック:9

 

 

 開幕一番、画面に映える紅葉の描写がきれいである。季節を題材とした”夏ゲー”、”冬ゲー”等呼ばれる作品は多くあるとおもうが、「秋」を主題とした作品は珍しいのではないだろうか。

 キャラデザが非常に”萌え絵”という感じがしていい。会話のノリが古臭く、コミカルさがわざとらしく強調された会話が耳になじまなかったが、年代的には標準はこんなものだろう。また、タイトルが章ごとに変わっていき、最後に一つの文章となっていく演出は次章への期待を高めてくれ、良かったと思う。

 作品では「優しさと、それに伴う痛み」が語られる。実に”秋”らしい。絆や友情と形容してはあまりに陳腐な、”愛着の場”が描かれる。なぜ、主人公が幼少の頃のつながりをそんなにも大切にするか、等裏付けの描写がしっかりあって好かった。また、主要な登場人物はそれなりに数がいるのだが、どのキャラクターも確固たる意志を感じられるため、それほど混沌とすることもなくスムーズに進められた。しかし、何度も作中に挟まれる「主人公が衒学的に知識を見せびらかすシーン」だけは全く必要性を感じないし、勘弁してほしい。

 「矛盾。それがこの世界。『人間そのもの』」と主人公が述べている通り、登場人物が全員優しく、だからこそ優しさだけではままならない想いや葛藤、軋轢の解消が問題となっていく。しかし、だからこそ、生じたその軋轢等を”優しさ”で解消しようとする様は温かく、好かった。

 作品の根幹にかかわるため触れないが、その性質上不満点や矛盾も感じられるため手放しでは褒められないが、少なくとも好きか嫌いかと問われれば好きな作品となった。

 

 

 

第7位 CARNIVAL

(※公式ホームページ消失)

 

ストーリー:8

キャラ:8

曲:8

グラフィック:8

 

 

 同一の事件が三者の目線から語られることにより、徐々に真相が明るみになっていくという群像劇の形式を採った作品。そのタネ自体は特に目新しい設定等はないが、その流れでも面白く魅せ、更にテーマ性を見せつけてくるところが瀬戸口作品といったところか。

 一見して奇抜に見えるストーリーの展開は意外と単純で、殆ど一本道の内容となっている。素晴らしいテキストは体に染みわたり、決して読みやすく書いてはいないだろうに、すらすらと自然に読み進められる。ストレスなく読める文章というのはこういうことだろう。

 人生の中で、人としてできることは「生きること」である。つまり、生まれたからにはただそこにある自身の「生」を全うしていくしかないのである。それが、どんなに不条理な状況に見舞われ、自分が望んでいな状況だったとしても、そこに与えられた人生を歩んでいくしかないのである。人生における不安や悩みは、それが解決されることによってではなく、考えなくなることによって解消される。だから幸福に生きるしかないのだ。人としての尊厳を破壊され、絶望的な状況になっていく中で、それでも自身の「生」を引き受けて歩みを進めていこうとするキャラクターの姿が短い作品の中でよく描かれていたと思う。

 悪かった点としては濡れ場の展開が全て唐突すぎるだろうということくらいであろうか。短い中に、無駄なくメッセージ性が込められている作品だった。幸福に生きよ!

 

 

 

第6位 殻ノ少女

www.gungnir.co.jp

ストーリー:8

キャラ:9

曲:9

グラフィック:9

 

 

 戦後の東京を舞台としたサスペンス・ミステリー作品。サスペンス、ミステリーどちらの要素もよくできており、文章も読みやすく後半になればなるほど読み進める手が止まらなくなってしまう。終盤になり一気に謎が解けていく様は感心してしまう。

 グラフィックとBGMが秀麗で、透明感のある作品の雰囲気が非常に良く演出できている。春先の、まだ少し寒さの残るその空気や匂いが画面を超えて香ってくるような、それほどの臨場感がある。

 サスペンス作品としては、猟奇的なシーンの描写の筆致も鮮やかで引き込まれる。そういった描写が視覚的、聴覚的な部分も併せて表現できるのはノベルゲームの特権であり、小説や映画、アニメではここまでの直接的な表現はできないだろう。また、主人公の目線からみて予測可能な悲劇であってもそれを回避するのにあと一歩届かないというような精神面での追い込み方も一級品である。メインヒロインの造形もまた素晴らしく、これから主人公が三部作にわたって囚われ続けるのも納得してしまうような、どこかはかなげで危うい雰囲気を醸し出しているような、そんなキャラクターを生み出していることが凄い。

 ミステリー作品としてもノベルゲーADV作品という特性が生かされていて良いと思う。探偵モノということもあり、選択肢が豊富で、その選択によって様々なエンディングに分岐する。複雑に入り組んだ話をそれぞれの選択においてよくまとめていると思う。多少強引に進められているように感じた部分もあったが、十分満足。

 システム面においては不満が少し残る。既読文の色変えやエンドロールのスキップができない。また、エンディング、CGの回収が非常に面倒くさい。選択肢による分岐が滅茶苦茶に多いので、自力で集めるのはほとんど不可能に近いだろう。

 テキスト、BGM、グラフィック等、ノベルゲームに必要な要素が高水準に定まっていてとても良い作品であった。三部作の第一作目であって、この作品だけではまだ消化不良であるため次作にも期待。鳥は卵の中から抜け出ようと戦う。

 

 

 

第5位 虚ノ少女

www.gungnir.co.jp

ストーリー:8

キャラ:9

曲:9

グラフィック:9

 


 前作『殻ノ少女』の続編。前作に引き続き、絵、音楽、テキストによる雰囲気作りが素晴らしい。ノベルゲームという媒体を本当に生かしている作品だと思う。しかし、挙動が不安定で急に落ちたりフリーズしたりする頻度が高く、それについては勘弁してほしかった。

 膨大な数のキャラクターと様々な場所、時間で起きる事件が徐々につながり、一つにまとまっていく。猟奇描写等の狂気の描き方は前作よりもマイルドになっているが、シナリオとしてはこちらの方が楽しめたし、筋が通っているように思う。エンディングの分岐も前作より複雑でないので、すっきりとした印象を受ける。

 先ほども述べたように、猟奇描写や設定は前作に比べて弱い。TRUE ENDのラストは、特に前作を行っていれば、読者も主人公と同じように感情が揺さぶられるものになっていた。しかし、今作のメインの話は主人公とは一歩引いた立場の人間関係に焦点が当てられており、本作から出てきた登場人物のコンテクストを意識した感動(本作単体での感動)は少々薄い。作品が独立して楽しめるという側面もあるだろうが、三部作と銘打っている以上は前作の文脈がもう少し話の中でも意識されていてはどうかと思う。次作において、本作の内容も回収されるのであればそれで良いが。

 パラノイアに囚われた猟奇殺人犯を追う主人公。その主人公もまた前作のヒロインの影に執拗に囚われている。前作では言及されていなかったが、主人公が執心しているヒロインは学園の”中等部”の設定であったことが判明したのでさすがに引いた。それゆえ”偏執”と形容されるのだろうが。

 三部作の途中なので、次作でどのように最後をまとめてくれるのか期待している。卵は世界だ。

 

 

 

第4位 BLACK SHEEP TOWN

blacksheeptown.com

ストーリー:9

キャラ:9

曲:9

グラフィック:9

 

 

 あまりに巧みな群像劇。多数のキャラクターの行動や考えが折り重なり、それぞれに影響を与えながら収束していく。大規模なプロットとそれをまとめ上げたことにまず脱帽する。音楽や絵柄も作品のノワールな感じに適しており、とても良かった。また、この作品は一方通行のシナリオなのだが、その開放順や用語解説機能なども読み手に配慮された作りになっていて、多数のキャラクターや複雑な話の相互の関連を理解しやすいようになっていた。

 作品のテーマとして一つ「死生観」があげられ、様々な側面からそれが語られるが、あまり衒学的にはならず、純粋に娯楽作品としても楽しめるのも高評価のポイントである。

 歯車のような形態でかみ合う社会で、本質的に独立した”個”などない。それぞれが選択し、変わり、終わる。作中、様々な死があふれているが、死に逝く人々の全てにドラマがあり、意味があり、感じ入る部分がある。選択一つ違えばその”死”はなかったかもしれないが、そうしたifを考えることは、無意味なのだろう。その死が、それまでの”生”に意味をもたらしている。惜しむ気持ちと同時にそこには一種の満足感が与えられる。そして、選択の結果がどうであれ、生きている限りはその結末を引き受け、”生”を肯定していかなくてはならないのであろう。一縷の希望にすがりながら。そこに多少の善悪があろうとも、また明日が来る。

 決して明るい内容ではないが、絶望的な状況に静かな温かさや希望が与えられるような、しっとりとした作品である。今日も太陽は東から昇ってくる。

 

 

 

第3位 SWAN SONG

www.saibunkan.co.jp

ストーリー:9

キャラ:8

曲:7

グラフィック:8

 

 

 様々な人間の目線から多角的に語られる様式が、群像劇として現前する。同じ物事をとらえるにあたって、その人物の過去、経験から印象が変化し、結果、生まれるすれ違い。極限状態の中においては、あらゆる行為が正当化され、倫理が失われていく。自身の本能のために奪い、犯し、互いが互いの敵となる。やがては獣のようになりゆくその生物を、果たして「人」と呼べるのだろうか。人が人として生きるということはどういったことだろうか。

 余裕のない中の生活で、意識させられる他人との差異。そこから生まれる軋轢は、過激化し、とめどなくなっていく。その中で、何かにすがりたいという気持ちはごく自然であろう。宗教をヒステリーだと莫迦にする人たち、そうした人たちも、特定の敵を作って、共通の認識に寄りかからなくてはならなかった。宗教を莫迦にしていた者たちでさえも、様々な形で信仰に回帰していく様は、ドストエフスキーを思わせる。信仰は、苦しい状況にある人にとって、理性暴力的行使ブレーキとなり得る。また、神を信じず、信仰を憎み、敵対するようになった人間も、最後には信仰に回帰していくのである。

 そうしてふと現実を見ると、まるで同じ問題に立ち向かわされる。自身と違うものを排除しようとしていないだろうか。自身の正義絶対的なものだと信じ、それを振りかざしてはいないだろうか。「正しさ」が相対的ではないのなら、何を信じ、生きればよいのか。きっと疲れている今の世は、わかりやすい「指針」を求めている。間違っているものは糾弾すべきだ。犯罪者は排除すべきだ。大義名分をもって、正義の名のもとに行う罰の執行者にみんながなりたがっている。でも、世の中〇か×かだけには決められないだろう。だれが「正しさ」を決定するのだろう。自身と相手が違う存在であるということを理解し、折り合いをつけながら関係を築いていく営み、これこそが人が人としてある条件の一端なのではないか。人は他者を”想う”ことができるのだ。

 

 

 

第2位 天ノ少女

www.gungnir.co.jp

 

ストーリー:9

キャラ:9

曲:9

グラフィック:9

 

 「カラノショウジョ」シリーズ三作目。この話で今までの締めくくりとなる。三部作のラストとしてふさわしく、良い決着の仕方であった。

 引き続きCGやBGMは一級品である。今までのミステリー・ホラー路線は変わらないものの、事件の背後にある思想や因果は前作よりも意外性はなく、細かい内容や登場人物の荒はある。この作品を単体で見るとなるともっと低い評価になるだろうが、三部作の最終章という立ち位置においてあのラストシーンを制作しただけでこの作品は満足できる内容であった。

 長く苦しい事件を追いかけ、失ったものは数多く、得られたものは僅かであった。僅かに残されたものに目を向け、踏ん切りをつけ、新たに歩み始めた主人公。それでも心のわだかまりは残るが、時がその傷をゆっくりと癒していく。そこから約10年の時を経て、自身の行ってきたことが全くの無駄には終わらなかったのだということを感じ、カタルシスを迎えるのである。今まで追いかけてきたヒロインとの思い出のフラッシュバックを感じると同時に、そのヒロインとの訣別を実感し、”これでこの物語は終わったのだ”と自覚する。主人公も読者も。ラストの挿入歌や独白の調子は本当に、今まで作品を行ってきた人ならば自然と涙がこぼれてしまうだろう。一作目の『殻ノ少女』におけるメインヒロインの造形が非常に優れており、だからこそ、主人公が揺さぶられている様にも共感できるし、感動できる。あれを見たら放心してしまう。

 一つの長い物語に区切りをつけ、新しく始まっていく物語への嚆矢となる。失われた過去の人の想いを背負って、今を幸せにしなくてはいけないのだ。生まれようとするものは、一つの世界を破壊せねばならぬ......しかし、その先に続く新たな道を、確かに、歩んでいくのである。

 

 

 

第1位 マブラヴ オルタネイティヴ

muvluv.com

ストーリー:9

キャラ:9

曲:9

グラフィック:8

 

 

 前作『マブラヴ』の続き。前作はプレイ必須。そうでないと作品が浅いものになってしまう。前作では十分に語られているとは言えなかった緻密な世界観の設定と前作からの怒涛の伏線回収には息をまく。一方複雑な設定や場景の説明に非常に長い時間が割かれてしまっているのがいささかの欠点であろうか。戦闘シーンはCGや動画の挿入といった演出も相まって非常に緊迫感のあるものとなっている。

 主人公をはじめとするキャラクターたちの成長をメインに添えられたストーリーである。前作の段階から積み上げてきた”想い”が作品を進めていくうちに反響してくる。その増幅は主人公だけにとどまらず、主人公と同じ道を辿り、歩んできた読者を引き込んでいく。

 進める度に、主人公の目的意識がさらに掘り下げられていく。なぜ戦闘を行うのか、何のために争うのか、その理由も人により様々で、どこにも一つの正解はなく、自身の決意も揺らいでいく。そうした様が良く描写されている。また、主人公だけでなく、周りのキャラクターたちも同様な精神的な成長を果たしていく。絶望し、藻掻き、立ち上がろうとする、そのようなキャラクターの魅せ方が上手く、だからこそ得られる哀愁が感動的によく作用してくれる。とにかくキャラクターに対して得られる深み、思い入れが並ではない。

 何度も繰り返すが、前作を含めて長いストーリーを主人公と共に歩んできたからこそ主人公に共感できるし、最後の展開にも非常に感動でき、カタルシスが生じる。長い作品であることを最大限活かしている作品で、非凡であることは間違いない。

 

 

 

おわりに

 ここまで読んでくださった方はありがとうございます。キャラを名指しした解説を極力省いたので、去年のものよりも総合的な感想になっていると思います。ただ、キャラクター名を出さずに感想を書くことは作品によっては適していないので次書くときにはいっそのことネタバレを思いきり行いながら、もっと批評的に書いてみるのもいいかも知れません。

 文字数も昨年のものより少なくなっています。よほど面白かったりつまらなかったりする作品は語りやすいのですが、今年は「中の中~上の下」くらいに感じた作品のプレイが多く、感想を書くのが難しかったような気がします。自分の感情を揺さぶるような作品がなくなってきたのでしょう。有名作品からかたっぱしプレイし続けていればそうなってきます。しかし、些細な作品の良さを見出して、そこを掘り下げ、表現できるように目指さなくてはならないと思います。どのような作品であってもどういったところに自身が価値を見出したのか、あるいは、どういった部分に憤りを感じたのか、そういった感情をうまく見つけ、表現できるようになりたいものです。そして、結構これらの作品を行うのに時間を使っているはずなのですが、月平均にするとどうしても2本程度にとどまってしまいます。不思議です。

 今年は『BLACK SHEEP TOEN』という大きな新作があったのが良かったです。『ジュエリー・ハーツ・アカデミア』は期待していただけに残念でした。『それは舞い散る桜のように』のリメイクと『サクラノ刻』も2022年発売予定だったのが、しれっと2023年に延期されていました。決して安くない金を出すのにも関わらず、平気で発売延期を行い、ともすればそれを繰り返すノベルゲー界隈の風潮はどうにかならないものかと思います。

 

 

 

以上